イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】学び・焼物・栗――同時に起こるまちをつくろう(笠間市・後編)

丸の内プラチナ大学ヨソモノ街おこしコース DAY7(2017年9月25日開催)

前回、笠間市の山口市長自ら登壇し市の課題を詳らかに語り、受講生たちへの期待を語った丸の内プラチナ大学「ヨソモノ街おこしコース」、笠間市編。今回はその後編として、さらにヨソモノとしてすでに入り込んでいるみなさんの活躍事例を聞き、ビジネスプランをブラッシュアップしていきます。

この日登壇したのは、東京-笠間で二地域居住をしながら、笠間市を盛り上げる「笠間塾」を主宰する後藤克彦氏。後藤氏は笠間市CCRC推進協議会会長も務めており、移住促進派ヨソモノとしても活躍しています。2人目は、移住後6年間は二つの仕事を持ち、その後、笠間市での仕事専業となった「ギャラリー舞台」のオーナー店主・山田眞弓氏。ヨソモノから見た"陶芸のまち・笠間"の現状を語ります。そして最後は、前回も話題となった「栗」をテーマに、笠間市農業公社の内桶克之氏から、地元視点での話題提供です。

講師の松田智生氏(三菱総合研究所)は改めて、笠間市のみなさんが持つやる気とエネルギーを語るとともに、この日発表するヨソモノの2人+地元キーパーソンに負けないアイデアを考えるよう呼びかけ、講義はスタートします。
(9月11日開催のDAY6の様子【前編】はこちらから)

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ヨソモノは仲間を作れ

ヨソモノは仲間を作れ

後藤さんは大手リサーチ企業で会長職まで務めた後、企業の顧問、監査役などを経て、現在は都内と笠間市の2つの地域を行ったり来たりしながらの生活を送っています。二地域居住を考えたのは55歳のころ。「自分の人生は自分で決めて生き通したい」と思い、あちこち探すうちにやがて笠間市へとたどり着いたとのこと。

笠間を選んだ理由は、3つ。「自然、芸術、医療体制」。笠間市はなんといっても「空気がきれいで、里山が美しい」と後藤さん。また、美術鑑賞を好んでいたことから、"日本のオルセー"と称されることもある「笠間日動美術館」があることも大きな魅力でした。もちろん、陶芸の里であり、芸術家を支援する市であることでも大きなファクターだったそう。たまたま北大路魯山人の北鎌倉にあった居宅を移設した「春風萬里荘」の近くに、家を見つけることができたそうです。

3点目、医療体制にこだわったのは、55歳のときに「このまま年をとって病気になったらどうするんだと思った」ためでした。その点、笠間市は「人口の割にものすごく進んでいて、充実している」ことが大きな安心材料になった、と話しています。

現在、後藤氏と笠間市の関係は、講師の松田氏が「半教半学」と呼ぶスタイルに近いものだそうです。後藤氏自身「教育に関わることがしたかった」と話しており、62歳から立教大学客員講師を務めているほか、早稲田大学大学院の修士課程で論文も執筆するなど、今も熱心に学び続けています。執筆したのは、元国連事務総長コフィー・アナン氏の「高齢者が1人亡くなると図書館が1つ消える」(アフリカの諺)という言葉に触発され、高齢者の知恵を活かす方法を考えた論文『21世紀における高齢者活用の新たな可能性』でした。執筆に当たり、笠間市で高齢者調査を行い、1000サンプルを集めたそうです。

後藤さんは笠間塾の成果をまとめた『笠間ブランド研究』も上梓したこの調査を通して、地域のために何かをしたいと考えている高齢者は多いものの、何をやったらいいか分からない人が多いことに気付いた後藤氏。 「自分が何をやりたいのか見つけられない人がいるのは都会も地方も同じだ。話し合いをしながら、何か役に立つことをやり始めるきっかけを作りたいと思った」(後藤氏) と、笠間塾を立ち上げたのでした。

