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「環境と観光」LED導入で果たした、千鳥ヶ淵 夜桜ライトアップの90%省エネ~尾島教授・高木千代田区観光協会会長対談~

毎年多くの人で賑わう千鳥ヶ淵の夜桜ライトアップ。実はLED照明を使用したエコなライトアップだって、ご存知でしたか?

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2009年に導入され、90%の省エネに成功した千鳥ヶ淵の省電力LED照明は、その後、常盤橋のライトアップや、行幸通りのイチョウ並木のライトアップ、米子城再生プロジェクトにも活用されるなど、大丸有から全国へと広がって活躍しています。

今回は、そんな千鳥ヶ淵のエコな夜桜ライトアップのサイドストーリーをご紹介します。

尾島俊雄(左)

工学博士・(社)都市環境エネルギー協会理事長、アジア都市環境学会理事長、早稲田大学名誉教授
1937年富山県生まれ
日本建築学会会長、日本学術会議第5部会員、早稲田大学理工学部長などを歴任。都市環境工学の第一人者。2008年には、「都市環境工学の発展に対する貢献」により日本建築学会賞大賞を受賞。社会的活動の幅も広く、「とやまふるさと使節」なども務めている。

高木茂(右)

千代田区観光協会会長
1939年群馬県生まれ
2001年三菱地所取締役社長・現三菱地所取締役相談役「ビジネス街」丸の内を、人々が交流し憩いと賑わいのあるまちに変えたキーパーソンの一人。

環境に配慮した夜桜ライトアップを模索

高木: 「千代田のさくらまつり」では、千鳥ヶ淵の夜桜ライトアップはとても好評を博しており、10年以上続いています。毎年、約100万人もの人に千鳥ヶ淵の夜桜を堪能してもらっています。イベントとしては昨年も大成功だったのですが、後日、「反省する点はないか」と観光協会事務局長の岡田さんといろいろ話をしました。そして舞台裏がわかってくるにつれ、「環境負荷という点からどうなのだろうか」という疑問が沸いてきました。

確かに多く人が集い楽しんでくれる。しかしその一方でライトアップに使用するハロゲンライトは桜に熱を放射し、発電機は騒音と排気ガス、そしてCO2を排出しています。 そうした環境に対する配慮ということを考えるなら、ライトアップを止めるという消極的な判断もあったと思われます。しかし「桜のライトアップを中止するのではなく、環境にも配慮した方法でライトアップができないものか」。その方向で頭をひねっていたところでした。

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そのおり、区が千鳥ヶ淵のボート場を改修するという話を聞きました。ならば、「ボート場周辺に太陽光発電設備が設置できないだろうか」という考えが浮かんできました。これは、たまたま、岡田さんがその分野で世界的なトップランナー企業の三菱重工のOBだったから出てきた発想だったのですが(笑)。ただ、ボート場の改修計画はかなり進んでいて、そこに設備の話をねじ込むのはなかなか難しい。その解決策として岡田さんが三菱重工さんに打診したところ、設備を寄贈してくれることになったのです。

尾島: そうですか。実は、私は三菱重工の太陽光発電設備についてはよく知らなかったのですが、今回のお話を聞いて、いろいろ素晴らしい技術をお持ちだということを教えられました。

LED照明で消費電力は従来の10分の1

高木: そんなわけで自然エネルギー源は確保できそうだと。そして次は電気を食わない照明ということで、最近定着しつつあるLED(発光ダイオード)照明に着目し調べてみたのです。ちなみに従来のハロゲンライトによるライトアップでは 150kWhの電力が必要でした。ところがLEDでライトアップすると、理論上15kWhになるのです。

尾島: 10分の1というわけですね。まさに桁違いですね。それが実現すればすごいことだと思います。

高木: 環境に配慮するという点から単に桜のライトアップを止めるのではなく、太陽光発電とLEDの組み合わせで環境にやさしいライトアップする。そんなことが俄然、現実味を帯びてきました。おりしも、今年*、千鳥ヶ淵緑道は、「四季の道」としてリニューアルします。ボート場もそうです。なんといっても千代田区が「環境モデル都市」になった。そのことで今回のライトアップ実現に向けて区や三菱重工関係者はじめ、多くの方が協力してくれることになりました。まさに「天の時、地の利、人の和」がそろったというところでしょうか。

