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【レポート】「電子地域通貨で地域を守る」−−さるぼぼコインの挑戦

BFL地方創生セッション vol.12「地域通貨が潤す地域経済」2018年11月8日(木)開催

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日本を代表する観光地のひとつ、岐阜県飛騨高山地域。今このエリアは、観光だけではなくフィンテック(金融とITの融合)の観点からも注目を集めています。それは、同地域を拠点に活動する飛騨信用組合が提供する電子地域通貨「さるぼぼコイン」によるものです。このさるぼぼコインはどのような経緯で開発され、地域に何をもたらしているのでしょうか。

BeSTA FinTech Labと3×3Lab Futureが共同開催する「BFL地方創生セッション」の第12回目では、さるぼぼコインを開発した飛騨信用組合 常勤理事 総務部長の古里圭史氏を招き、「地域通貨が潤す地域経済」というテーマで講演とパネルディスカッションが行われました。

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信用組合は地域と運命共同体の存在

信用組合は地域と運命共同体の存在

image_event1108-02.jpeg古里圭史氏(公認会計士・税理士、飛騨信用組合 常勤理事 総務部長、フィンテックプロジェクトチームリーダー、ひだしんイノベーションパートナーズ株式会社代表取締役社長)

古里氏が所属する飛騨信用組合は、岐阜県の飛騨市と高山市、白川村の二市一村を営業エリアとする信用組合です。年間約462万人以上(2017年時点)もの観光客が訪れる日本有数の観光地である一方、人口は約11万4000人(高山市約8万8000人、飛騨市約2万4000人、白川村約1600人)と、決して大きな経済圏とは言えない地域でもあります。そんな小さな街を拠点とする飛騨信用組合が、なぜさるぼぼコインという電子地域通貨に取り組むことになったのか。それは「信用組合」という組織の特徴が大きく関係しています。

「私たちは協同組織金融機関(Membership Banking)と呼ばれる金融機関です。銀行などの金融機関の場合は社員や顧客、出資者、地域といったステークホルダーは必ずしもイコールで結ばれていませんが、我々の場合はすべてがイコールで結ばれています。そんな私たちが営業エリアとしている飛騨高山地域は、他の地域よりも10〜15年ほど早いペースで人口減少や高齢化が進んでいると言われています。私たちは地域と運命共同体、一蓮托生の存在ですから、地域のことをしっかりと考え、持続的な活動をしていかなくてはなりません」(古里氏)

だからこそ古里氏は、3年前に中期経営計画を作成した際にCSV(Creating Shared Value:共有価値の創造)経営をスローガンに打ち出したと言います。それは職員に対する「組織として利益のみを追求するだけではなく、しっかりと地域の課題を解決しながら事業活動をやっていこう」というメッセージであったと、同氏は説明しました。

こうした考えに則り、飛騨信用組合では様々な取り組みを行っていきました。例えば地域の事業者のよろず相談所である「BizCon.HIDA(ビズコンヒダ)」や、地域課題などを解決するためのクラウドファンディング「FAAVO飛騨・高山」、地域活性化ファンドである「さるぼぼ結ファンド」、地域内外のNPOと連携したインターンシップといったものなどです。中でも地域に大きな影響を及ぼし、注目を集めているのが「さるぼぼコイン」です。

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お金の地産地消

電子地域通貨の成功例として注目を集めるさるぼぼコインですが、ブロックチェーンなどの最新技術を使っているわけではありません。スマートフォンアプリをダウンロードし、飛騨信用組合の窓口などで現金と引き換えにさるぼぼコインをチャージする、あるいは飛騨信用組合の口座と紐付けてチャージすることで買い物などができるようになるという、他の電子マネーなどと同様の方法で使用していくものです。

「店頭では、例えば5000円の買い物をするのであれば、ユーザーが自ら5000円と入力してお店のおばちゃんに見せて決済をするというアナログな流れです。このUXが受け入れられるのか心配していましたが、今では利用者もお店の方にも慣れていただいて、なんとか浸透してきた状況です(古里氏)

