松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。
BoolNAVI10月のテーマは「秋の夜長に読みたい本」。
長月(9月)はその名の通り夜が長い時期。また、9月の十五夜、10月の十三夜と、空気が澄んで月がきれいに見られる時期でもあります。そんな秋の夜長に読みたい本は・・・・・・?
長い夜を昼間のようにこうこうと電気で照らすのではなく、夜の闇や、月の明るさを楽しめる本があれば、電力使用量が減って環境にもやさしいかも?秋の夜長にピッタリのオススメ本をご紹介いただきました。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 川田 淳子さん(以下 川田)
・松丸本舗マーチャンダイザー 宮野 源太郎さん(以下 宮野)
このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!
アクビ:いや~、すっかり日が暮れるのも早くなりましたね。9月は長月と呼ばれるだけあります。そんな長い夜や月明かりを楽しめるような本を今回はご紹介いただくということで......
宮野:はい。早速ですが、『千夜一夜物語』はご存知ですよね?
ストーリーはご存知の通り。妻の不貞を知った王様が怒り狂い、毎日一人の女性と夜を共にして朝になると殺すということを繰り返していた。それをおさめるためにシェラザードと名の女性が立ち上がり、王様に夜な夜なお話をするんですね。ひとつお話が終わるたびに、「明日はもっと面白い話があります」と言って生き延びて、翌日また新しいお話をする。最後はそんなシェラザードに王様も癒されて......という物語です
シェラザードが話すお話のひとつひとつが短編の物語になっていて、その集積がひとつの物語になっている、と。ちくま文庫版では全11巻。秋の長い夜ですので、最初から読み進めていってもいいと思いますし。せっかくですから奥さんからダンナに。彼女が彼氏に物語を読み語ってみるのもよろしいかと
アクビ:長い夜だから!昔流行った歌のタイトルのようですね。ロマンチックです
川田:アリババやシンドバットも『千夜一夜物語』ですよ。『アラビアンナイト』っていったほうが親しみ深い人もいるかもしれませんね。改めて読むと、それと知らずに読んでいたお話が見つかったりして面白いです
宮野:一夜に1話でもいいし、一夜に2,3話でも。眠くなるまで読んで、ちゃんと電気を消して寝ていただいてですね......
アクビ:電気の点けっぱなしはエコじゃないですからね
宮野:11巻まである長編とはいえ短編の集積ですから、長さのプレッシャーなく読めるのも良いところです。語り口調で書いてあるので読み聞かせをゲーム的にやっても面白いかもしれませんね
今回は、ちくま文庫の古典的なものを持ってきましたが、他の出版社からももっと柔らかい文調のものや図版の多いものも出ていますから、お好みで選んでみてください
『千夜一夜物語』は、もともと中世のイスラムで各地に散らばっていた民話などをまとめたものなんです。日本やキリスト教系のお話に慣れている私たちからすると、こういった砂漠を舞台にした異教の話は感性を刺激されますね
アクビ:なかなか眠らせてくれないお子さまを持つパパママも、こういうお話の引き出しを持っておくと良いかもしれませんね
宮野:そして、その『千夜一夜物語』影響を受けての2冊目は、10人が語るイタリアの物語『デカメロン』です。これは松岡正剛さんも『千夜千冊』のキーブックとして取り上げている本ですね
時はイタリアでペストが流行した14世紀。男女が集って、ひとり10話、計100話を話していきます。「外はアレだし、退屈だよね~。話でもしてく~?」という感じでしょうか。こちらは官能的というかエロ小説的な部分もたくさんあるので、ぜひ彼氏彼女に読み聞かせをしてあげてくださ...... なんかくやしいな!(笑)
川田、アクビ:(笑)
宮野:内容はいってみれば"下世話"な、人の生活の中の話ですね。『デカメロン』は、ダンテの『神曲』に対して『人曲』と呼ばれ、近代小説の先駆とされている作品です。この形式や内容がそのままイギリスに渡り、イギリス=ルネサンスの先駆者であるチョーサーによって『カンタベリー物語』になったりしたわけです
アクビ:聖職者や王侯らの風刺があったりと、こちらも14世紀ごろのイタリアの当時の風情を感じられる作品ですね
宮野:ラスコーの壁画だって、洞窟にこもった原始人の人たちが「俺さっきこんなでっかい牛に襲われちゃってさ~」「え、どんくらい?」「こんくらいだよ。そんで槍投げてみたんだよね~。そしたら刺さってさ~」なんて物語の喋り合いがあの壁画なのかもしれないですよ(笑)。誰かと物語を読み合うのもいいし、ひとりで読むときにも誰かに語るように読むと、何かが生まれてくるかもしれない。秋の夜長に団子でも食べながら、ね