笠間塾では、笠間をいかにブランディングするか、という問題に取り組んだそうです。 「笠間を『一言で言えますか?』というところから入り、良いものがたくさんあるのになぜ有名にならないのか、なかなか結論は出ないが、論客が揃っているのでみんなで話し合っている」(後藤氏)
大切なのは「一人でやらないことだ」と後藤さん。「一人だけだと老人の独り言になってしまう」と、笠間塾では地元で活躍するメンバー、移住者を中心に、古巣である日経リサーチ社から現役のリサーチャーを「引っ張り込んで、知見を話してもらう」ということもしています。

ヨソモノへの期待、アドバイスとしてまず挙げたのは「移住を考えるなら余裕のあるうちに」ということ。家探しをするなら体力があるうちのほうがいい、と後藤さん。また、ヨソモノは地元の人が気付かない「ちょっといいところ、おいしいところを見つけることができる」のもポイントです。「こんなところにこんな素晴らしいもの、キレイなものがある、と小さなことでも感動できる。それを地域活性化に活かしてほしい」と話しています。

また、松田氏からの質問に答えて、「ヨソモノ同士、仲間を集めることも大切だ」ともアドバイス。
「私自身、今ヨソモノとしてやっているが、もう少しヨソモノの仲間が増えてくれればといつも思う。ヨソモノ同士が集まれば、きっと何かが残せると思う。いま笠間の土地は安くなっているので(笑)、ぜひ笠間へ来てほしい」(後藤氏)
と笠間への移住も呼びかけて締めくくりました。

職住が一つになって初めて見えた笠間の「人」

山田氏は笠間焼好きが高じてギャラリー経営、そして移住してきた方で、今回はその経緯と、笠間焼から見える笠間の魅力や課題をお話しいただきました。

山田氏は客室乗務員として航空会社に25年勤務していましたが、その後半の6年は「二足のわらじ」で、笠間でギャラリーを経営しています。当初、店頭に立つのは月に2、3回。運営はスタッフに任せるオーナー店長でした。二足のわらじを始めたのは「定年まで勤めたとしても、専門職でないから辞めたらゼロになってしまうと考えた」から。「60歳を過ぎても元気だし、組織から出た後に、自分らしい生き方をしたい」と、好きだった笠間焼でギャラリー経営を思い立ちます。
「当初は、笠間市は『笠間焼のまち』くらいしか認識がなくて、それ以外のことはまるっきり分からなかった」(山田氏)
と思い切りよく飛び込んだ様子が伺えます。その後、60歳を待たずに会社を早期退職し、完全に「一足のわらじ」になったのが7年前で、以降もギャラリーを経営し続けています。

笠間に来て感じたのはカルチャーの違いだったそうです。それは生き方、暮らし方の姿勢とも言えるもの。
「昔住んでいた千葉では、多くの人が大都会東京を意識して暮らしているように見えた。一方、茨城では、地元の家族・仲間・環境の中、自然体で生活している。そして家族の結びつきが強い、とも感じた。帰省して、三世代の家族がそろって来店する姿をよく見かけるのは予想外だった。」(山田氏)

会場には笠間焼のさまざまな作品が展示されたまた、「地元の人は豊かさに気付いていない」とも話します。 「自然が豊かで、農産物もたくさんあるし、海も近いから海産物もたくさんある。それは本当はとても恵まれたことなのに、それが当たり前だから、どれだけすごいことなのかまったく意識していない」(山田氏)

山田氏自身、一足のわらじになってから、ようやく地元に馴染んできたそうですが本当に「つながれた」と感じたのは東日本大震災がきっかけだったそうです。当時、商店会のつきあいは回覧板が回ってくる程度でしたが、震災後、商店会内で被害・復旧状況の確認等をメールでやりとりするようになり、「メールまめだった」山田氏が、いつしかハブ的役割を果たすようになりました。「ネットには功罪いろいろあるが、メールでの情報交換・共有で、より早く、より多くの人を身近に感じられるようになった。つらい震災ながら、ありがたい副産物もあった。」と山田氏は振り返ります。

