イベント丸の内プラチナ大学・レポート

【レポート】同時多発まちおこしの熱気を見よ

丸の内プラチナ大学現地視察ツアー 茨城県笠間市 2017年11月25日

8,11,12

同時多発のまちおこし――それが笠間市の地方創生の「今」でした。栗、焼き物、石材業。市の顔ともいうべき産品が無数にあり、笠間稲荷などの社寺仏閣で観光業にも力を入れています。そんな同時多発のまちおこしの現場を見に行こうというのが、2018年度丸の内プラチナ大学現地視察ツアー第2弾です。東京からのアクセスが良いため、今回は日帰りのツアー。1日だけとはいえボリュームたっぷりのツアーで受講生たちが笠間市の今に踏み込みます。

石切山脈―磯蔵酒造―クラインガルデン―蔵カフェ―笠間稲荷―ギャラリーロード・ギャラリー舞台―いこまらいすせんたあ

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石材業と観光と――石切山脈・想石

石材業と観光と――石切山脈・想石

東京駅八重洲口のバスターミナルを8時30分に出発し一路笠間市へ。2時間弱で最初の目的地である「石切山脈」へと到着しました。

石切山脈とは御影石の採石で形成された、切り立った石の景観です。御影石は笠間を語るうえで欠かせない産業のひとつ。笠間で産出される御影石は白味が多く、独特の味わいがあって「稲田石」と呼ばれています。明治時代に本格的に採石が始まり、100年余りかけて採掘で切り立った独特の景観が形成されたのです。(トップの写真参照)

稲田石のアート作品の前で説明する想石・市田氏

120年前に採掘が始まった「前山採石場」が展望台になっています。採掘坑は展望台から30メートル掘り下げられており、採石が止まっている現在は、地下水が溜まり神秘的な湖となりました。この神秘的な景観がネットで広まり、近年はシーズンになると大勢の観光客が訪れます。観光対応は現地に採石工場を持つ株式会社想石。この日も同社の高田氏が一行をガイドしてくれました。

展望台上には稲田石を使ったアート作品が展示されていました。日本グラフィックデザイナー協会所属のデザイナーが稲田石で彫刻を作るプロジェクト「いなだストーンエキシビジョン」によるもの。東京・六本木の東京ミッドタウンで展示会も開催するなど、アートをテコにしたプロモーションも盛んに行っています。

採石場にある作業場の様子

受講生は石切山脈の奇観やアート作品に引き込まれながらも、隣接する加工場の様子や石の利用方法にも興味津々といった体で、市田氏に根掘り葉掘り尋ねていました。

事前の講座では近年採石業の衰退が著しく、廃業する石材業者も多いと聞いていたため、稲田石の建材以外の利活用法や、石切山脈を観光資源としてさらに有効活用するための方法を考えようとする受講生が多かったようです。歩きながらの立ち話ではありましたが、「バンジージャンプをしては」「歌をうたう場にしても面白い」「岸壁に洞窟を掘り、宿泊施設にする」といったアイデアが次々と出され、市田氏も楽しそうに聞いていました。

人を大事にする酒造り――磯蔵酒造

当代・磯氏次にお邪魔したのが石切山脈からほど近い磯蔵酒造です。こちらは「造ったお酒を自分たち(酒蔵近隣)で飲む」という、一部では地酒の理想形とも言われている地産地消(自産自消)を実現しているそうです。五代目当代の磯貴太氏自ら蔵を案内してくれました。

「味を造っても売れない。まずくても"こだわり"が売れる時代になってしまった」と磯氏は話しており、とってつけたようなこだわりや戦略を持つことについては否定的なスタンスです。それよりも「お酒が一番おいしいのは仲間と飲む時。だから人を大切にしたい」と、人を中心においた酒造りとプロモーションをしています。

もちろん米と水にはこだわります。米はできるだけ笠間産。酒造好適米として山田錦や五百万石、そして日本晴等の一般米も使いますが、90%が笠間産となっているそうです。

水は石切山脈から流れる伏流水を使用。御影石は環境中の成分を吸着する性質があるため、地下水も透明度が高く雑味の少ない超軟水になります。蔵ではこれを「石透水」と呼び、蔵の中にある井戸で組み上げ仕込みに使っています。

酒造りの工程や手法は明治時代頃からまったく変えていないそう。「良く言えばこだわりがあるということだが、悪く言えば機械化する余裕がなかっただけのこと」と磯氏は言いますが、「流行を追いかけるのは良くない」という哲学によるものでしょう。工程の流れを見学した後は、おなじみの試飲、購入タイムもあり、愚直なまでの素直さで酒造りに励む磯蔵の味を堪能したのでした。

「地元の人が楽しむために」――クラインガルデン~蔵カフェ、笠間稲荷

クラインガルテンでほしいもづくりに勤しむ人々その後クラインガルデンで昼食。この日は利用者のみなさんが自分たちの畑で収穫したさつまいもをでほしいもづくりに挑戦していました。クラインガルデンでの活動の様子は東京での講義で十分に学んでは来たものの、いざその場で行われている様子を見るとまた違った感触を得ることができます。昼食には地元野菜たっぷりのけんちん汁、笠間稲荷にちなんだ名物弁当の「笠間いなり」をいただきました。

庭カフェKULA 富田氏そして稲荷神社通りへと移動。日動美術館から、廃業した老舗旅館の「井筒屋」の再建・再利用プロジェクトの現場を通り過ぎ、稲荷神社通りの「庭カフェ KULA」の見学、意見交換へと向かいました。

