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【地球大学アドバンス速報】(2010年度 第1回)「TOKYO SHIFT」へのビジョン――竹村真一基調講演

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「地球規模で持続可能性が問われる一方で、地球の70億近い人口の半数が都市に集中するいま、都市の持続可能性が大きなテーマになってきています。

ここ東京は、400年前の江戸開幕、150年前の明治維新と、歴史の中で2度の大きな転換点を迎えました。そして現代、20世紀的な視点では高度に発達を遂げたこの大都市も、地球的な視点で見れば大きな脆弱性を内に抱えているといえます。いまこそ、東京を持続可能な形にリデザインすることが必要ではないか。

江戸開幕・明治維新に続く第三のジャンプを東京が果たすべく、東京と日本の未来のビジョンを、ここ丸の内から提示していこうというのが、5年目を迎えた今年度のテーマ『TOKYO SHIFT』です」(竹村真一氏)

4月12日 (月)に行われた2010年度 第1回の地球大学アドバンスは、地球大学アドバンスの企画・モデレーターをつとめる竹村真一氏の基調講演。「TOKYO SHIFT」のために竹村氏が注目するポイントは、水、エネルギー、食料、高齢化の4つ。それぞれのポイントについて、東京の置かれている現状と課題を見ていきましょう。

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「水」

いまの東京の姿を見る前に、少し時計の針を戻してみましょう。6,000年前の縄文時代、海面は今よりも3~5メートル高かったと言われています(縄文海進)。そのとき、東京都市部の東半分は海の下にありました。 その後、地球が寒冷化するにつれて、4,000年前には今とほぼ同じ海面の高さになったとはいえ、徳川家康が江戸に入府した400年前の江戸の姿は、今とはだいぶ様子が違っていました。江戸城大手門のすぐ前面にまで海が入り込み、今の有楽町や新橋は「日比谷入江」と呼ばれる海の中にありました。日比谷の地名は海苔の養殖に竹の「ヒビ」(海苔そだ)に由来しています。また、遊郭で名を馳せた吉原は「葭(よし)の原」を地名の由来に持つ湿地帯でした。

徳川家康による大規模な治水・干拓事業で、江戸の町は100万都市としての礎を築くことになりましたが、川の氾濫に弱いという脆弱性を完全に除去することはできませんでした。昭和22年に発生したカスリーン台風による利根川決壊、近年では、頻発するゲリラ豪雨による水害や温暖化を要因とする海面上昇など水害による脅威は常に私たちの身近にあります。

明治維新後に受容した西洋近代の治水思想では、水は最短距離で海に流すのを理想としてきましたが、近年の被害は、その思想の限界を露呈しています。雨水や地下水の活用を進める一方で、氾濫を前提にした都市のデザインが必要だと、竹村氏は訴えます。一元的で硬直的な水系デザインから、多元的で柔軟な水系デザインへの「SHIFT」が求められているということでしょう。

「エネルギー」

自給率4%と、我が国はエネルギー資源の多くを他国に依存しています。年間25兆円、鉄鋼・家電・自動車メーカーの輸出額に相当する金額を、石油を買うためだけにつぎ込んでいます。中国・インドの成長により石油を求める人は今以上に増え、石油の価格はさらに上がることが予想されます。石油に依存した経済が立ち行かなくなるのはもはや時間の問題です。

また、原子力発電は、4つのプレートが交差する地震大国・日本において、安全性を完全に担保する方策は乏しいというのが現実のところと言えそうです。 残る選択肢は自然エネルギーしかありません。自然エネルギーを「基幹」エネルギーとして位置づけていくことが求められる時代に突入しています。そこで竹村氏が注目するのは、一大エネルギー消費地・需要地としての東京です。新丸ビルがこの4月から「生グリーン電力」を導入したように、東京にある多くのエネルギー消費拠点が、自然エネルギーの導入にもっと積極的になれば、日本のエネルギー産業・政策のあり方を大きく変える可能性があると、氏は期待を寄せています。

「食」

東京は、食についても大きな課題を抱えています。東京の食料自給率は1%。残りの99%を都外・国外に依存しています。

現代は、極限に近い状態までグローバリズムが進んでいます。世界中が、近くの田畑ではなく、遠く離れた穀倉地帯に自分たちの食を委ねるようになりつつあります。とどまるところを知らない肉食の増加が、穀物と水を人間から奪い、栽培効率を追求するあまり、種の画一化が進んでいることも懸念されています。 こうした状況を踏まえ、竹村氏は、都市が食料生産能力を持つことの重要性を訴えます。キューバは、200万都市ハバナで有機農業を推し進め、少なくとも野菜類については自給に成功していると言われています。

また、エネルギー同様、食料の一大消費地・需要地としての東京にも竹村氏は期待を寄せています。東京が食料生産拠点になるとともに、国産食材をより積極的に求めるようになれば、世界の食料生産ストレスの低減につながるということです。

「高齢化」

首都圏では5年後に高齢者人口が1,000万人を超えると言われています。未曾有の高齢化社会の到来です。

さまざまな問題を抱えながらも高度に発達した東京が、高齢化社会にどのように対応していくか。古今に例のない課題であるがゆえに、何が起こるかを予見することも難しいと言えるでしょう。だからこそ、東京はセンシティブな都市になる必要があると竹村氏は考えます。ITやセンスウェアを駆使して、都市が環境や社会の変化を鋭敏に読み取り、柔軟に変化・対応していくような都市のデザインが必要だ、ということです。

東京が、これらの課題を乗り越え、「TOKYO SHIFT」を実現する上で最大の障壁は何か?

21世紀の東京の都市デザインを大局的に考える場所も人間もいないことだ、と竹村氏は言います。「TOKYO SHIFT」を迫る外部環境の変化は待ったなしの状況です。ここ地球大学では、各分野の専門家を招いて議論のベースになる情報を共有しながら、参加者とともに東京と日本の未来の姿を描いていきます。

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次回
第30回地球大学アドバンス 〔TOKYO SHIFT シリーズ 第2回〕 「TOKYOの生物多様性」~陸からの視点、海からの視点

  • テーマ : 「TOKYOの生物多様性」~陸からの視点、海からの視点
  • 日時 : 2010年5月24日 (月) 18:30~21:00
  • ゲスト : 西海 功氏 (国立科学博物館動物研究部・研究主幹(鳥類))
    清野 聡子 氏(九州大学大学院工学研究院環境都市部門 准教授 )
  • 企画・司会 : 竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
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