松岡正剛氏が大胆にプロデュースし、書店のあり方の可能性を広げたとして、各種メディアから注目を集める丸善本店 松丸本舗と、サステナビリティを考えるまちメディア・丸の内地球環境新聞がコラボレーション。その季節にピッタリの本をナビします。
2月といえばバレンタイン・デー。
女性から男性にチョコレートを贈って愛を告白するのは日本と韓国独特の習慣だそうですが、世界各国で男女を問わず恋人たちの愛の誓いの日とされています。
そこで、BookNAVI2月号のテーマはずばり「LOVE」。バレンタインにチョコレートと一緒に贈りたい愛のストーリー、「LOVE(愛)」論、チョコレートに関する本・・・・・・。今回はどんな本を紹介していただけるのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、この方々。
・松丸本舗ブックショップ・エディター 岩下さん(以下 岩下)
・松丸本舗スタッフ 上野 憂子さん(以下 上野)
このシリーズは、丸の内地球環境新聞デスクの「アクビ」こと永野(以下 アクビ)がお届けします!
アクビ: 今回のテーマは、ずばり「LOVE」です。気を利かせてくださったのか逃げられたのかはわかりませんが、今回は男子抜きの女子会BookNaviとなりました。ということで、今回はバレンタインにまつわる個人的なエトセトラや女子の本音なども伺っていきたいと思います。
それでは、まずはブックショップ・エディターの立岩さんの一押しから伺ってみたいと思います!
立岩: 吉野朔美さんの『恋愛的瞬間』でしょうか。わたしの恋愛のバイブルです。ちょっとひねくれているかもしれないんですけど(笑)
アクビ: 一冊目からマンガですね! 「ひねくれている」とは?(笑)
立岩: 大学の心理学の先生で、恋愛を専門にしたカウンセリングも行っている人物と、その患者さんたちの恋愛の事例を、先生の助手を勤める大学生の男の子の視点で描いたストーリーです。一話完結で読みやすいですね
アクビ: この作品が "恋愛のバイブル" である理由は何でしょう?
立岩: 世の中の恋愛論とか恋愛エッセイは、自分がその中に入り込んで幸せなときを見つめたような、センチメンタルなものが多いと思うんですけど、この作品は恋愛の危うさを冷静に見ている。かつ物語として面白いという
ストーカーやドメスティックバイオレンスなど「もしかしたら自分にも起こるかも......」と感じるような話や、彼女をたくさんつくってしまう男性、20代後半で一度も恋愛をしたことがない女の子の話などが、日常の延長のようなかたちで描かれています
アクビ: これを読んで恋愛経験値を上げておけば、バレンタインの告白もうまくいくかも?
立岩: それは...、どうでしょう(笑)。「恋愛って何だろう」って立ち止まったときやなにかトラブルがあったときの一助にはなりそうですね
次の本は、少し硬いかもしれません。『鴎外の恋人―百二十年後の真実』は、2010年の11月にNHKで放送された、森鴎外の『舞姫*』のヒロイン エリスのモデルになった女性を解明するドキュメンタリーの本なんです。エリスは実在するとはいわれていたんですが、それが誰かということははっきりとわかっていませんでした
* 『舞姫』森鴎外(著)。19世紀末、ドイツ留学中のエリート官吏 太田豊太郎(モデル:森鴎外)が現地の貧しい踊り子エリスと恋に落ちる。そのために豊太郎は解職されるが、エリスと共に暮らし、ささやかな幸せの中で生き方を変えていく。しかし、親友・相沢のはからいで、日本で復職する機会を与えられた豊太郎はエリスを捨てて帰国することを決心。豊太郎の子を身ごもっていたエリスは、豊太郎の裏切りを知って発狂する。森鴎外の自伝的小説