庭カフェ KULAを営む富田將人氏は、祖父の代から笠間市で飲食業を経営している家系で、富田氏自身は東京で学んだ後2010年に、地元のワカモノが集まれる場を作ろうとUターンしてバー「門前酒場マルトミ」をオープン。その後、「地元の人も観光客の人がともに滞在できる場を作りたい」という思いから、酒蔵が使っていた蔵を利用し、カフェを2017年4月にオープンしました。

中庭は稲田石の石畳が敷き詰められたモダンでシックな空間で、和を感じさせる落ち着いた雰囲気。ここでコーヒーを頂きながら、富田氏、合流した山口伸樹市長も交えて意見交換会となりました。

(上)市長も合流して議論に加わった。(中)カフェでの議論の様子。(下)庭カフェKULAの後訪れた笠間稲荷境内富田氏は、商工会・商店街とは別軸で、「何か新しいことをやる」ことを目的にした団体「かさまち考」のメンバーでもあり、稲荷神社を舞台にしたコスプレイベント、夜の映画祭などを企画・運営しています。意見交換は、拠点づくりだけでなく、広くまちづくりの活動にまで及びました。

結局のところ行政も商工会も、活動目的の根底には若年層の移住定住人口の増加、若者世代の交流人口の拡大があり、笠間稲荷はその格好の舞台・リソースとなっているようでした。どのように有効に活用すべきか、その課題は何か。具体的な内容にまで意見が及びました。

市長との議論は、石材業、農業、産業を含むさらに大きなテーマでの意見交換となりました。目立った議論としては、地元に対する行政の支援が行き届いているのかどうかという制度面の検証、インバウンド対策の方向性の吟味などが挙げられます。単なるアイデアだけではなく、企画を実行・実装するための体制づくりについて包括的な議論ができました。これは受講生たちがヨソモノコースで学んできた成果の現れと言えるかもしれません。意見交換の後は、笠間稲荷を参拝、開催中の菊まつりを見学し、次の見学地へと移動しました。

人々の思いが「同時多発」を引き起こす――ギャラリー舞台、いこまらいすせんたあ

ギャラリー舞台代々窯を構えてきた大手が並ぶ「やきもの通り」、作家が窯とともに小さな店を営む「陶の小道」、そして陶芸に惹かれて集まった移住者が営むギャラリーが並ぶ「ギャラリーロード」。この3つの通りに笠間市の陶芸が集積しています。この日は東京で講義した山田眞弓氏の「ギャラリー舞台」を訪れました。

ギャラリーではちょうど作家展を開催しており、スペースの大半が作品展示で占められています。折しも作家本人がギャラリーを訪れ、作品の解説もしてくれました。多様な作品を見て目を楽しませた一行の中には、気に入った作品を買っていく姿も見られました。

そして最後に笠間の農業の姿を垣間見るために「いこまらいすせんたあ」を訪問しました。いこまらいすせんたあは、無農薬の米農家で、2015年には皇室への献上米にも選ばれています。

経営する生駒敏文氏は40年前に花きから農業を始めましたが、燃料高騰と価格下落から米作に徐々に切り替えてきました。平成に入ってからは農薬を使わない米作りを始めています。「ただ農業をするだけじゃなく、景観を守り、ホタルの里を作りたかった」と生駒氏。ミツバチなど昆虫に悪影響を与えるネオニコチノイド系の農薬を使わない農業。欧米ではミツバチに影響があるとされ禁止されていますが、日本では認可され現在は農薬の主流のひとつになってしまっています。

左が生駒敏文氏

決して平坦な道のりではなく、周囲の農家と足並みを合わせるにも苦労はありました。しかし「できるはず」と信念を持ち続け、2005年には「上郷地域うまい米づくり研究会」を立ち上げ、2009年には「いばらき食と農のブランドづくり協議会」が設立され、体験型農業のグリーンツーリズムも行うようになりました。

有機JASは高額な費用がかかるために取得していません。「来て、実際に見てもらえば無農薬のことが分かってもらえる」と生駒氏。実際に毎年100組以上の体験客が訪れ、有機を求める人の間で、口コミで広まっているそうです。

課題は後継者不足。景観を守るためには、もう少し田んぼを手がけたい。しかしなかなか人手は集まらない。当初120名でスタートした協議会も現在では70名を切ったそうです。近隣で農業に専従するのは2軒だけ。日本のどこでも起きている課題ではありますが、これだけの農業をやっている地方でもなお、同様の問題があるのです。受講生たちは希望とともに苦い思いを味わい、最後の見学を終えて帰途につくことになったのでした。

次は具体的アクションへ

いこまらいすせんたあからの風景。田んぼを山が囲み、空が広がる。当たり前のように美しい光景に心を奪われる

帰りの車中で、講師の松田智生氏(三菱総研)は「同時多発的まちおこし」の現場を見た面白さがあったと話し、笠間市の課題解決のためにもう一歩、踏み込んでいくことを参加者に求めています。

「課題は二次交通や宿。東京からのアクセスが良いがそのためにアプローチする人が少ないのでは。東京の仕事を辞めてウーバーのような仕事を起業するなど、何か一歩入り込んでいくことを考えたい。もっと商売っ気があって良いと思うところが多々あったが、その辺にもビジネスチャンスがあるかもしれない」(松田氏)

笠間のもうひとつの重要なファクターの「栗」は、ツアーに先立つ9月に「かさま新栗まつり」が行われており、シーズンオフのため間近で見ることができませんでしたが、盛り沢山の同時多発的まちおこしの現場を見ることができたツアーとなりました。学ぶところも多く、受講生たちも今後さらに活発にコミットしていくことが期待されています。


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