宮野:また、ここまで紹介したような物語を真似て自分でお話をつくってもいいんですよ。
ということで、次に紹介するのは物語作家の小川洋子さんの『物語の役割』です。物語には役割があるんです。この本は、小川洋子さんご自身がこれまでに読まれた本や体験されたことへの考察、この本を書かれるきっかけになった、数学者で『国家の品格』など著者としても知られる藤原正彦さんとの出会いなどについて書かれています。
物語に触れたり人と出会うなかで、あるいは物語の実作者として、物語が人を癒したり受け入れられない現実を作品として客観視することで自分を納得させたりする役割や意味があるんだよ、という小川さんの一般読者に向けてのメッセージですね
たとえば『千夜一夜物語』は、シェラザードの王様のむごい仕打ちをやめさせたいという思いや、自分自身が殺されないようにという思いから、最後に悪い王様が殺されたり虐げられた人が救われるような話が多いんです。秋の夜長ですから、そういった物語の役割について考えながら深く物語を味わうのはいかがでしょうか。
アクビ:そしてこちらは?
宮野:『ファンタジーの文法―物語創作法入門』です。作者のジャンニ・ロダーリさんは、アンデルセン賞などもとった作家です。1920年生まれで、戦争真っ只中のイタリアでレジスタンス運動をやったり、庶民と関わりながら啓蒙活動をされた方ですね。これは、まさに物語をつくっちゃおうという本ですね。
アクビ:自分でつくっちゃおうと!
宮野:言葉遊びの仕方ですとか、全く関係ないもの同士をくっつけて物語にする方法など、物語のつくり方が細かく書かれています
最近は、ロジカルシンキングなどの型や論理に当てはめれば何でも解決できるとされがちで、個人の個性や感性が発揮できない状況にみんな疲弊してしまっている側面もあると思います。そういう意味でも、物語をつくる・つくらないに関わらず"物語力"が今、求められている、と。
ビジネスの世界でも物語性やストーリーが注目されているようですね。最近読んだ、楠木 建さんの『ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件』という本は、ひとつひとつ細切れになった要素を一企業の取り組みとして物語でつないでまとめることの重要性について書かれているんですが、とても面白かったです
まぁ、そんなに堅苦しく考えずに、この本を読みながらそういった想像性や感性をかたちにすることについて考えてみるのはどうでしょうか。物語力を使ってカップルで話し合うとまた理解が深まったり・・・(舌打ち)
アクビ:今回の裏テーマですね!(笑)
川田:自分の中の消化しきれない思いだとか、悩み、こうだったらいいのにという願いや妄想も物語にしてしまえばいいんです。現実社会の中でぎゅっとなっている自分を解放していくための方法にもなりますよね
アクビ:個人的にですけど、想像力が欠けていることが現代のとても重要な問題だと思っていて。相手の視点に立ってみるという、とても基本的な想像力がひとつ欠けるだけで起きる事故や対立は世間にとても多くありますよね。このような物語づくりで少し頭をやわらかくしたり、想像力を鍛えたりすることが必要なのかもしれません
川田:私の方は、秋といえば月ということで月の光を感じられるような本を選びました。先ほどの『千夜一夜物語』とかけて、『一千一秒物語』。稲垣 足穂さんという文学者の本で、登場人物がお月様と喧嘩したり、外灯ととっくみあったり、お星様を口に入れたらはじけちゃったり。幻想的なイメージの小さな物語がいっぱい集まっています
けっこう乱暴で、あちこちでピストルをぶっ放してたり、バイクを乗り回したりしちゃうんですよ(笑)。それをたむらしげるさんのイラストで絵本にしています。ほのぼのとしながらも幻想的な絵で素敵なんですよね。ちょっと不思議な雰囲気に浸りたいときにいいかな、と
アクビ:きれいなのに、少しブラックなところがいいですね(笑)
宮野:無重力っぽくて、体が軽くなる感じですね
川田:月の女神の神話や月読(つくよみ)などに現れているように、月に対する幻想的なイメージって昔からあるんですよね。新月から満月へと満ちては欠けていく繰り返しが、死と再生や生まれ変わり、五穀豊穣のイメージになったのでしょう
日本や中国では特に月を愛でる文化があります。日本建築の簡素な美としてよく取り上げられる桂離宮は、実は月を観るために建てられ建築なんですよ。秋の十五夜の月の出の方向に対してまっすぐな角度で建てられていたり、水面に移った月を観るための池があったり、金具や欄間も「月」という漢字をモチーフにしたものがあったり
宮野、アクビ:(図版を見ながら)本当だ!!
