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【レポート】資源の宝庫、課題の宝庫。「あれもこれも」を捨てられるか(笠間市・前編)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコース DAY6(2017年9月11日開催)

日本の地域の未来を丸の内から創発する「丸の内プラチナ大学」。主力カリキュラムの一つ、地方と都市をつなぎ、東京の人的リソースを地方へ還元するための学びを行う「ヨソモノ街おこしコース」は、単なる学びを超えたアウトプットと実践の場となっています。2017年の第2期は、福島県会津若松市、山口県山口市、そして茨城県笠間市の3つの自治体を題材に取り上げて開催し、それぞれの課題にアプローチする活動を展開しています。

9月11日は、笠間市の第1回講義が行われました。今年は2週続けて同じ自治体を取り上げることで、参加者が意識を高い状態で課題に深くアプローチできる仕様になっています。この日は笠間市からのインプットトークとして、笠間市の山口伸樹市長、宿泊施設付き農園の「笠間クラインガルテン」の吉田貢太郎所長から講演があり、さらに笠間のリアルな今を浮き彫りにするために、「笠間のよいとこ、だめなとこ」と題して、笠間市で働く地域おこし協力隊のみなさんとフランクな意見交換を行いました。

講師は丸の内プラチナ大学副学長も兼任する松田智生氏(三菱総合研究所)。CCRC(Continuing Care Retirement Community)の専門家でもある氏は、笠間版CCRC構想にもコミットしており、今回のプラチナ大学のコンテンツとして取り上げるのにぴったりな事例。冒頭、松田氏から著作『日本版CCRCがわかる本』で笠間市を取材していること、笠間クラインガルテンはじめ地域活性化に非常に前向きな地域である自治体であることが紹介されました。また、農業、陶芸、アート等、非常に"資源"も多い地域であると語り、「ヨソモノのみなさんが活躍できる素地はあるのではないか」と会場に呼びかけました。
(9月25日開催のDAY7の様子【後編】はこちらから)

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笠間市長、本気と本音を披露

笠間市長、本気と本音を披露

山口市長は「とにかく笠間は課題だらけの市。今日はなにかみなさんの手助けがいただけるだろうと期待して大勢でお邪魔した」と、プラチナ大学への期待を語り、笠間市の現状と課題を語りました。

まずアウトラインとして立地や人口概況の解説。茨城県の中部に位置し、東京から電車で1.5時間の好立地で、平成の大合併(旧西茨城郡の2町)で拡大し、伝統産業等、観光資源は豊富で、観光客の入り込みは年間352万人と多い状況だが、他の自治体同様に人口は減少傾向で現在約7万6000人。

少子高齢化の進行度合いは「日本全体のちょうど中間くらい」と山口市長。その中で「いかに生活を維持するか、子育て、高齢者の交通等、社会と生活の基盤維持が大きな課題だ」と話しています。

また、「今日一番お願いしたい」と話したのが「地域産業の再生」です。産業面では、笠間市はかつて一大石材産地として栄えたものの、現在はかつての半分以下の規模に縮小しているという課題があります。笠間は「稲田石」と呼ばれる御影の産地で、市長によると、明治以降建築された東京の施設の多くが稲田石を使っており、第一生命ビル、地下鉄の階段、日本銀行、最高裁判所、最近では東京駅丸の内口でも使われているそうです。
「30年前には180社あった石材の会社が、現在では60社程度になっている。これをみなさんにお助けいただきたい」(山口市長)

産業としてもうひとつ名高いのが陶芸です。北関東では栃木県の益子と並ぶ一大産地ですが、特徴は「特徴がないこと」。窯元が独自の作風でオリジナルの作品を創ることから、多種多様な製品が出回ります。2016年には茨城県立陶芸大学校が設立されたほか、市でも芸術家の呼び込みを図っているなど意気盛んではありますが、問題は作った作品の販路と販売の拡大だと市長は指摘しています。

そして産業とともに農業の課題も紹介しています。笠間市は肥沃な平野部で稲作、野菜、果樹、花き、畜産業など多様な農業が展開されていますが、どこも後継者不足が悩み。収益性が高いのは果樹ですが、「高いものほど手がかかり、育成が大変」(山口市長)であるのも確かで、後継者不足に拍車をかける背景にもなっています。

栗は栽培面積日本一を誇り、市でもとりわけ力を入れ、毎年9月には「新栗まつり」を開催するなど、さまざまな取り組みを続けています。しかし「ブランドが弱いのが悩み」と市長。
「一般的に栗といえば丹波栗、小布施、九州というイメージになってしまっている。笠間から日本各地へ"輸出"しているくらいなのに、『笠間の栗』という認知がまったくされていないのはなんとかしたいと思っている」(山口市長)

