4月6日から7月25日まで、丸の内ブリックスクエアに隣接する三菱一号館美術館で開かれている「マネとモダン・パリ展」。連日大勢の観客でにぎわっています。
マネといえば19世紀のパリを代表する画家の一人ですが、ところで今回のマネ展、来場するのは熱心な絵画ファンの皆さん、だけではないみたいです。その理由とは? 三菱一号館美術館館長の高橋明也さんに聞きました。
1953年生まれ。東京藝術大学大学院修士課程終了、国立西洋美術館勤務。文部省在外研究員としてフランス・オルセー美術館開館準備室に在籍後、国立西洋美術館学芸課長を経て現在に至る。
そうですね。大丸有というビジネス街の真ん中に明治期の歴史的な建物があって、しかもその中に美術館があるというのは極めて珍しいと思います。絵画だけでなく建物そのものも鑑賞する楽しみがありますね。
ビジネス街の中に美術館があるということは、言い換えれば日常とアートが密着している、ということです。昼休みや仕事の合間にふらっと訪れると、そこには普段とは全く異なる速さで時間が流れている。そのギャップが新鮮なのだと思います。
すぐに来られる親しみやすさがある一方で、展示されているのは世界的な名画。生活のすぐそばにありながら、その中にはない全くベクトルの違う世界、新しい価値観や美と出会うことができるのが、ここの大きな特色と言えるでしょう。
マネが生きた19世紀のパリは、「パリ改造」と呼ばれる大規模な再開発の真っ只中でした。ここ大丸有でも再開発が進みますが、当時のパリには現代と相通じる時代性があったのです。マネは都市に生きた画家ですが、人と都市、アートの間には連動し、響きあう力が働いていて、その中からマネの絵画も生まれました。
まちと人との関係は共生し、時に反発しながら続いている。そういうものなのではないでしょうか。マネの面白いところもそこにあって、都市のダイナミズムに身を浸しながらしかし全ては受け入れず、独自の進み方で絵を描き続けたところにある、と私は思います。当時のパリで物議をかもしたスキャンダラスな作品には、そんなマネの反骨心も垣間見えるかも知れません。
私自身もマネの作品が大好きです。モダンで洒落ていて、それでいて強いものを持っている。19世紀パリの絵画というと印象派を連想しがちですが、印象派に大きな影響を与えたマネの作品の良さは、もっと見直されてもよい。みなさんが働くオフィスのそばで、みなさんと同じように都市に生きたマネの名画に出会える。これって、ちょっとスゴいことだと思いませんか?
向こう3年分の展示スケジュールは既に決まっていて、順次お目見えすることになるでしょう。一つの展覧会を企画するのには数年の時間がかかるもので、アートというものはそんな長いタイムスパンで動いているのです。すべてがめまぐるしく移り行き、消えてゆく現代の生活の中で静かな時間の積み重ねが感じられる、そんな感じの世界的なレベルの美術館にしたいと考えています。ご期待ください。
三菱一号館は三菱の創業者である岩崎家とも縁が深いのですが、実はマネは岩崎弥太郎、そして「龍馬伝」の坂本龍馬とも同時代人(マネ[1832-1883]、岩崎弥太郎[1835- 1885]、坂本龍馬[1836- 1867])。時代に立ち向かいながら道を切り開いた所などは、よく似ています。そんな視点で「マネとモダン・パリ展」、そして三菱一号館美術館を楽しむのも面白いかも。
ダイナミックな都市の変化と影響しあいながら生まれたマネの作品を観ると、いつもの丸の内もまた違った表情を見せてくれるでしょう。