さるぼぼコインの「アナログ」な点は利用者とお店側のコミュニケーションにも役立っており、決済が完了した際に流れる「あんとー(飛騨弁で"ありがとう"の意味)」という音声をきっかけに会話が生まれることも多いと言います。こうした形で地域をつなげることが、さるぼぼコインのコンセプトとなっています。

「さるぼぼコインは電子通貨ではなく、電子地域通貨であるということを大事にしています。いかに地域の中でさるぼぼコインが流通するのかが大切です。ですから、例えばさるぼぼコインにチャージしたお金を現金に戻す際には1.5%の換金手数料をいただいており、逆に送金する際の手数料は0.5%にしています。そうすることで、地域での流通性を上げているのです」(古里氏)

飛騨信用組合がさるぼぼコインに取り組むことになったのは、先述のようにCSV経営をスタートしたことの他に、「組合の経営課題と地域社会の課題を解決するため」の策として地域通貨が打ってつけであったことを理由として挙げられました。

「組合としてはマイナス金利の影響が大きかったことが課題としてあります。特に飛騨信用組合は営業エリアが限定されているので、地域の事業者がうちの口座を指定すると不便ということもある。それに地域でサービスを提供する組織として、しっかりとITサービスを駆使して利便性の高いサービスを提供しなくてはならないという事情もありました。

地域としては観光客の利便性に課題がありました。というのも、観光客にアンケートを取ると"クレジットカードや電子マネーが使えない"という回答が常に上位に入ってくるのです。それはつまり消費をしづらい環境であることを意味し、ビジネス機会の損失を意味しているのです」(古里氏)

お金の地産地消を果たして域外流出を防ぎ、同時に確実に外貨を取り込むために、このさるぼぼコインが生まれたのです。この仕組は地域にも徐々に受け入れられていき、2018年10月31日時点で789の加盟店(契約ベースでは830加盟店)、5460ユーザー、累計コイン販売額は4.3億円に上っているといいます。

「飛騨高山地域の人口は約11万人です。そのうち子供やお年寄りを抜いて、アクティブに経済活動をしている方がさるぼぼコインを使用している割合は7〜8%です。この数字が10%に到達すれば新しい世界が拓けると思うので、そこまでユーザー数を増やすことが現在の目標の一つです」(古里氏)

自分たちの地域を自分たちで守るために

image_event1108-04.jpegさるぼぼコインのビジネスモデルの仕組み

「技術的には特段真新しいことはしていない」というさるぼぼコインですが、静的QRコードを利用した利用者読取方式による決済を採用していることは、他の電子決済ツールと異なる点です。これはレジの横にQRコードを置き、利用者がスマートフォンで読み取り、自らアプリを操作して支払う金額分のコインを入力して店員に表示するという方式です。古里氏が「この方式を採用することには迷いがあった」と話すように、利用者側の手間が増える決済方式であり、不便さを感じて利用を敬遠されてしまう可能性もあります。それでもこの方式を採用したのは、加盟店のコストを極力抑えるためでした。

「他の電子マネーの場合、決済端末を用意してもらう必要がありますし、決済手数料や通信費、ライセンス費などのコストも必要になり、イニシャルコストもランニングコストも掛かってしまいます。ただ、さるぼぼコインの場合はそうしたコストを徹底的に抑えたかったので、思い切ってこの方法を採用しました。はじめは心配をしていましたが、今では受け入れられ、ポジティブな反応も出てきています」(古里氏)

加盟店の負担を極力排除することが地域への浸透につながっているそうです。またさるぼぼコインの場合、「日頃から地域の人の顔が見える関係」を構築していたことも、普及の大きな要因でした。

「私たちは信用組合ですので、渉外担当者がお客様の元に行って集金をしています。そういった関係性を構築していたことと、地域の金融機関のつくった仕組みであるという信頼性があったことが、加盟店の獲得につながったのかなと思っています」(古里氏)

こうした取り組みにより、飛騨信用組合としては口座開設数が増えて顧客の幅が広がるという効果が、地域社会には電子決済ツールのインフラ整備や、域外へのお金の流出の防止といった効果があったと言います。また、さるぼぼコインの浸透により、中国を中心に世界中で使われる決済プラットフォーム「Alipay(アリペイ)」の利用も可能になり、中国人観光客の消費が増えるという効果もあったといいます。