そして、笠間の良いところについて「最近になって行政がようやく観光を意識した情報発信をするようになったこと」、「芸術家支援に力を入れていること」の2つを挙げています。芸術家支援については、焼き物以外の作家、芸術家の受け入れ・支援を始めていることと、県立笠間高校に美術科が設置されていることを評価。「高校の美術科は全国でもそれほど多くはないので、全国から学生が集まってくる。市と提携した動きにも期待したい」と山田氏は話しています。

一方課題はどうか。山田氏が挙げたのは「観光マップ」。笠間稲荷神社や、ギャラリー関係など、それぞれが独自に観光マップを持っており、便利なようでかえって観光客を混乱させています。また、「ネット社会だからこそ、人と人がつながれる場所を」と、観光案内所の有効活用にも期待していることを語りました。

トークの後の質疑応答では、まず「笠間焼の特徴は」という質問が出されました。前回から会場には笠間焼の作品が展示されており、その作品の多様さに関心を寄せる受講生が多かったことから、当然の質問かもしれません。これに対し山田氏は「特徴がないのが特徴」と回答。笠間には全国各地から作家が集まっており、それぞれ異なった素材と手法で独自の作風を切り拓いています。「笠間の土を使った作品を"純笠間焼"とわざわざ『純』と付けるくらい、笠間の土だけにこだわっていないのが、笠間焼の特徴」と山田氏。

また、笠間の陶芸産業の分類について尋ねられると、『焼き物通り』の大手窯元、『陶の小径』の作家兼販売店、『ギャラリーロード』のギャラリー群の3つのパターンがあり、それぞれ異なった商品を扱い、顧客層も少しずつ違うこと、と説明しています。

「日本一の栗産地」だけでは足りない

3人目の登壇者は、笠間市農業公社で理事・事務局長を務める内桶氏。生産面積日本一と言われる笠間の栗の現状と課題を整理して解説しました。

栗は、5000年以上前から日本列島で食べられており、縄文時代には主食のひとつでもあったそうです。笠間市では明治時代に栽培が始まり、昭和40年代に養蚕の桑畑からの転作で栗栽培が拡大。明治時代には友部地区が主産地でしたが、戦後は岩間地区で拡大し、現在は笠間市全体で564haのうち、岩間地区が289ha、友部地区が212haとなっています。茨城県全体で約5000トン、うち笠間市だけで800トンを生産。
「長野県全体で500トンなのでその規模が分かると思う。長野県の小布施にも栗は出しているが、茨城、笠間の栗はまったく認知されていない。売り方が下手なのが茨城県民の特性かもしれない」(内桶氏)
日本で生産している栗は「和栗」と呼ばれ、一説では100種あるとも言われますが、そのうち笠間では代表的な14品種をすべて栽培。早生から晩生まであり、「秋には順番にずっと採っていく」そうです。

「ぽろたん」は剥きやすく、甘みもある期待の品種だという毎年9月末には「新栗まつり」を開催。今年で11回を数えますが、「最初は2、3000人だったが、今では3万人も集まるまつりになった」と内桶氏。会場となる「市民センターいわま」ではさまざまな試食や体験コーナーが設けられるほか、市内の飲食店でも栗を使ったメニューを提供するなど、市を挙げてのお祭りに成長しています。笠間農業公社も、市が立ち上げた「日本一の栗産地づくり事業」に則り、12haの遊休農地を借りて栗の栽培を始めるなど、栗生産に向けて大きく動き始めています。

しかし、課題も少なくありません。まず市内の栗生産農家が多く、まとまった動きができていないこと。実態の把握ができていない部分もあります。また、栗は良い状態で保存することが難しく、秋にとれた栗が持つのは2月頃まで等、年間を通しての活動がしにくいことも大きな課題です。この日内桶氏が課題として詳しく説明したのは、「拾う」「剥く」作業の担い手不足です。