『舞姫』のストーリーとは違って、実際のエリスはちゃんとした教育も受けた女性で、鴎外が留学していた4~5年の間、家族ぐるみでお付き合いをしていたそうです。海を渡って日本で一緒に暮らそうとまで言っていたらしいんです。当時は日本人と外国人がお付き合いするというのはめったにないことで、ふたりは周りの人たちによって引き裂かれてしまう。時代背景も興味深いです
ドキュメンタリーは、鴎外の遺品の中にあった、刺繍をするときに使う銅版を手がかりにして、その女性をたどっていきます。彼女から贈られたこの銅版と刺繍の入ったハンカチとハンカチ入れを、鴎外は死ぬまでずっと大切に持っていたんです。どれだけ鴎外が彼女を思っていたのかがよくわかりますよね
鴎外の長女で小説家としても活躍している森 茉莉は、「鴎外の中には獅子が一匹いる」と残しています。鴎外はみんなに平等に愛を与える穏やかな人でした。この恋愛の一件以降、自分の心を押し殺して生きてきたんですね。でも、偶に些細なことで強く怒るときがあったそうです。ふとした瞬間に出てくる、激しい本当の鴎外について茉莉は言っているんだと思います。そういう鴎外の隠れた恋が、時を越えて120年後に明らかになるというのは、すごいですよね
アクビ: まさに今回のテーマの「LOVE」ですね......。切ない。エリスへの愛であり、周りの人への愛でもありますよね、そこまでひた隠しにされていたというのは
上野: 男性像として、すごくかっこいいですね
立岩: 留学した当時の鴎外の状況だとか上司との関係だとか、どちらかというと男性が楽しめる内容かもしれません
アクビ: 改まって男性と愛の話をしようと思うと難しいかもしれませんが、こういう本を贈って愛の話をするきっかけにするといいかも
立岩: これと一緒に『舞姫』を読むのもいいですね。『舞姫』は一見ひどい話なんですが、この本を読んでから振り返ると、すごく思いつめて書いたんだな、書かざるをえなかったんだな、ということが見えてきて。自分の家族など周りの人たちをまもるために人物設定や筋が変えられているんです。それでも自分の罪を告白しなければならなかった鴎外の苦しみが伝わってきます
アクビ: 激しく切ない...恋愛は甘いだけじゃないですものね......。とは言いつつ、せっかくのバレンタインはチョコレートのように甘い気持ちで過ごしたい私なのですが......
立岩: それならば、『高級ショコラのすべて』をオススメします。用語の解説や健康効果、チョコレートの歴史やトレンド、テイスティングの方法などがバランスよくまとめられていて知識が増える本です
上野: 新書だから手軽に読めますね
立岩: この本は知識の量が重過ぎなくていいですね。チョコレートのカタログやレシピの本は多くありますが、あまり知識は身につかない。一方、チョコレートの文化史となると辞書のような本になってしまって、さすがにそこまでの知識はいらないな、と
アクビ: 女子的には「太らないチョコレートの食べ方」という章が気になります
立岩、上野: あぁ......(うなずきながら)
アクビ: この地域のまちづくりにおいても、"健康"はひとつの大きなテーマに挙がっているんですよ。ビジネス街なので、運動不足やストレスなどの健康に関する問題は身近です。エコッツェリアでは、人に優しい空調や照明の実験などの設備だけでなく、食の面でのインフラ整備にも取り組んでいるんですよ。と、少し宣伝を......
立岩: せっかくウキウキした気持ちでチョコレートを買うなら、ヘルシーで美味しく食べられるといいですよね
上野: バレンタイン・デーって、チョコレートを買うためのちょっとした言い訳にもなります
立岩: その時期にしか買えないチョコレートというのものありますしね。最近のチョコレートは、お菓子というより芸術品といっていいようなものも多くて。新宿伊勢丹のサロン・デュ・ショコラなどは、美味しくて綺麗で見ているだけでも楽しくなります。でも、そういう見た目が綺麗で美味しいチョコレートって、人にあげるより自分で味わいたい(笑)
上野: あげちゃったら食べられないし!
