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【レポート】"人物"が集う鋸南の挑戦

「丸の内de地方創生」千葉県鋸南町プログラム

佐久間ダムで、白石町長と

都市が地方とどう関わり、ともに発展していくか。そんな課題にアプローチするパイロットプログラムが、1月から3月にかけて開催されました。その名も「丸の内de地方創生」。地方の農業と食の問題にアプローチし、丸の内プラチナ大学では農業ビジネスコース講師を担当、東京農業大学客員研究員、関東学園大学教授、株式会社グリーンデザイン代表等、いくつも肩書を持つ中村正明氏が講師・モデレーターを務めます。千葉県の鋸南町と印旛地区、埼玉県の川島町と飯能市。4つのエリアを素材に、「食と農」「着地型観光」「移住・定住」「ソーシャルビジネスデザイン」をテーマに受講生を募集、東京からの地方創生のあり方、方法を探りました。

このプログラムの特徴は座学とともにフィールドワークをセットにしている点です。特に、千葉県鋸南町は、事前に3×3Lab Futureで座学を行った後にフィールドワークとして現地のツアー、そして再びその後に講習の場を持ち、地方創生の可能性を検討しています。「丸の内de地方創生」のレポート、まずは千葉県の鋸南町の様子をご紹介します。

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鋸南町のキラーコンテンツ?

鋸南町のキラーコンテンツ?

左から内田副町長、安田氏、蛭田氏

1月22日に行われた座学では、鋸南町の今を知るべく、現地から副町長の内田正司氏、地域振興課農林水産振興室長の安田隆博氏、そして"千葉県で一番予約の取れない宿"を経営する株式会社紀伊乃国屋社長の蛭田憲市氏を招いてご講演いただいています。

安田氏は、2013年に廃校になった保田小学校を、「鋸南町都市交流施設・道の駅保田小学校」として生まれ変わらせた事例を紹介。これは単なる観光拠点としての道の駅ではなく、「小学校が地域の拠点であったように、地域のコミュニティの拠点であってほしい」という思いから、さまざまな仕掛けと工夫がされています。例えば地域店舗を優先的にテナントに入れたり、"まちの縁側"機能としてのイベントスペースを設けたり、6次産業化支援の開発ブースを置くなどまず地域ありきの交流拠点。設計には大学を含むジョイント・ベンチャー(N.A.S.A.設計JV)が参画したこともあり、非常に「人」の温かさを感じさせる仕上がりとなり、有機的に活用されていることが紹介されました。また、紀伊乃国屋の蛭田社長とは同級生であることも明かし、「50代に差し掛かる年代が、一番地方創生にマッチするのかもしれない」とも話している点も興味深いところです。

蛭田氏は鋸南町内に4つの旅館を営んでおり、そのどれもが予約の取れない人気を誇っています。蛭田氏によると鋸南町が「旅行といえば伊豆や箱根で、そもそも旅行の候補地に上がることさえない」という逆境の中で、「知られていない」こと、「都心から非常に近いこと」という、一見旅行業界ではネガティブな要素を逆手にとって、魅力的な旅行地、旅館に仕上げたことを説明。最大のポイントは、黒潮による豊かな漁業資源。ノドグロ、伊勢海老、アワビなどの高級食材をふんだんに楽しめる超高級旅館として限定的に販売することで成功したことを紹介しています。

また、内田副町長は鋸南町の魅力を「Human Being、つまり人ではないか。人が生き生きと暮らせる街、生き方を考えられる町。それが鋸南町なのでは」と話しています。他の自治体と比べ特異的だったのが、取材へのコメントで「鋸南町が丸の内にしてあげられることはないだろうか」と話している点です。「都市側住民の経験やアイデアで、鋸南町を盛り上げるビジネスを」と話す一方で、「鋸南町が都市で暮らす人に与えられるものは何だろうか、共に築く未来はどんな姿だろうか」と考える。一方的に「助けてもらう」「援助してもらう」のではない、新しい関係の可能性を感じさせる意気込みです。

この座学では、これらインプットを受けて、受講生たちからフィールドワークツアーのプラン――どこへ行って何を見たいか、体験したいのか――を発案してもらうグループワークを行い、意見交換をしています。ここで出された意見、要望を元に、いよいよ2月5日に鋸南町へと向かいます。

「小学校」がキーワード

鋸南町ツアーは、2月5日、朝9時に丸の内をバスで出発し、夕方18時に戻ってくるという弾丸ツアー。そしてもちろん見たいところを隈なく廻る超高濃度ツアーでもありました。見学した地点は
・佐久間ダム......桜の名所。剪定の作業見学
・笑楽の湯......高齢者施設を、学生たちが総務省の事業費を取って再生した温泉施設
・佐久間小学校......廃校になった小学校。小学校拠点の地域活性化を考える同町の懸案事項のひとつ
・寿司割烹 なぎさ......地域で一番と謳われる料亭。ランチをいただく
・紀伊乃国屋別亭......企業の保養所を買い取って改装したという別亭は、客室稼働率が90%を超える驚異の"おこもり宿"。その現場を見学するとともに、新たに建設予定地の海岸で蛭田社長と談話
・道の駅保田小学校......宿泊施設としても使える同施設を隈なく視察。および買い物等々
となっています。