市では事業承継バンクといった新たな取り組みを検討していますが、「栗は植えてから収穫が軌道にのるまで8年程度はかかる。せっかく植えて育てて15年経って、ようやくこれからというときに高齢で廃業してしまうのはもったいない。今ある基盤を活用する方法も促進したい」と山口市長は話しています。

このほか、障害者雇用の問題やCCRCに向けた取り組み、「衰退したモノをもう一度蘇らせるのは、地元の人だけではできないのでは」と市内の飲食業などでヨソモノも頑張って新しいカフェを開業している例などなど、さまざまな取り組み事例や課題を伝え、協力を呼びかけています。

笠間クラインガルテンを地域の起爆剤に

続いて、宿泊施設付き市民農園施設の「笠間クラインガルテン」の紹介を、所長の吉田貢太郎氏が行いました。

クラインガルテンはドイツ発祥の農地の貸借制度で、日本では滞在型農園として認知されています。日本で始まったのは1993年の長野県が最初で、笠間では2001(平成13)年に開業しています。これは全国で4番目、関東では最初の事例です。

「ラウベ」という宿泊施設(バンガロー的な戸建て住宅)と農地が合わせて300平米1区画とし、年間使用料は約41万円(水道光熱費別)。全体で50軒のラウベがあります。施設内にはさまざまな活動を支援するスペースや有機農業を指導するサポート体制もあり、利用者は自分の畑で農業するだけでなく、焼物をしたり、ジャムなどの加工品を作ったり、他の利用者と交流するなど、田舎暮らしを楽しむことができるようになっています。

利用者の構成は、東京、千葉、埼玉からで約8割で、平均年齢は62歳。吉田氏は「リタイアした層が中心」と話し、70代も多くいることも紹介しています。

笠間クラインガルテンのラウベ(笠間クラインガルテンのサイトより契約は年単位。最長で5年まで継続利用が可能です。近年利用数が若干減少気味で、今年は50軒中3軒の空きがあり、来年の利用者呼びかけに力を入れているそう。トレーラーハウスを使ったゲストハウスも用意されており、吉田氏は「畑や施設はもちろん、いろいろな活動の見学も可能なので、ぜひ見学に来てほしい」と呼びかけます。

吉田氏が非常に大きな成果だとしているのが、「卒業生」=利用者のうち19世帯が笠間市に移住していることです。

「特にすばらしいと思うのが、卒業生たちで結成した『笠間サポート倶楽部』が地域のために活動してくれていること」(吉田氏)

吉田氏によると笠間クラインガルテンを利用している人は「笠間に恩返ししたい」と考えることが多く、自主的に地元への貢献活動を始めるそうです。ある地域では、荒廃していた竹林の手入れを行い、たけのこが採取できるまでに再生させたこともありました。「こうした気持ちを地元にうまく反映できるようにしたい」と吉田氏は話しています。

また、利用者の声から笠間クラインガルテンの長所・短所を整理。それによると長所は「健康になれる」「さまざまな体験ができる」「仲間が増える」というもの。健康については「裏付けるデータを集めたい」と吉田氏。短所は「二次交通の不便さ」「物件の選択肢が少ない」「施設が変わらないので飽きる」などが挙げられています。

吉田氏は笠間クラインガルテンが移住定住促進だけでなく、伝統文化の継承や空き家対策、地域活性化活動等、さまざまな波及効果があることを示し、「都市部でのPR活動に力を入れて、やる気のある人の利用を増やしたい」と意欲を語りました。そして、運営のグレードアップやPRなど、さまざまな課題に対してはもちろん、特に「恩返ししたいという人の気持ちをどう現実化していくかのアイデアもほしい」と呼びかけて締めくくりました。

地域おこし協力隊のぶっちゃけ本音

地域おこし協力隊のみなさん。左から柳澤明さん、河又恵太さん、久保葵さん、秋元健一さん

そして後半、これまでにはなかったちょっと変わった趣向で、笠間市で活躍する地域おこし協力隊のみなさんから少しずつ笠間を評してもらう「笠間のよいとこ、だめなとこ:地域おこし協力隊1分リレー」を行いました。

今回は4人の隊員が参加。柳澤明さんはこの中では還暦前の最高齢。着任して2年目で、笠間の歴史と風土を活かしてワインを製造したいと話しています。よい・だめはコインの両面。笠間は「観光資源、農業資源だけでなく、才能ある人材が豊かなこと」。「多様で実力のある人材がいるのは大きな力、それゆえにまとまりにくいのが逆に課題」と話しています。

