シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

魚と人のメコン河 ―漁具からみる多様性―

東南アジアの大陸部を流れるメコン河の流域では、確認されているだけでも約850種の魚が生息しています。河は、世界第2位の水棲生物の多様性を誇り、流域には約6千万もの人が暮らしています。

メコン河は、モンスーンの影響で雨季と乾季があり、水環境が激変する場所です。川も例外ではなく、場所によっては10m以上水位が変わります。この流域の魚の多くは回遊魚ですが、海と川を行き来する種類だけでなく、乾季の厳しい乾燥を避け、餌場や産卵地を求めて全長約4800kmの大河の中を大移動する種類もみられます。

多様な魚を獲る方法は、やはり多様で道具もたくさんあります。一番よく使用されているのは、日本でもおなじみの"化学繊維の刺し網"ですが、そのほかに、"魚の通り道を予想して追い込む"、"餌でおびき寄せる"、"魚が急流を上がり損ねたところを捕える"など、さまざまなスタイルの漁具があります。

まず、"通り道を読む漁具"ですが、こちらは、タイやラオスで「ロープ」や「イロン」と呼ばれているものです。地形をみて、魚が通りそうなところを探し、更にフェンスで魚を誘導して追い込みます。

次に、"餌でおびき寄せる漁具"です。こちはら「トゥム・ラーン」と呼ばれる、鳥かごのような形をした漁具です。餌で魚をおびき寄せます。流れの緩やかなところで、浮きと錘でバランスをとって川底に置くようにします。

通常は、糠(ぬか)でコイ科の魚をとりますが、餌を水棲昆虫に変えると、日本では観賞用で飼育される魚もかかります。(もちろん、食べられます)

こんな魚も食用です。

回遊魚が巡ってくる季節は、特に漁が盛んです。群れで川をさかのぼってくるので、網ですくい取ることもできます。漁師さんたちは、共同で足場を築いて魚をとっています。

こういう時期はとてもたくさん魚がとれるので、河原の石の上でそのまま干す光景も見られました。

日本でいう「簗(やな)」もあります。雨季、メコンの水は滝のように流れていますが、落ちたら終わり、というような場所に細い竹で橋をかけ、地元の人は平然と行き来しています。

自然の素材をそのまま漁具にすることもあります。木の枝やヒョウタンも、漁具として立派に通用します。写真のような木の枝を束ねて水につけておくと、小魚や小エビが集まります。ヒョウタンに釣り針と餌をつけ、1kmほど流して下流で受ける、という漁もあります。この漁具では、水面近くで昆虫などを捕食するナマズの仲間を獲ることができます。

豊かな魚と、それとともにある人びとの暮らしが続いてきたメコン河流域ですが、最近は、電力開発のために、水力発電ダムの建設が盛んになってきました。ダムは魚の移動を阻み、水質を悪化させるなど、様々な環境劣化を引き起こします。発電の手段は他にもありますが、メコンの自然環境はここにしかありません。そして自然は、人々の暮らしに欠かせないものです。日本のNGOである私たちも、調査や映像の記録でこのメコン河の価値が広く認められるよう、微力ながらお手伝いを続けています。

開発を巡る問題については、
メコン・ウォッチのホームページをご覧ください。

木口 由香
木口 由香(きぐち ゆか)

NPO法人メコン・ウォッチ事務局長。
ダムによる環境問題に関心を持ち、メコン河の漁具調査を2000年ごろから始めたことがきっかけで、メコン・ウォッチに参加。人々の暮らしの調査、映像制作でメコンの魚や人の暮らしの豊かさや開発問題を伝える活動を続けている。
NPO法人メコン・ウォッチ

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