シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

絶滅の危機にあるニホンイシガメは今

ニホンイシガメは、世界中で日本にしか分布していない日本固有種です。池や沼、川などの淡水域に生息し、本州、四国、九州とその周辺の島嶼に分布しています。しかし、近年は河川の改修や池沼の減少、コンクリート護岸の整備、水質悪化などにより、個体数が著しく減少しています。また、一部の地域では外来生物アライグマによる捕食被害や、外来カメ類のミシシッピアカミミガメの定着、また同所的に生息するクサガメの分布拡大もニホンイシガメの減少に影響しているのではないかと考えられています。現在、ニホンイシガメは環境省および28都府県のレッドリストに記載されています。もはやニホンイシガメは、私たちにとって "幻のカメ"となってしまいました。
そこで、今回の「知恵ブクロウ」では知られざるニホンイシガメの生態と現状をご紹介します。

これが、ニホンイシガメ!

前から見ると肉まんよりは薄く、どら焼きよりはやや厚い。背中の甲羅は全体的に黄土色っぽく、そこに緑や黒の点々が混ざって、何とも言えない渋い色。お腹の甲羅は全面真っ黒。大人になっても甲羅の長さは最大20cm程度。

ニホンイシガメの最大のチャームポイントは、目(と、私は思う)。クリクリで、とてもキュート。鼻先はやや尖っています。水底を歩きながら岩や石の隙間に顔を突っ込んで、エサを探しているようです。雑食性で、水草、陸生植物の葉や果実、昆虫、貝、小魚などさまざまなエサを食べます。

産卵時期は5月下旬から8月上旬。メスは陸上に穴を掘り、産卵するとまた自ら穴を埋めます。1回の産卵数は1〜12個程度。年2回産卵することもあるそうです。

ニホンイシガメに会える場所

都市部の公園や水辺でも、極めて少数ですがニホンイシガメが生息・繁殖している場所があります。

その一つが、東京都練馬区にある石神井公園三宝寺池です。三宝寺池は武蔵野三大湧水池の一つで、国指定天然記念物「浮島沼沢植物群落」があり、1970年頃までムサシトミヨ(現在、都内全域で絶滅)という珍しい魚が生息していました。しかし1980年ごろから、外来魚やミシシッピアカミミガメ、カミツキガメが繁殖するようになり、当池の在来生物と生態系は危機的状況に陥りました。そこで、2007年から私たち生態工房は東京都および公園管理者と協力し、当池で外来カメ類の駆除を行うことにしました。現在、三宝寺池では外来カメ類が激減し、在来カメ類のすみかが少しずつ回復しているところです。そして、今ここでは12匹のニホンイシガメが確認されています。

春から夏の晴天の日であれば、日光浴中のニホンイシガメに出会えるかもしれません。もしも出会えたら、あなたは超ラッキーです!

ニホンイシガメを守るのは、私たち日本人の役目

私たち生態工房では、ニホンイシガメを絶滅の危機から救うために彼らの生息地で様々な保全活動を行っています。また、当会ホームページでは三宝寺池のニホンイシガメを1個体ずつ紹介し、市民の皆さんにカメたちの生息環境を守る活動を支援してもらう「ニホンイシガメ応援団」という制度をつくっています。

当然ですが、日本でニホンイシガメが絶滅するということは、地球上からこの生物が消えていなくなってしまうということです。日本固有種として最も近くでニホンイシガメを見守り、その存続を強くサポートできるのは、私たち日本人しかいません。今後、多くの皆さまがニホンイシガメの守り手となって、日本各地の保全活動を支援してくださることを願っています。

片岡 友美
片岡 友美(かたおか ともみ)

東京都生まれ。認定NPO法人 生態工房職員。主に都市部の公園や水辺で、行政や市民とともにアカミミガメや水生外来生物の防除を行っている。
このほか、水辺の外来生物問題に関する講演や水辺の生きもの観察会などの講師も行い、外来生物法や外来生物問題の普及啓発に注力している。
認定NPO法人 生態工房

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