2人目、河又恵太さんは「特産品や食べ物などとにかく良いものがいっぱいある」としつつも、「ありすぎて絞りきれないところ」が悪いとしています。交通に関しても「都心からのアクセスは良い」が「車がないと移動できない」のが問題。河又さんは9月に着任したばかりですが、今後「良いところの整理」や「隠れた産物の発掘」などに力を入れたいと話しています。

3人目、同じく9月に着任したばかりの久保葵さんも、良いところ・悪いところを同様に指摘しています。曰く「いいものがいっぱいある」が「これだ!という突出したものがない」。学生のころグリーン・ツーリズムを学んだ経験があり、持続的な都市農村交流、新しいツーリズムの提案をしたいと話しています。その一例として、花き生産農家や花屋、ブライダルと提携した「ウェディング・アニバーサリーツアー」を紹介しました。

そして4人目の秋元健一さん。ちょっと目先を変えてマインド面の良いところ・悪いところを挙げてくれました。良いのは「外の人を受け入れてくれる歴史や文化がある」ということ。秋元さん曰く「焼物の作家が外から来る歴史文化があったためではないか」とのこと。そして課題と感じるのが「シビックプライドがない」点です。「皆さん謙虚で"俺が俺が"という元気が薄いように思う」と話しています。秋元さんは栗を軸にした地域商社の展開や都内の自治体との広域連携の構想を描いています。

「笠間を元気にしたい!」と地元に入り込んだ4人の視点は、市長や職員の方が話す笠間市の姿にとどまらず、実体験をベースにした内容で、とても興味深いものでした。この1分リレーのあとは、講師の松田氏をモデレーターに、市長、吉田氏、4人の隊員のみなさんでパネルディスカッションも実施。会場からの質問も受け付け、さらに笠間市の理解を深めました。

いなり寿司を頬張りながら「絞り込んで一点突破」。

インプットの後は、笠間市関係者にも加わってもらい、各テーブルで「私の笠間市活性化」をテーマにグループディスカッションを行いました。短時間で凝縮して、地元のみなさんから現状の詳細を聞いて改めて課題を整理し、笠間市のペインにどう応えていくか、じっくりと考えることができたようです。この成果はいずれビジネスプランとしてまとめられることになりますが、山口市長は「良いアイデアは予算化することも考えている」と期待を語っています。

笠間稲荷にちなむいなり寿司(手間)と、マロンポークのソーセージ(奥)また、ディスカッション終了後は恒例となった地元産の食材を使った懇親会も行っています。笠間市といえば日本三大稲荷のひとつと言われる「笠間稲荷神社」が鎮座しており、その門前では、いなり寿司が有名です。この日は、具に地元食材をたっぷり使う特色あるいなり寿司、栗で育てる豚肉「マロンポーク」のソーセージ、そして栗のスイーツなどが登場。笠間市に4つある蔵元から日本酒のいいところも用意されています。ちなみに日本最古の蔵元と言われる「須藤本家」があるのも笠間市。改めて笠間市の豊かな資源を感じる懇親会となりました。

終了後に取材に答えて山口市長は「とにかく笠間を知ってもらうこと、来てもらうことが第一歩」と話しています。これだけ資源の豊富な自治体だけにコンサルや企業からの提案も多いそうですが、それに振り回されることなく「しっかりと振り分けて対応している」と話しています。もちろん今回の受講生たちからのアイデアにも期待しており、「大企業に所属している人もいると聞いた。個人、企業問わず、さまざまな連携の形が取れれば」と期待を語りました。また、市の「雇用」と「豊かな生活」を守っていくためには、市民の自立した意識が必要であるとも話し、そこに対するアイデアがほしいとも話しています。

講師の松田氏は、CCRC関連で長く笠間市との関係があり、職員のみなさんの熱意を感じるところが大きいと話しています。特に、今回のように首長が来て話してくれればより「受講生たちのモチベーションもアップする」と、この地域側の熱意に応えたいとしています。また、笠間市の特徴を「資源の宝庫であるが、同時に課題の宝庫でもある」と分析。「アートもある、クラインガルテンもある、栗もある。あれもこれもと手を出しすぎると課題にアプローチできない。絞り込むことが大事」と受講生に向けてアドバイスを送っています。「全体を見据えて課題を絞り込み、一点突破・全面展開する、そんなアイデアに期待したい」(松田氏)。

続く第2回目ではどんなビジネスアイデアが出されるのか。次回の受講生のみなさんの活躍に期待です。


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