松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。
大丸有で毎年行われる「打ち水プロジェクト」は、いわば大丸有の夏の風物詩。今年は7月30日の行幸通りから「打ち水プロジェクト2010」が始まります。江戸時代から伝わる涼の知恵「打ち水」をテーマに、ナビゲーターのおふたりからは、どんなオススメ本が飛び出すのでしょう。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター森山智子さん(以下 森山)
・松丸本舗マーチャンダイザー在岡正人さん(以下 在岡)
このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!
アクビ: このシリーズを担当しますアラサー女子、「アクビ」こと永野です。幼い頃からの読書好きですが、最近はもっぱら積読(つんどく)派。先日は、ベッド脇の積読タワーがなだれをおこして、危うくお嫁にいけなくなるところでした!
私は、松丸本舗に来ると、ついつい大量に本を買ってしまうのですが、読むのが追いつかないんですよね。日々の忙しさのせいでしょうか、「なんとなく」読書してしまうことがよくあって、読み終わった後「あれ、何が書いてあったんだっけ?」なんてことも。最近はツイッターやRSSで情報が早く短く入ってくるので、腰を落ち着かせて本と向き合うことが少しおっくうになっている部分もあります。
この連載を通して、本のプロであるみなさんに、本の読み方・楽しみ方も教えていただきたいなと思っていますので、よろしくお願いします。
在岡・森山: よろしくお願いします。
在岡: それでは早速。私のオススメは『百物語』です。打ち水は、夏の暑さを水で冷ます江戸の知恵ですよね。怪談も同様に、背筋を凍らせる話で暑さをしのぐ江戸の知恵です。九十九話の怪談を一話一話語っていくのが百物語と呼ばれるものです。この杉浦日向子さんの百物語は、怪談というより江戸時代の不思議な話といったものが多いですね。
アクビ: これは、マンガなんですか?
在岡: そうなんです。杉浦日向子さんは、以前テレビで放映された『お江戸でござる』の解説で出演されていた方としても有名ですね。
森山: 百といいながら、なんで九十九話なのか知ってます?
アクビ: 知らないです。
在岡: 百話目が終わると、本物のお化けが出てしまうといわれているので、九十九で終わるようになっているんです。/p>
森山: この本、最後をめくったら百話目が出てきたりして(笑)。
在岡・アクビ: コワ~~い!
在岡: 怪談なんですが、怖いというより、涼しげで心をゆったりさせるような話なんです。人間が動物に変身しちゃったりとか。怪談といったらゾクゾクっとするイメージがありますが。
アクビ: 私、そういうところが苦手なんです・・・。
森山: 暑いと頭もカーッなっちゃいますけど、これは、ゆるゆるとした気分になる本ですね。
在岡: こういう涼の取り方もあるんじゃないかなと思います。
在岡: 併せて読むとおもしろいのが『大江戸エコロジー事情』ですね。うちわを扇風機のようにしてぐるぐる回したり、打ち水をしたり、行水をしたり、たくさんの図版で江戸の知恵が解説されています。
アクビ: 石川英輔先生には、大丸有CSRレポート2009でもお話を伺いました!とてもパワフルで、知識の深い方でした。
森山: 止まっていると澱んじゃうので、江戸のまちはぐるぐると流れを止めない工夫がされていたんです。
在岡: 江戸の知恵ですね。
森山: 打ち水もそういうことですよね。水をまいて、それが蒸発して雲になって・・・という循環をそこから起こしているというか。そうして冷えた空気によって気流が生まれ、風が吹いてまた涼しい。「循環を促す」ということが江戸のポイントだったみたい。
在岡: 今話題の太陽エネルギーの話なんかも載っています。百物語と一緒に読んで、そういう時代背景をさわりだけでも知っておくと、いっそうおもしろいと思いますよ。
p>森山: 本の中の地名を、現在の地名と照らし合わせても面白いです。当時の地名って意外とバス停の名前で残っていたりするんです。バス停の名前を変える申請が大変らしくて。だから、町名が変わってもバス停の名前だけはそのままだったり。昔の集落の名前や、もう存在しない橋の名前とか。アクビ: 中沢新一先生の『アースダイバー』を愛読しているので寺社の位置は意識をしていたんですが、それにバス停を加えるといろんなことが見えてきますね。
森山: 見えてきますね!