尾島: 私が素晴らしいと思うのは、昼の太陽光を活用して夜の桜をライトアップするという発想です。これはまた、夜、極端に人口が減る千代田区に、"観光"で人を呼ぶという意義もある。アメリカに目を向けるとグリーンニューディール(脱温暖化ビジネスを広げていくこと)を提唱しているようですが、具体的な策としてはなかなか見えないのが実情です。ところが日本の千代田区では、今まさに、昼間、太陽光で作った電気を利用して夜の桜に光を当てることを実現しようとしている。しかも、省電力で高熱を放射しない、桜にもやさしいLEDを活用して。それは環境配慮の面からもわかりやすいということに加え、こういうことが日本の環境技術なんだと主張できるでしょう。

news100324_03.jpg環境は人間を取り巻く「物」「態」「情」――つまり、物体・状態・情緒なのですが、夜桜のライトアップはまさに「情緒」にかかわっています。特に、お濠の夜桜は日本文化の象徴といえるでしょう。たとえば私のところにくる留学生についてお話しますと、中国の留学生の第一志望の行き先は実はアメリカなのです。そんな彼らを皇居周辺の夜桜見物に連れて行くと、人とのコミュニケーションも含めて日本文化に感動を覚えるのです。それにより彼らの日本への意識も変わる。「観光は地域の文化を心で観ること」とすれば、彼らが初めて日本文化を"観る"機会――それが皇居周辺の夜桜見物なのかもしれないですね。もちろん毎年、留学生の顔ぶれは変わるのですが、口コミで夜桜見物の話が伝わるらしく、留学生たちの夜桜見物は30年近くも続いています。

高木: そうなのですか。留学生の方がそんな感覚を持たれているとは存じませんでした。桜は日本の情緒・文化としてとても貴重な観光資源というわけですね。

千鳥ヶ淵が環境配慮のライトアップのメッカに

尾島: 本来はたいまつや篝かがり焚き火に照らされて、ゆらゆらと揺れる夜桜を観るというのが、趣があるのでしょうが、火の扱いなどいろいろと別の問題も出てくる。そんな中で先端技術を活用した究極の策がLEDによるライトアップなのかもしれませんね(笑)

高木: 千鳥ヶ淵の桜並木は約700m。そんな規模をLEDでライトアップするというのは全国でも初めてだと思います。その設備を後々、地域のイベントや他の自治体のライトアップ事業などにも使ってもらえないかなと考えています。それによって、環境に対する負荷を軽減したライトアップが全国に広がっていくのではないかと考えています。

尾島: 私はそれこそ日本文化の原点ではないかと思いますね。たとえば、伊勢神宮は20年ごとにまったく同じ形で建て直されます。建替えられた後の古い材料は日本各地の神社に譲り渡されたりして再利用されているのです。それと同じように、千鳥ヶ淵が環境配慮のライトアップのメッカになって、桜前線にそって他の地域で千代田区のLEDの設備を使ってもらう。それこそが「観光」と「環境」のベストミックスという広報になる。

news100324_04.jpg 高木: ぜひ、先生のところにいらっしゃる留学生の方々にも、このLEDでライトアップされた夜桜見学に来ていただいて、ご感想などをいただければと思いますね。それにより「LEDによる夜桜ライトアップ」のことが留学生のみなさんから世界に発信されることにもなります。

尾島: LED技術はまさに文明の一端です。それを使って環境に配慮して夜桜を照らす。そこに多くの人々が集い感動を覚える。それはまさに日本文化ですね。文明の競争はインターネットの世界でも判ります。「観光は文化を観に来ること」。とすれば、文化の競争はフェイス・ツー・フェイスでないと理解できないということですね。

高木: 今日は、先生に大変勇気づけられました。ぜひ、今年も千鳥ヶ淵のライトアップにいらしてください。

* 2009年

初出: 千代田さくら祭り2009公式ガイドMAP

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