「このコーヒーはフェアトレード製品です。」 「この音楽機器は、環境に優しい方法で製造されています。」
「この布は農薬無使用のコットン100%です。」
見た目には何の変化もない製品に、こうした言葉が添えられて、店頭に並ぶようになったのはいつ頃からでしょうか。これらは、私たちが無意識のうちに、見た目の美しさや技術だけでない選択基準を持ち始めた証でしょう。

地球規模での危機が唱えられ始めてから数十年。私たちの消費の有り方は確かに変わりはじめています。
大量消費社会の中で、企業の打ち出す広告に操作され続けてきた消費者が、地球に暮らす一市民としてしっかりと意思をもって、より良い社会を選択していこうとしている。そんなことの予兆のようにも感じられます。

しかし、効率だけを考えて生産された製品と、環境や労働者への負荷を考慮し、丁寧に製造工程を歩んできた製品とでは、値段に差が生まれてしまうのは当然のこと。より多くの人、社会に浸透していくには、まだまだ不十分です。

店頭に並べられた製品が、どのような物語を持ってその場に並んでいるのか。消費者が、その物語にいかに「共感」するか。製造者、消費者、地球、その全てにとって心地の良いモノ作りのキーワードのひとつが、「共感」です。

今回のセミナーでは、「共感される仕組み」について、ロフトワーク代表、諏訪光洋さん、ソーシャルセンシングラボ主宰の井上岳一さんのお二人をゲストスピーカーとしてお招きし、ディスカッションを行いました。

 ―会社の中で生まれる共感性― 
ロフトワーク代表 諏訪光洋さん

3*3ラボ第五回セミナー:諏訪 光洋氏

ロフトワークは、クリエイターと連携し、社会に様々な新しい価値を生み出しています。(例えば、「地方の名産品」と「若手クリエイター」を繋ぎ、リデザインするプロジェクト、「Roooots」など。)
クリエイティブにより価値を提供しているロフトワークですが、社内にクリエイターと呼ばれる人はおらず、実際に生み出しているものはプロジェクトです。

 ―見える化 Open Creative Network

社内には、SaaSを中心にたくさんのプロジェクトマネジメントのためのツールが導入されているそうですが、これらの全ては「見える化」するためにあるのだそうです。長期にわたるコミュニケーションやタスク管理が必要なプロジェクトを「見える化」する。そしてコミュニケーションの「見える化」も積極的に行われ、それが社内の共感を生むしくみになっているのだそうです。

例えば、iPhoneユーザーであればお馴染みの、「Facetime」。
これは、テレビ電話のようなものですが、ロフトワークでは、これを内線として使用しているそう。言葉だけでは伝わらない、通話相手の状況と表情を見える化した、新しいコミュニケーションです。

3*3ラボ第五回セミナー:諏訪 光洋氏

アイデアは、それが平凡であろうと革新的であろうと、結局は一人一人の「知」の組み合わせです。その知のベースである人間自体に興味を持つことで、知のネットワークを効率的に結びつける。その結果、ロフトワークは新しい価値を持つ多くのイノベーションを生み出しているのです。

 ―見えることが生み出す共感性

社内でのコミュニケーションを見える化し、働く人同士でも互いを知り、認め、共感し合う。その延長線上に、仕事への愛情や新しいイノベーションがあるのだと、諏訪さんは最後におっしゃっていました。

ワークフローやコミュニケーションの「見える化」。
すでにできあがったものでなく、その過程こそが、共感という感情を生み出すのです。それが、諏訪さんの語る、共感性のキーワードでした。

 ―企業と共感の接点― 
日本総合研究所 井上岳一氏

3*3ラボ第五回セミナー:井上 岳一氏

 ―共感の同心円

自分(会社)と相手(生活者)の間には、距離があります。
相手を「それ(IT)」と呼ぶか、「彼(HE)」と呼ぶか、「あなた(YOU)」と呼ぶか。その自分と相手との距離を縮めていくこと、ITをYOUにすること。
それが「共感すること」だと、井上さんはおっしゃいます。

今までの企業のコミュニケーションは、企業から生活者へ何かを伝え、生活者の方から近づいてもらう、というようなものでした。
この中で消費者は操作対象「IT」です。しかし、これでは主役が転倒しています。