アクビ: 大丸有(大手町・丸の内・有楽町)のお隣、銀座のプランタンが実施したアンケートによると、チョコレートの予算の平均額は、本命用が3,010円、義理用が1,081円、自分用が2,951円で、女性も本命チョコレートに迫る熱意で自分用のチョコレートを買っているようです
良いチョコレートって、あげる側は自分で選んでいるわけなので、その背景や値段などの価値がわかるんですが、相手によっては"ただのチョコレート"で終わってしまうんですよね。それがしゃくだったりします(笑)
上野: 説明したくなっちゃいますよね(笑)
立岩: 「こんなに可愛くて美味しいチョコレートなのに、彼はきっとわかってない......」とか
上野: でも、最近男性でも甘党の人は増えていますよね
立岩: 男性側があんまり詳しすぎても、という面もありますね......
アクビ: 女性って難しい(笑)
アクビ: そろそろ上野さんの本が気になるのですが
上野: 私が持ってきた本はまったくチョコレートに関係がない本なんです...。というのも、私自身があまりチョコレートが好きではなくて......
立岩、アクビ: え!そうなんですか!
上野: 高級チョコレートが苦手なんです(笑)。外国の味がするからかな。なんだか濃いじゃないですか。ひとつ食べれば十分なくらいにまったりとした、あの濃さがあまり好きじゃないんですよね。コンビニで売っている100円くらいチョコレートが好きなんです
立岩: ブラックサンダーとか!
アクビ: いっそう低単価な方面にいきましたね(笑)
上野: それで、私が挙げた3冊なんですけど......
アクビ: あ、そうでした。上野さんが進めてくださる本は毎回可愛らしいものが多くて、乙女心がくすぐられます
上野: まずは『愛情生活』という本ですね。写真家の荒木経惟さんは、奥様である陽子さんを20年ほど前に亡くされているんですが、これは陽子さんによる経惟さんとの愛情たっぷりの日々をつづったエッセイなんです
アクビ: 表紙の写真の、若くて細いアラーキー(荒木経惟さん)の姿に衝撃を受けています! 淡くて素敵な写真ですね
上野: 経惟さん、結構かっこいいですよね!
アクビ: かっこいいですね!
上野: お二人の出会いから、赤裸々なエピソードまでが丁寧に描かれています。文章も面白くて読みやすくて、いい本だと思います。陽子さんが21歳のとき、付き合い始めてから初めてもらったプレゼントがモディリアニの画集だったという話があるんですけど......
立岩: アーティストらしいプレゼントですね
上野: その次のプレゼントはプロポーズにハンス・ベルメールの画集。「婚約記念にこんなエロティックな画集をプレゼントしてくれるのも彼らしいなと思って。(中略)扉の空白のところに鉛筆で『経惟と陽子の婚約記念画集』と書き入れ、それからふたりの模様をつくろうと言って赤ワインに指を浸し、白い紙の上に振った」こういうことを恥じらいもなくやってしまえるところがすごい!
立岩: ちょっと、逃げられない感じですよねぇ(笑)
上野: 逃げられないですねぇ(笑)。でも、受け容れてもらえるとわかっているから、できることなのかもしれないですよ。お二人の恋愛哲学や生活がとても羨ましくなる本です
周りの人からは「いい奥さんですね」って言われるけど、実は夫のことを理解しているわけでも尊敬しているわけでもない。ただ自分に必要だから一緒にいるんだ、とも書かれています。そういう人に出会ってしまったんですよね。こういう本を読むと、写真を見る目が変わりますよ
アクビ: アラーキー自身の著作やインタビューなども多くありますが、それとはまた違ったパーソナルかつ客観的な視点で面白いですね。そのうえ、装丁がとても素敵ですね。カバーの写真もですし、中ページに使われている自筆の文字も素敵です
上野: 鈴木成一さんの装丁です。ゆったりとした二人の生活が現れていますよね。文章も、いちいち詩的で素敵なんです。タイトルも、ストレートだけど本質を突いていて、すごくいいなぁと思います
アクビ: 憧れますね
上野: 2冊目はこれですね。『あの空は夏の中』、銀色夏生さんの初期のころの作品です
アクビ: バレンタインという背景がありながら、夏の本なので、上野さん的な「LOVE」の根源がそこにあるのだろうと気になっていました
上野: 確かにそうですね(笑)。中学生のときの、好きってどういうことなんだろう、付き合うってなんだろう......、そういう不確かで自信のない恋をしているときに、姉の本棚から見つけた一冊です。そのころは銀色夏生さんを知らなかったんですが、自分の今の気持ちにぴったりとリンクするような詩が何点もあって
アクビ: 特に好きな詩ってありますか?
