シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

永遠の虫捕り少年

『虫』と聞くだけで、ワクワクしてしまう。私の周りにはそんな大人が沢山いる。

虫との出会い

虫との出会いは何歳ごろだったのか、今となっては記憶も定かではない。幼少のころから網を手にし、野山を駈けずりまわっていたことは覚えている。陽が燦々と降り注ぐなか、夢中になってセミ捕りをしたものだ。
子供のころは、千葉県に住んでいた。当時、捕れるセミといえば大半がアブラゼミで、透明な翅をしたミンミンゼミが捕れようものなら、友達から羨ましがられ、英雄気取りでいたものだ。

原っぱに行けば、トノサマバッタがいた。この虫は手強くなかなか捕れない。捕れないバッタ故に"トノサマ"という名が付けられたのだろうと思った。このバッタを捕まえた時は、口では言い表せないほど嬉しく、天にも昇るような心地であった。

小学2~3年の頃、虫捕りに一人で雑木林へ行ってみたことがある。
緊張と不安で採集に専念できなかったが、大物のゴマダラカミキリを運よく捕まえることができた。

あまりの嬉しさに走って自宅へ持ち帰ったことを覚えている。
家にあがり、虫かごから恐る恐るカミキリを取り出し、そっと手の上に乗せてみた。何てソフトなのだろう。軽くて優しい感触は、初めての体験だったので忘れられない。
カブトムシ、タマムシ、クマゼミと、挙げれば数え切れないほどの思い出がある。
学生時代は部活に追われ、昆虫から遠退いていたものの、社会人になってからは元の鞘に収まり、昆虫の世界に浸っている。

昆虫採集とは

昆虫採集ほど楽しい趣味はない。
網を構え、息を殺して捕らえるタイミングを待つ。胸がときめく。サッと網を振った瞬間、捕らえた虫が網の中でバサバサと翅音を立てている。この上もない幸せの瞬間である。

生きもの全般にいえることだが、各々の虫にはそれぞれに食べる物が決まっている。つまり、草食の昆虫を捕まえたいなら、その虫の食べる植物が生えている場所へ行くことだ。こういう経験の積み重ねにより、生きものの"つながり"が見えてくるはずだ。さらに、採集した虫を飼育することで観察眼が養われる。また、飼育する虫と生活を共にすることで、形態や生態を知り、命の尊さまでを学べるのではなかろうか。

もし、虫捕りをしている子供たちに出会ったら、温かく見守りたい。何年か前、「虫は捕らないで、写真を撮ろう」という人が現れた。大勢の人が一斉に採集してしまうと、生息個体が激減する危険があるからだという。確かに、一部の環境にしか生息しない希少種であれば、そのような危険性もあるだろう。しかし、すべての虫に同じようなことが言えるだろうか。むしろ、各々の虫が生息できる環境を、少しでも多く保護し、保全することのほうが望ましいと思う。

現在、私は子供たちに虫の捕り方や標本の作り方を教えている。男の子ばかりではなく、女の子も大勢参加してくれる。
これを機に、第二、第三のファーブルが現れることを願って止まない。
たとえファーブルになれなくても、観察眼が養われれば、それからの人生は楽しいものになっていくだろう。

荻原 健二
荻原 健二(おぎわら けんじ)

千葉県育ち。小さい頃から生物の採集と飼育に明け暮れる(特に昆虫)。カブトムシ、クワガタ、スズムシ、クツワムシ、カミキリ、カエル、ザリガニ、トカゲ、カメ…。
一時オオクワガタにも夢中になる。子供が手を離れる頃より標本の作り方、採集の仕方etcを教えている。現在、日本昆虫協会理事。
日本昆虫協会

おすすめ情報