佐久間ダムの沿道。桜はまだ咲いていなかった

ツアー参加者は22名。9時に丸の内を出発、アクアラインを使って10時30分には佐久間ダム着。佐久間ダムは「花の町」でまちおこしをしてきた同町の、最大の観光拠点のひとつです。ダム周辺には、頼朝桜(河津桜)から始まって9種類にもおよぶ桜が3500本も植えられており、3月から4月にかけて絶えずとりどりの桜を眺めることができるポイントになっています。毎年2月の第一日曜日に町民総出で桜の手入れをしており、この日も町長はじめ町の職員、町民が大勢ダム湖の回りで作業している様子を見学。「ジンダイアケボノ」(頼朝桜とソメイヨシノの間)の定植予定地も視察しました。

白石町長作業着に長靴で、いかにも好々爺然とした白石治和鋸南町町長は、「桜も人と一緒で手をかければきちんと育つ。都会の人はもっと緑に関わらないとダメ。だからこうやってたまに鋸南に来て一緒に作業してね!」と参加者たちに語り、笑いを誘いました。町民に入り混じって立ち働く姿は、行政と住民の距離の近さを感じさせます。

(左)笑楽の湯と豊島さん (右)佐久間小の様子

その後笑楽の湯へ移動。ダムから佐久間川沿いに降りたところにある温泉施設で、もとは高齢者施設(老人センター)でしたが、道の駅保田小学校を設計したジョイント・ベンチャーに含まれる大学の学生らが自主的に総務省の「公共施設再生ナビ」を申請し、見事助成を受けることができ、外観、内装のリノベーションを行っています。今は地元の住民の憩いの場、交流の場として利用されており、この日も日曜日ということもあって非常に多くの住民でにぎわっていました。

この日の昼食は屈指の名店「なぎさ」のおまかせ定食。アジ刺し身から始まり、サザエ壺焼、寿司(マダイ、ヒラメ、アオリイカ、マグロ)、クジラの竜田揚、フグの唐揚、潮汁、デザートという贅沢なコース。なぎさのある勝山エリアは飲食店と床屋が多いことで知られるが、これは遠洋漁業で栄えた町の特徴であるという。そしてすぐ近くの廃校となった佐久間小学校へ。こちらは年に3回、習志野に拠点を置く自衛隊のレンジャーが鋸南で訓練する際の基地となっているほかは、木工所が一部の施設を使っているのみで、さまざまな利用価値がありそうです。鋸南町では保田小同様、小学校を地域おこしの拠点にしたいと考えており、この佐久間小もどのように活用するか、ビジネスアイデアが求められています。案内する鋸南町雇用創造協議会 事業推進リーダー・、豊島まゆみ氏に、「維持費はいくらか」「利用規定は」と事細かに聞く参加者たち。「小学校を拠点・起点にしたまちおこしをしたい」という豊島氏らの言葉に引っ張られてビシビシとビジネスアイデアを思いついているようでした。

キラーコンテンツたる所以とは

「なぎさ」での昼食をいただいた後に、紀伊乃国屋別亭を見学。蛭田社長が忙しい合間を縫って、部屋の説明や経営について、また、海岸沿いの建設予定地を歩いて今後の展望を語ってくれました。

紀伊乃国屋別亭の部屋数は5。保養所を買い取ってリフォーム、「継ぎ足しして作った掘っ立て小屋みたいな旅館」と蛭田社長は言いますが、週末を中心にほぼ予約がとれないほどの人気だそうです。その秘訣は、地元にある保養所などの資源をうまく活用していること、経営のうまさなどがありますが、もっとも重要なポイントは「東京から1時間という非常に近い好立地」であること。「人口3000万人を1時間圏内にいて満室にできないようじゃ経営者失格」と蛭田社長。「近い」ということが、観光地としての魅力を逆に引き立たせるための工夫(例えばおこもり宿風にするとか)が、そこに相まって魅力を発揮しています。また、社長が保田、勝山、富浦の3つの漁港で入札権を持っていることも非常に強いコアコンピタンス。話をする海岸の目と鼻の先がすぐ水深50メートルで、アマダイも上がるという、ものすごい好漁場で、その地の利を最大限に生かし、安価に最高の食事を提供することで、「予約のとれない宿」を実現しているのです。

新しく旅館を建てるために購入した海岸沿いの土地で立地や旅館経営について説明する蛭田社長。参加者とのやりとりでは、「どうやって料理人から経営者としてリスタートしたのか」という個人的な質問や「地元との関係値づくりの秘訣は」といったこと、経営のポイントなど立ち話ながら内容の濃い多様な議論となりました。

