レポート

フラットな組織とゆるい空間が都市のクリエイティビティを進化させる

井口典夫 青山学院大学総合文化政策学部教授
by 狩野健二

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井口典夫

井口典夫(いぐち・のりお)

1956年東京都渋谷区生まれ。80年東京大学卒業後、運輸省(現国土交通省)入省。94年青山学院大学経営学部教授を経て、2008年より現職。07年から同大学社会学連携研究センター所長も兼務。専門はクリエイティブ経済論、創造都市論。学外では文化経済学会理事、NPO渋谷・青山景観整備機構理事長、NPO明日の神話保全継承機構理事、東京都歴史文化財団運営諮問委員会委員などを兼務。近著に「青山文化研究」(宣伝会議)、訳書に「クリエイティブ資本論」「クリエイティブ都市論」(ダイヤモンド社)などがある。

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「クリエイティブ・クラス」(知的生産を担う社会階層)が主導する経済とともに、そうした人びとが好んで集まる都市(クリエイティブ・シティ)が注目を集めている。ファッションやアート、デザイン、メディアなど多様な分野のクリエイターが集い、先端文化を創造、発信し続ける「渋谷・青山」のまちづくりに長年携わってきた青山学院大学の井口先生に、大丸有がその潜在的な機能を発揮し、存在価値を高めていくための方策等についてお話をうかがった。

1. クリエイティビティの母体はコミュニティ

クリエイティブ・シティには「集積→交流→展示→創造→発信」といった機能のサイクルが内在しています。大丸有の特徴をハード面から見ると、先端的なビルが集積し、多くの人が集まってきていますので、集積・交流においては一定のレベルに達している。次は展示でしょうか。たとえば都市空間の面白いつくり方や使い方のモデルを多くの人びとに見てもらう。そこに四番目の創造機能が加われば、さらに存在価値が高まるでしょう。発信機能においては、まだ課題がありそうです。

一方、ソフト面から見たとき、三つの特徴をあげることができます。第一に知的で均質な人材が集まっていること。高学歴のビジネスパーソンですね。第二は日常生活や社会一般との距離感があること。第三は海外との緊密なネットワークがあることです。第一と第二の特徴は裏表の関係にあります。同質・同レベルの人たちとの交流は、共感が得られやすく効率的である反面、そこから一般社会に求められるものが創造される可能性は少ない。B to B関係の商品やアイデアは出てくるでしょうが、なかなか社会全体を大きく変えるようなものを創造するのは難しいのではないか、と見ています。

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第三の海外ネットワークは大きな強みですね。大丸有にはグローバルに事業を展開する企業が多く、海外での経験が豊富な方も多いでしょう。ですから、海外から見た日本として、いま何が注目されているのかを、ほぼリアルタイムで感じとれる。それを企業の現場サイドや一般の生活者につなげることができれば面白いと思います。そのために、多様で異質な人たちとの交流を積極的に図っていく必要を感じます。

丸の内朝大学は、エリアの創造機能を高めることにもつながり得る興味深い取り組みです。受講生は、そこで得た知識や情報を自らの生活の場において実践し、活用してみる。そこから一般の生活感覚で物事を見ることができるようになり、その感性が職場にフィードバックされる、といった構図が期待されます。

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さらに丸の内朝大学は、クリエイティブ・クラスを志向する個人の意識変化の上に位置づけることで、その価値が一層鮮明になります。―会社はつまらない。思うような仕事をさせてもらえないし、評価もされない。上下関係は複雑で面倒だ。家庭にも居場所がない。奥さんは子どものことばかり。会社と家庭以外の場所に自分らしさを見つけられる空間がほしい―こんな思いを持つビジネスパーソンに、丸の内朝大学は貴重なコミュニティを提供し得るのです。

ひと昔前のビジネスパーソンは、駅前の赤提灯で飲んで憂さを晴らしてから自宅に帰るという行動を通して、自分なりの(赤提灯の常連客としての)コミュニティを持っていました。このようなコミュニティを丸の内朝大学ほか大丸有全体で提供できれば、大きな意味があると思います。仮に、そこから何かが創造されるならば、それがクリエイティブ・シティの始まりとなります。

クリエイティブ・シティをつくること自体を目的にすると、それは「仕事」になってしまいますし、思うような結果を出すことは難しいでしょう。むしろ、ビジネスパーソンが個人として共感でき、それぞれがやりたいことを自然にできるようなコミュニティをつくってあげれば、それが自然とクリエイティブ・シティにつながっていくのです。
丸の内朝大学

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