公社では今年、栗拾いを1kg100円で募集し対応しましたが、なかなか十分に集まりません。「慣れた人なら1時間で20kgくらいは拾える。ちょっとしたアルバイトになるが、もっと人が必要だ」と内桶氏。
また、かつては皮を剥く作業をする「剥き子」がいましたが、その文化自体が失われつつあります。「栗は剥くと値段もあがる。そこを外に出さずに、収入につなげる手立てを考えたい」と内桶氏は話しています。栗をペーストにするなどの加工も進めたいところで、市内の加工業者に委託することも始めたそうです。

さらに、先述のように「売り方が下手」なのもなんとかしたいところで、「PRをどうするのか、売り先をどうするのか。ここでもプラチナ大学のみなさんのお知恵をお借りしたい」と呼びかけました。

質疑応答では、主に作業効率を上げるための機械化に議論が集中していましたが、「拾う」「剥く」を機械でやるのは、まだまだ難しいという現状が明らかにされました。

盛りだくさんのビジネスアイデアに驚嘆

発表した受講生

インプットの後はテーブルごとのグループワークを実施。前半は感想のシェア、後半は受講生たちが考えてきたアイデアをシェアするワークです。テーブルには市関係者にも入ってもらい、熱心に議論を交わしました。

その後、各テーブルから代表1人がアイデアを発表。そのどれもがユニークで可能性を感じさせるものでした。

地域の実資源を活用したプロマネ研修プロジェクト......企業のプロマネ研修を笠間の資源、特にお祭りを題材に実施する
「みんな元気に健康かさま」拡大化プロジェクト......医療資源と観光資源をミックスし、健康をキーワードにしたプラットフォームを構築する
『クライン・ガテン(小さな・お仕事)』プロジェクト......クラインガルテン利用者、移住希望者を対象に、地元の農業、工業のちょっとした仕事を体験してもらう
笠間は、どこの誰にどんな価値をどのように提供するのか?プロジェクト......トータルでの笠間ブランド構築のための総体的取り組み案
「パフェの街、笠間」......陶芸と栗をクロスさせたキャンペーン的プロジェクト。飲食店ごとに栗スイーツを開発、それに合わせた器を作家と共同開発。陶器の販売も視野に
笠間"きょういく"プログラム~大人も子どもも丸ごと体験学習~......笠間の資源を活用した体験学習プログラムを、すべての年齢層に対応可能に設計し、誘客を図る
アーティストinレジデンス笠間......作家に笠間市に住み込みで作品を作ってもらうアーティスト・イン・レジデンスを笠間でも実施する。空き家対策、観光資源創出につながる

発表を受けて、後藤氏は「それぞれ異なった視点で面白い」と評価。「企業と結びつく可能性も感じた。個人だけでなく組織的なアプローチもやってほしい」と期待を語ります。山田氏は「これだけ考えてくれたことがうれしい」と感想を述べるとともに、「いろいろありすぎてまとまりのない笠間市だが、いろいろなものを無理やりくっつけることで新しいものが生まれることが分かった」と、発表にインスピレーションを受けた様子でした。

内桶氏は「ぜひ引き続き楽しく活動を続けてほしい」と期待を語ります。「一村一品運動というのがあったが、笠間市は一品では収まらない資源がある。これらを活かした"同時多発"のまちおこしにチャレンジしてみたい。難しい挑戦となるが、ぜひみなさんの力をお借りしたい」と改めて呼びかけました。

最後に講師の松田氏は「『同時多発のまちおこし』は面白い」とコメント。「笠間らしい、ごちゃまぜの良さがある。ぜひ受講生のみなさんも同時多発的に笠間にコミットしてほしい」と話し、この日のセッションは終了となりました。
絞り込み、結び付け、同時多発――これからの笠間を進化を、期待しましょう。


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