そしてその後最後の見学地、道の駅保田小学校へ。「小学校を思い出の場所として残したい」と廃校になった保田小学校をリニューアルして作ったもので、地元の交流拠点としての機能も果たしています。地元の商店、飲食店に優先的に入ってもらい、現在なぎさが経営する「cafe金次郎」、中華料理の「3年B組」、鋸南雑貨屋の「快」など5店舗が運営されています。また、2階は通常は宿泊施設として運営され、災害時には避難場所となる「学びの宿」と温泉施設。その西側は住民が利用できる多目的スペース「まちの縁側」。

小学校の教室の形状、階段のかたちを活用し、はては下駄箱までも商品陳列棚として利用するなど、目新しくもどこか懐かしく感じさせる作りで、ホッとする人の温かさも感じさせます。

道の駅保田小学校の様子。(左上)外観、(右上)2階のまちの縁側の様子、(左下)教室を利用した宿泊室、(右下)楽市

鋸南町の挑戦を知る

その後、2階の「音楽室」を使って、今回のツアーをはじめ鋸南町での「丸の内de地方創生」のアレンジに協力いただいている「ようこそ鋸南プロジェクト」や「鋸南町雇用創造協議会」のみなさんから、現在の取り組みや課題などについてプレゼンテーション。そのお一人、鍋田ゆかり氏からは、桜をはじめ豊富にある花や草木を使った「草木染め」の取り組みがスタートしていることが紹介されました。四季折々に合わせた草木染めができることから、体験型の観光資源にできないかと考えているのだとか。この他、千葉特産の菜花には、廃棄されてしまう部分があまりにも多いことから、その部分をパウダーやピューレにして活用する方法を模索していること、新しい旅行製品を開発していることなど、プロジェクトのみなさんが幅広くさまざまな課題に挑戦していることが紹介されました。

そして最後には、地元の農産物を中心に販売する「楽市」でお土産物を買って帰途についています。男性陣はクジラを始めとするおツマミ類とお酒に、女性陣は豊かな花卉類に目を奪われていた様子が印象的でした。

帰りの車中でツアーの感想を聞くと「町長の人柄を間近で見れたのが良かった」「蛭田社長の取り組みが素晴らしい」「豊島さんたちの"まずやってみて考える"という姿勢が地域活性には必要では」と、人とその姿勢に対する感想が多く聞かれました。また、ある参加者は地方創生が自身の仕事にも関係があることから、仕事にも役立つだろうという話や、移住を検討している参加者は、鋸南なら新しい仕事を創造して移住できるのではとの期待を聞くことができました。

そして未来にどう関わるか

打って変わってスーツで3×3Lab Futureに登場した白石町長(右)

そんな超高濃度な弾丸ツアーを受けて2月22日に開催されたのが、振り返りとビジネス創発のための講義です。この日は白石町長が3×3Lab Futureに登場したほか、Uターン移住者の例として雑貨屋「快」を営む鈴木多喜子氏、農業のために移住したヤマダパラダイスファームの山田永太郎氏らも登壇し、再び受講生に向けて鋸南町の今についてのインプットトークを展開。ビジネス創発へのステップとしてもらいました。

白石町長は、「今、地方創生は"条件競争"になってしまっているキライがある。しかし、それではみんなが疲弊する。ぜひお金じゃなくて"気持ち"の競争にして、みなが幸せになれる地方創生にしたい」と参加者に呼びかけています。経済原理を導入しなければ活性化せず、しかし経済原理に巻き取られれば疲弊せざるを得ない地方創生の相克。そこをどう乗り越えていくのか。鈴木氏は出版社での仕事を辞めてのUターンで、新たなまちおこしの方法を模索。山田氏は、高校時代に花卉栽培に目覚め就農を志すようになり、徳之島から八ヶ岳、富山群馬と各地を回って最終的に千葉に落ち着いたという人物で、新しい農業のあり方を模索する期待の若手。ようこそ鋸南プロジェクトの面々をはじめ、今後鋸南でどんな活動を展開していくのでしょうか。

インプットトークの後のグループワークには、町長始め登壇者もテーブルに加わりディスカッション、最終的には「名探偵キョナン」「夜までやっている道の駅保田小」「お宝探しマップ作り」「未来の日本がみつかる-みんなのホームタウン/-みんなのトライアルタウン」の4つのアイデアが出されています。これらのアイデアが、今後どのように実装され、実現していくのか。ようこそ鋸南プロジェクトを始め、優れた魅力的なキャラクターが集まる鋸南は、何か手伝いたい、自分も何かしたいと思わせる魅力があるようです。これからの受講生たちの活躍に、そしてさらなる鋸南町の発展に注目したいと思います。

※座学は鋸南町と「ようこそ鋸南プロジェクト」、鋸南町ツアーは「鋸南町雇用創 造協議会」主催で行われました。


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