森山:私は、「自分の中にある水を感じる」という観点で選びました。昔、魚だった人類は陸に上がって進化してきましたが、今でも体の多くは水でできています。暑いからといって遮断するのではなくて、外にある水と自分の中の水がつながっていると思うと、さっきの百物語のようにゆるゆるした感覚になっていいかなと。もう少しとんがらない夏というか。
『赤いろうそくと人魚』は、人魚がいて、捕まって、死んでしまう話です。ちょっと悲しい話なんですけど。それと、月に関する本を持ってきました。都会は物事をあまりに平坦にしようとしている気がするんですが、月のリズムを感じて、「今ごろ潮が満ちているんだな」なんて想像すると、体がまた少しゆるむような。
『月の本』は、お月様と自分たちのつながりを書いた本です。鏡リュウジさん監修で心がやわらかくなるような本ですね。月の神話とか、月齢とか、月と花の話とか。そういったものが、先ほど言ったような水が循環していることとつながって、物事が回り始めると。
そうそう、東京の水道局って、世界一の規模なんですよ。東京すべての水道管の長さを足すと地球一周分以上になるんです。それでいて、水漏れ率の低さも世界一の、ものすごいシステムなんです。川が埋め立てられたり、閉ざされたり、分断されて東京に水がないと思いがちですが、実は血管のようにはり巡らされたハイテクな水道管に脈々と水が通っているんです。
在岡: 水道管のことは考えたことがありませんでした(笑)。
森山: 東京で蛇口をひねれば出る水も利根川や色んな場所を回ってきた水で、そういった循環と自分の中の水と、それを大きなところで満ち干きさせているのが月だということがつながって感じられたら、いろんなことを狭い視野にならず考えられるんじゃないでしょうか。環境のことなどもね。
アクビ: 例えば、クーラーは建物の中と外を分断しちゃいますよね。閉め切ってそこだけを涼しくするから、他に暑さのしわ寄せがいってしまうんですよね。
森山: 少しくらい暑さと涼しさが混じっても、ゆるやかさをバッファにして吸収できるような仕組みがいいですね。
在岡: そういえば、家の中で水周りのトラブルが続くときは、霊的ななにかだっていったりしますよね。
アクビ: 私、これまで水周りのトラブル多いんですけど・・・。
在岡: 水周りと、あと家電ですね。よく家電が壊れるとか。水とか電気に霊がね(笑)。
森山: 電気は水を媒介して走ります。だから、恋愛もそう。自分の中の水を介してシナプスに電気信号がバババババっと伝わって、電撃的に恋に落ちると。
アクビ: 体の中で水がちゃんと循環していないと恋に落ちることもかなわないんですね!
森山: そう!そうなの!自分の中の水を感じていると、電気が通りやすい状態になりますよ。
アクビ: 面白いですね。気をつけます(笑)。
在岡: 夏のお彼岸も霊的なものですよね。
森山: だんだん寒気が(笑)。
在岡: 水木しげる先生は、霊をもっと見直したほうがいいとおっしゃってましたね。江戸時代の人は霊にもっと近いところにいたんだと思います。だから、『百物語』のような話も、日常的でなんだか普通なんですよ。
森山: 今は、密閉した中で涼しくするような、中と外をきっちりと分けて自分をまもる方向に物事が向いていることが多いですが、そこをやわらかくして外と自分が一体化するような感覚が霊に近いものなのかもしれません。
在岡: そういう霊的なコミュニケーションも水を通じて・・・。って、これ、打ち水のテーマで大丈夫ですか?(笑)
アクビ: はい。なんだかとんでもない話になってきましたが、とても面白かったです。
在岡: 水道管の話は面白かったです。巡っているんですね。
アクビ: いかに巡らせるか、循環させるかということなんですよね。
森山: そういう意識って、日本人はずっと持ってきたものだし、今も持ち続けていると思います。この場所も何千年前までは埋め立てられていなくて海だったと思うと、それだけで涼しくなりますね。
アクビ: 古代にそこを流れていた水に思いをはせながらまちを歩いてみたら、それだけで涼しくなりそうですね。
森山: 打ち水は、そういうことのきっかけにもなりそうですね。
森山: 「こういう原画サイズを一度知っておくと、小さいマンガ本を読んでも頭の中で実際の大きさに拡大できますよね。一回本当のものを見ておくと、絵でも写真でも自分の中で変換再生ができるようになるんです。」
在岡: 都道府県別の古代遺跡についての本なんです。これの東京版を見ていただきたいですね。
森山: これは、まさに・・・
森山・アクビ: 『アースダイバー』!(笑)
森山: ゆるゆると女の人が水に溶けていくような怪しい本です。何が書いてあるんだろうと追求しようとするよくわからないかもしれない(笑)。あまり理屈で考えようとせずに文字からくる音の感じを味わって欲しいです。
森山: 死者の書と2冊あわせ技でオススメなんです。おフロにちょっとぬるめのお湯をはって、好きなページだけ、水面をゆらゆらっとさせながら読むのがいいですね。
森山: 着物は景色や物語をまとうものなんですよね。体に沿う柄って、絵画とはまた違うんです。
アクビ: 大丸有の打ち水は、浴衣のみなさんが大勢集まってとっても華やかですよ。
在岡: 浴衣や夏柄の着物の女性を見ると涼しげに感じますね。
森山: 着ているほうは気合で涼しくしているんですけどね(笑)。
営業時間: 9:00〜21:00
アクセス: 〒100-8203 千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾ4階 マップ
お問合わせ: Tel 03-5288-8881 /Fax 03-5288-8892
松丸本舗ウェブサイト
松丸本舗では、松岡正剛氏の読書術をブックショップ・エディターがワークショップ形式で伝授する「読書の秘訣-セイゴオ式目次読書法」を毎月開催中!森山さんも講師として登場しています。
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