上野: 「片思いの守り方」という詩です。「片思いは、かくしていた方がいい/だって今/私が彼のことを好きだと/みんなに言ってしまったら/私だけでなくみんなの心の中で/この恋が動き出してしまうもの」
その当時は、すごく、こう.........。青春の一冊ですね。今回、「LOVE」というテーマを聞いたときに「ああ、そういえば」と浮かんできた本なんです。とても個人的ですが
アクビ: 銀色さんの詩って少し切ないですよね。せっかくのバレンタインなので、恋をしている人もしていない人も、こういう作品でピュアな頃の甘酸っぱい気持ちを思い出してみるのもいいかもしれませんね
上野: 次の本は、『ペイネ愛の本』なんですが、この本も装丁も可愛らしくて。章ごとに紙の色が違うんです。チョコレートと一緒にこれをもらったらイチコロ!プレゼントにも最適な一冊です
可愛らしくてメルヘンチックな絵柄なんですが、時折風刺的な表現があるところもいいですね。絵には一行程度の文章しか添えられていないし、明確なストーリーがあるわけでもいんです。だからこそ、ベッドサイドに置いておいて、好きな人と一緒にめくりながら「これってこういうことじゃない?」「自分が思うにはこうだな」なんて話し合いながら、お互いの気持ちを深めたり確かめあったりするのにいいんじゃないかと
アクビ: 外国のバレンタインは、性別に関係なく恋人に贈り物をするそうなので、バレンタインにいただいてもいいですよね(笑)
上野: 欲しいです! こういうものが返ってきたらうれしいですよね。本をもらうって、単にものをもらうよりも特別な感じがしますよね
アクビ: チョコレートをあげるにしても、そのあたりでなんとなく買ってきたものではなく、背景にストーリーが欲しいなと思いますよね。チョコレートの由来であったり、つくり手の思いであったり、それに対する自分の思い入れであったり。そういうストーリーを本に託してプレゼントするというのは素敵ですね
そういう意味では、2月10日(木)~14日(月)の間に丸善・丸の内本店で、エコ結びに登録したSuica・PASMOを利用すればチョコレートがもらえるキャンペーンが実施されるので、プレゼントの本とチョコレートを一気に手に入れてしまうのもいいかもしれませんね! なにを贈るにしても、素敵なバレンタインが訪れることをお祈りしています
立岩、上野: 素敵なバレンタインを!
2月10日(木)~14日(月)の各日13時までに丸善・丸の内本店または青山ブックセンター丸ビル店でSuica・PASMOをご利用いただいた方にはチョコレートをプレゼント
実施期間: 2月10日(木)~14日(月)各日開店~13:00
実施店舗: 丸の内オアゾ 丸善・丸の内本店、青山ブックセンター 丸ビル店
* 各日数に限りがございます。あらかじめご了承ください
* 各店舗ともにSuica決済端末のあるレジでの配布となります
営業時間 : 9:00〜21:00
アクセス : 〒100-8203 千代田区丸の内1-6-4 丸の内オアゾ4階
お問合わせ : Tel 03-5288-8881 /Fax 03-5288-8892
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