シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

海を渡る、砂浜のパイオニア甲虫

最近、新聞やテレビのニュースで、皇居の生物調査で、未発見の植物が見つかったとの報道がなされました。

それは、今上天皇のご意向により吹上御苑を中心に動植物の生息調査が行われたからです。
調査は、国立科学博物館の職員が中心となり、専門家が平成8年~平成12年(1996年~2000年)に行い、その報告書がそれぞれ刊行されました。

刊行と共にすぐに売り切れになりましたが、再版され動物については現在でも上野の科学博物館ミュージアムショップで入手できます。注1・2それには、吹上御苑には翅が痕跡的で地表を徘徊するヒナカマキリの記録があります。飛べないので江戸城築城以来いたのでしょう。

では、新しく生じた土地はどのように昆虫が住み着くのでしょうか。
埋め立て地や植栽植物の影響のごく少ない砂浜について見てみましょう。

東京湾には埋め立てて新しく海岸を造成されたところがあります。陸から隔離されたものとして、東京都の葛西臨海公園の"西なぎさ"と"東なぎさ"。堤防に接して堤外に作られたものとして、都内のお台場海浜公園、千葉県では船橋市の三番瀬海浜公園、千葉市は幕張の浜、検見川の浜、稲毛の浜です。 夏なので、海、砂浜に目を向けましょう。 東京都内の人工なぎさを見ましょう。

葛西臨海公園の"西なぎさ"は橋でつながり人が海に触れられます。砂浜の景色は海側から、なぎさ、砂地、海浜植物(草本)群落と続きます。
そこに住む昆虫にとっては、過酷な環境です。昼間の強い日射、高温の砂、乾燥、まばらな植物群落です。海岸性甲虫は、そこに生息する植物を餌や隠れ家にするか、漂着物を利用するかです。人工の砂浜の海岸性甲虫は、他の海岸から、大波にさらわれ、漂流物とともに漂着したと考えるのが妥当です。

海岸性ゴミムシダマシ類は夜行性なので、生息調査は夜間に行うことが多く、夏の暑い日差しを避け、遠くの灯火、月夜や満天の星空の涼しい海岸を歩くのは醍醐味でもあります。

皆さんも、夏の夜に海岸性の甲虫を探しに出てみては如何でしょうか。厳しい環境下でもたくましく生きている生きもの達に出会えるでしょう。

※掲載した写真は、前述都内の海岸に生息している種ですが、必ずしも都内産の撮影ではないことをご了承ください。
※注1 国立科学博物館専報35号、2000年、「皇居の生物相Ⅱ動物相(昆虫を除く)」
※注2 国立科学博物館専報36号、2000年、「皇居の生物相Ⅲ昆虫相」

山﨑 秀雄
山﨑 秀雄(やまざき ひでお)

千葉県市川市生まれ。元中学校・高等学校理科(生物)教諭。NPO法人自然観察大学講師。
千葉県レッドデータブック作成検討委員会委員として、動物編(2000年)の執筆、甲虫類を中心にレッドデータ種を指定。平成18年千葉県知事表彰(環境功労)。
著作、「昆虫博士入門」全国農村教育協会、ほか、共著、地域昆虫生息調査報告書など多数。2014年7月中旬には「昆虫博士入門」が全国農村教育協会より発行。
自然観察大学HP

おすすめ情報