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【地球大学アドバンス速報】第33回「超高齢化最前線~100年前の都市デザインでいいのか?」(大川弥生氏、福田洋氏)

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第33回地球大学は、8月23日(月)に開催されました。今回のテーマは「超高齢化最前線~100年前の都市デザインでいいのか?」

ゲストに次の二方をお招きして、超高齢化社会に突き進む日本、東京のあり方を考えます。
大川弥生氏(国立長寿医療研究センター研究所 生活機能賦活研究部):WHOの新たな健康・障害指標ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)の専門家
福田洋氏(順天堂大学 医学部総合診療科・准教授):丸の内で産業保険医を務め、職場の健康増進のあり方について実践を通じて研究に取り組んでいる

高齢化はこの10年で取り組むべき危急の課題~竹村氏

内閣府がまとめる「高齢社会白書」(平成21年度版)*1 によれば、40年後の2050年には、日本の人口のおよそ4割が高齢者になると予想されています。
また、国土交通相がまとめる「首都圏白書」(平成20年度版)*2 では、5年後の2015年には、首都圏の高齢者人口は1千万人を超えると予測しています。

「ますます進む高齢化に備えて、見直さなければならないのは、年金や保険といった制度設計だけではありません。
東京、首都圏は、労働者の住まい、職場として都市が設計されています。人口の多くが高齢者になる時代に、こうした都市設計では、まちはもはや機能しません。100年の計で、東京の都市設計を見直すことが必要です」

「高齢化社会にあっては、誰もがどこかに不調を抱えるようになります。その中で、従来の健康と障害という二項対立は意味をなさなくなります。旧来の常識を捨てて、人間観や健康観も見直す必要があります」

高齢化は日本だけの問題ではありません。先進諸国はもちろん、近年では中国がとてつもないスピードで高齢化へ突き進んでいます。世界中が「グローバル・エイジング」への対応策に頭を悩ませています。
その中にあって、現在高齢化の「先頭」をいく日本が導き出した対応策は、世界の多くの人にとって大きな参考になります。日本が、トップランナーとして高齢化に対応していくことが求められています。

竹村氏の見方によれば、「ここ10年の取り組みが非常に重要」ということです。
東京が、日本が、高齢者のみならず、すべての人にとって暮らしやすいまちになるかどうかは、ここ10年の取り組みにかかっていると言えるでしょう。

*1 高齢社会白書
*2 首都圏白書 

人間を診る医療を取り戻す~大川氏

「ICF(国際生活機能分類)とは、"生きることの全体像"についての"共通言語"です。障害の度合いの分類に使われていたものを進化させ、健康と障害を連続的なものとして捉えた、実に画期的な考え方です」

ICFでは、人体が持っているさまざま機能(ICFで言う「心身機能」)と、その機能を使った行為(同「活動」)、そして社会や家庭での役割(同「参加」)を分けて考えます。この中で、人が幸福感や豊かさを実感するのに必要なのは「参加」です。

「病気や怪我、老いで身体の"機能"が低下したからといって、それが即、社会への"参加"を阻む要因になるとは限りません。"参加"に必要なリハビリを施したり、補助器具を使ったりすることで、"機能"は低下しても"参加"の質を維持することは可能です」
つまり、病気を「治す」のではなく、社会生活を支障なく営めるようになればいい、という考え方です。

「昔の医者は、人間全体を見ていました。その人の家族や隣近所との関係、生活のあり方まで含めてです。医療は、"病気"を見つけて徹底的に"治す"方向で進化してきました。結果、医者は"病気"しか診なくなりました。その間置き去りにされていたのは人間です。多くの人が老いて"心身機能"が低下する高齢化社会に、"病気"だけしか診ない医療では対応しきれないのではないかと危惧しています」

人を診て、社会への「参加」を促す医療には、社会への"参加"を促すまちづくりが必要になるでしょう。医療とまちづくりが手を携える日も近いのではないでしょうか。

医療と環境、ヘルスリテラシー、WHPとCSR~福田氏

34_fukuda.JPG 福田氏は、丸の内の産業医として、働く人の健康増進に取り組んでいます。
福田氏によれば、「近年の健康増進(Health Promotion)は、医学だけでは収まりきらなくなって」きているということです。温暖化や都市化、高齢化など、人が健康に生きていくためには、環境要因にも目を向ける必要があるからです。

「健康増進の分野では、こうした傾向のほかに、『ヘルスリテラシー』と『WHP(Workplace Health Promotion:職場の健康増進)』という考え方が注目されています」

「ヘルスリテラシー」とは、「ITリテラシー」の健康版です。
それは、病気になったら医者に診てもらって治せばいいという時代から、健康を維持するためには、一人一人がさまざまな知識や関心を持つ必要がある時代への変化を意味しています。

WHPの考え方を示す特徴的な言葉が「プレゼンティーイズム」です。この対概念は「アブセンティーイズム」で、仕事を休んだ人に注目して職場の生産性を測る考え方です。
「プレゼンティーイズム」とは、その逆で、職場にいるにもかかわらず、生産性を発揮していない人に注目しています。
仕事を休むほどではないけれど、体調がすぐれず仕事がはかどらない。誰しもそんな経験をしたことがあると思います。近年の研究によれば、そうして低下した出勤者の生産性の総和は、欠勤者がもたらした生産性低下の総和より上回るとのことです。
つまり、職場にいる人の「健康」を管理することが、会社の生産性を向上させることにつながるわけです。
このWHPが、CSR(Corporate Social Responsibility)との関連で論じられていることが特徴的です。

大川氏も福田氏も、「自分は医学会では傍流」と口を揃えます。
主流はまだまだ「病気中心」の医療ということです。
ですが、医療の中の世界から、大川氏や福田氏が紹介した考え方が生まれていること、お二人のような医師が生まれていることに、驚きとともに大きな希望を感じました。
「人中心」の医療は、案外すぐそこまで来ているのかもしれません。

次回
第34回地球大学アドバンス〔TOKYO SHIFT シリーズ 第6回〕
気候変動時代の防災都市デザインを考える

テーマ:気候変動時代の防災都市デザインを考える
日時:2010年9月13日 (月) 18:30~20:30
ゲスト:小池 俊雄氏 (東京大学大学院 工学系研究科 社会基盤学専攻 河川/流域環境研究室 教授)
企画・司会:竹村真一氏(Earth Literacy Program代表/エコッツェリアプロデューサー)
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