最後に古里氏は次のように話し、講演を締めくくりました。

「飛騨高山地域は少子高齢化や人口減少のスピードが速く、中山間地域の集落もどんどんなくなっています。そうすると、行政のサービスは縮小していきますし、地域の店舗も減っていくことになるのです。市民やNPOの人々がそうしたスキマを埋めようと様々な活動をしていますが、私たちのような地域の金融機関も資金の面でそれを支え、あるいは我々自身がプレイヤーとなっていかないといけないと思っています。

我々のような組織が自らさるぼぼコインのような取り組みを進めていくのはどうなのかという見方もあるのですが、私たちが傍観していたら駄目ですし、意味のある活動だと思っています。しっかりとシステムを変革し、それを通してメンタリティの変革をすることで、自分たちの地域を自分たちで守っていきたいのです。そのために、今後もチャレンジを続けたいと思っています」(古里氏)

地域通貨のコンセプトを守るために必要な対応とは

image_event1108-05.jpeg株式会社eumo 代表取締役社長の新井和宏氏(写真左)

講演に引き続き、古里氏と新井和宏氏(株式会社eumo 代表取締役社長)によるパネルディスカッションが行われました。新井氏は鎌倉投信の創業者であり、2018年9月に「共感資本社会の実現を目指す」という理念の下で投資事業や教育事業、プラットフォーム事業に取り組むeumoを立ち上げた人物です。古里氏とは鎌倉投信時代から共に飛騨高山地域の事業再生活動に取り組んだ間柄でもあります。パネルディスカッションは、司会者を務めたエコッツェリア協会の田口真司氏、並びに聴講者から両氏に対する質疑応答を受ける形で進められていきました。

まずは田口氏より「地域で新しいことを始める際には反対意見が出ることも多いが、飛騨信用組合の場合はどうだったのか」という質問が古里氏、新井氏に投げかけられます。

「飛騨高山はそこまでオープンな地域ではないので、応援ムードがあったわけではありません。ですが、当時の経営陣が理解をしてくれて、旗を振ってくれたのです。こちらからの提案に対しても後押しをしてくれたので、実現できたと思っています」(古里氏)

「こうした取り組みを普及できるかどうかは、地域性はあまり関係ないのかなと思っています。古里さんは普及のために日頃から非常に努力をされていますから、それが必要なのです」(新井氏)

さらにこの日は、聴講者からも積極的に質問が飛び交いました。中でも興味深ったものが、「地方の場合、地域の商店よりも大手スーパーや量販店に買い物をしにいくケースが多いが、さるぼぼコインの場合、そうした店舗への対応はどうしているのか」というものです。この質問に対して古里氏は「とてもセンシティブな問題で、すごく気を使っています」と前置きした上で、次のように話しました。

「例えば、岐阜市を本拠地にするスーパーマーケットのチェーンは、我々にとっては地域外の企業ですが、一方で地域の商工会議所にも入っています。はじめは地元資本のスーパーだけを加盟店にしていたのですが、"我々は商工会議所にも入っているのに、なぜ除け者にするんだ"と言われてしまいました。ただ、その企業にもさるぼぼコインに加盟してもらうとなると、地元資本のスーパーがいい顔をしません。

ですから、域外の資本企業の場合には地域通貨の趣旨を理解していただき、換金手数料を割高にさせていただくなどの対応をしています。地域通貨のコンセプトを守ろうとするとこうした対応はなくてはならないと感じています」(古里氏)

その他にも、「さるぼぼコインを成立させるための組織構造はどうなっているのか」「換金手数料と送金手数料の割合はどうやって決めたのか」など、広く深い質問が幾つも飛び交いました。こうしてこの日のセッションは終了の時間を迎えました。最後まで質問が尽きなかったように、小さな地域から始まったさるぼぼコインという取り組みは、大きな注目を浴びています。今後、この取り組みがどのように進化していくのか。そしてこの日参加した人々が、さるぼぼコインのように、地域を変える取り組みをどうやって生み出していくことになるのか。引き続き注目をしていきたいです。

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