川田:そもそも、月には桂の木が生えているという中国の言い伝えから、桂離宮の名前はつけられています。「そこまでやるか!」という月へのこだわりが、この『桂離宮』という本には書かれています
アクビ:もう、執念といってもよさそうですね。丸善さんでも来年のカレンダーが並び始めていますが、月齢の入ったカレンダーも必ず目にしますね。日本人は特に月が好きなんでしょうね
川田:3つ目の本は、『もしも月がなかったら―ありえたかもしれない地球への10の旅』。趣向を変えて科学の本です。人間の行動は月の動きに影響を受けている部分があると思うんですよね。月の引力があるから潮の満ち干気があるわけだし。じゃあ、もし月がなかったら?
本文では、月がなかった場合の地球は「潮汐力の減退により時点速度が地球よりずっと速く一日は8時間。強風が絶えず荒れ狂い、高山も存在せず、生命の進化も遅い」とシュミレーションされています
その他にも、「もし月がもっと近かったら」という話だとか。月って一年に3センチくらい地球から離れていっていらしいんです。月と地球のバランスが崩れたらどんな地球になっちゃうの?など、天文の世界での「もしも」を科学的に分析した本なんですね。監修は科学雑誌『Newton』初代編集長の竹内均さんです
アクビ: 9月には、準天頂衛星初号機「みちびき」が無事打ちあがって話題になりましたし、8月には小惑星探査機「はやぶさ」の展示で松丸本舗がある丸の内オアゾも大賑わいでしたね。こういう本は特に男性には喜ばれそうです
宮野:こういう話を知ったかぶりして彼女に語ったりしてね・・・・・・
川田:また裏テーマに戻る(笑)
アクビ: (笑)。でも、そういううんちくを一方的に語る男性はモテないですよ。「めんどくさいわ。私もう眠い」って言われちゃいます
川田:それよりは『一千一秒物語』みたいに幻想的にね
アクビ:一緒に楽しめるお話がいいと思います!
川田:最後に紹介するのは、『ルナティックス - 月を遊学する』。これはこの松丸本舗の店主 松岡 正剛が、月に関するあらゆることを集めた本です。ヨーロッパでは月を観すぎると「ルナティック(lunatic)」という単語があるようにおかしくなっちゃうといわれています。狼男伝説や、満月になると犯罪が増えるという話、オペラに文学、美術、思想、科学まで、多くの分野にわたって書かれた本ですね
アクビ:桂離宮のようにずっと月を眺めていたい人もいれば、月をずっと眺めているとおかしくなるという人もいて、不思議ですね。月というひとつの切り口で、もしも西洋だったら、もしも中世だったら、もしも宇宙だったら、もしも物語作家だったら・・・・・・。いろいろな世界が網羅されていて、今回のまとめにもピッタリです!
宮野:アラビアンナイトに関する記述もありますね。他の本から得た知識をこの本で確認しながら、他の分野へも関心が広がりそうですね
アクビ:今年の秋は月を愛でながら本を広げて、カップルで知識も愛も深まるような物語をつむいでみてはいかがでしょうか
と、今回の裏テーマを含めてまとめさせていただきます(笑)。ありがとうございました!
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