共感の同心円を縮めようとするのであれば、相手との距離を縮めなければいけません。しかし、自分とお近づきになりたい人など、一体どこにいるのでしょうか。「近づきたい。でも近づいてくれない。」それならば、自分から近づけばいいのです。

3*3ラボ第五回セミナー:井上 岳一氏

 ―共感する力 Social Sense

自らを差し出し、与えること。大切なのは「共感される」仕組みより、「共感する」仕組みなのだと井上さんはおっしゃいます。

井上さんは、その共感する力を、「social sense」と呼び、さらに、同義として「関わる力」という意味を添えています。共感する力と関わる力、それが同じ言葉のもとに語られる理由を、具体例と共に語っていただきました。

そのsocial senseが会社という枠組みにおいて発揮されるためには、会社を社会に開くことが必要だと言います。

例えば、「軒下ラボ」。それは、家の外でも中でもない空間=軒下、をコンセプトとした、社内外の人間がフランクに集う場所です。そこでは、共通のテーマや問いのもと、話に真剣に耳を傾け、自分の問題を共有することができます。

 ―関わり合うと、変わり合う。

「関係の質が変われば、思考の質が変わる。思考の質が変われば、行動の質が変わる。行動の質が変われば、結果の質が変わる。」

MIT教授、ダニエル・キム氏によって唱えられた、関係の質を高めることで、全ての結果が変わるという「成功の循環」です。

ヒト、モノ、ヒトとモノ。
今まで単体で発想していたことを繋げ、関係性をデザインすることで、組織の力は築き上げられていきます。その関わり合いを結びつけているものが、まさに「共感」であり、それはまた、関わり合うことから生まれるのです。

 ―Social sense。共感する力、「関わり合う力」―

お二方のお話の後、会場では参加者を交えたディスカッションが行われました。

3*3ラボ第五回セミナー:益田文和氏(東京造形大学教授)(左)と会場(右)

 ―「命に見いだす美しさと共感。
様々な議論が飛び交う中、会場から以下のような意見が出されました。

『論理的に説明されても、直感的にノーであれば、受け付けません。自然の中に美しさを見いだすように、命を長らえると直感的に感じたものに、言葉にできない美しさを感じるのです。命に対して美しいかどうか。その美しさの構造が、共感を生むのだと思います。』

それらの話を受け、井上さんは、「人種や文化を超え、多様性に溢れる中で、我々が共感し得るのは人間の原点、つまり命に近い部分だけになってきているかもしれない。」とおっしゃいました。

分かり合えないから排除するのでなく、共に生きる術を考えることが、私たちが今抱えている様々な課題を解決する鍵となり、そして、その共存を促すものが、「共感」だと言うのです。

3*3ラボ第五回セミナー:井上 岳一氏(左)、諏訪光洋氏(右)

 ―立ち止まり、見つめる。「共感」は社会を変える力に。

モノや技術がありふれ、私たちの「技術」への欲は満たされつつあります。
例えば速さだけを追求してきた車が、エコカーや家族のことを考えた車などの新たな価値を提供しつつあるように、一度満たされた人々が、次に追いかけ、問いかける「快適さ」について、我々は立ち止まり、人々が真に求めているものを見つめ直す必要があるのではないでしょうか。

社会も、人々の意識も、確かに変わりつつあります。
共感の仕組みが、生活者や会社や社会にどのような働きを見いだすか。今回のセミナーでも多くの意見が飛び交いました。その中でもそもそも共感の仕組みが、マーケティングにまで応用されてさらにものを売るための仕組みとしてさらなる消費をつくってしまうのではないかという根本的な問いにまで議論は及びました。

しかし、まだ言葉にされていない新たな価値観が、人々の意識下で動き出しているのは確かです。その価値を、社会や人、様々な関わり合いの中で共有し、確かめ合う力、それが「共感の仕組み」を企業が持つこと、そして「共感」の力を育てることから始まるのでしょう。

そして、新しい時代の価値を共有する事が、「人々の意識の変革」によって実現するのであるとすれば、新たな価値を人々に伝え、理解し、確かめ合うことのできる「共感」という力は、社会を変える源になりうるでしょう。


撮影:望月小夜加 (Granma Inc.)