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【環境コミュニケーションの現場】 「こころで創る」現場を伝える-東京スカイツリーの建設と大林組

企業・団体のCSRとその広報活動の姿を訪ねる【環境コミュニケーションの現場】。第3回は大手建設会社の大林組の広報活動を紹介します。大林組が建設する世界でもっとも高い自立式電波塔「東京スカイツリー」。同社広報部の皆さんは、注目が集まる状況を活かして東京スカイツリーを建設している当社の姿を社会に広く伝えようとしています。CSR室広報部第ニ課長の河原利孝さんに取り組みをうかがいました。

* 東京スカイツリーとは
東京都都墨田区押上に建設中の高さ634メートルの電波塔。塔としては2011年3月1日に中国の広州タワー(600メートル)を抜き、世界一となった。事業主体は東武鉄道と東武タワースカイツリー。大林組は建設を担当。東京スカイツリーは展望台を備える施設にもなる。

―東京スカイツリーへの関心が広がり、大林組の人々がメディアに登場するようになっていますね。
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河原:私たちもここまで多くの関心が東京スカイツリーに集まるとは想像していませんでした。今まで経験したことのない高さでの建設工事ですので、さまざまな「未知」の経験に直面しました。私の仕事である広報業務でも「未知」のことがたくさんありました。

昨年3月29日に東京タワーを抜き、日本で一番高い塔になりました。すると一気に注目されるようになりました。

建設途中にも関わらず、特に週末には東京スカイツリーの周囲に観光客の皆さんが大勢集まっています。また、毎日のように報道で取り上げられており、このような反響の広がりは予想外でした。

東京スカイツリーは「日本から生まれる世界一」というビッグプロジェクトです。当社はもちろん、建設業界にとっても、日本全体にとっても明るい話題です。そのために東京スカイツリーをめぐる情報は、自然と広がりました。私たち広報部は、それをうまく活かしながら、建設にかかわる当社の姿を知っていただく良い機会と考えています。

―スカイツリーをめぐる広報ではどのような工夫をしていますか。

広く一般の方に、建設会社ならではの東京スカイツリーに関する情報を伝えたい、という想いから、特設のウェブサイトと、現場ブログを作りました。ここでは、皆さんが関心を持つ世界一をつくる技術や、現場での出来事など、分かり易く現場写真を使って載せるようにしました。また、取材などでは、なるべく現場で従事する方の顔が表に出るよう、現場の方の協力を得て対応していただいています

この建設にはさまざまな技術が使われています。一例ですが「リフトアップ」という工法があります。鉄骨塔体の中の空洞を利用して、地上レベルで先端部(アンテナを取り付けるゲイン塔)を組み立てて、最上部まで引き上げる工法です。先頭部と鉄骨塔体を並行してつくることができるために工期が短縮できます。また、高所での作業が軽減することから、より安全に作業ができます。ドーム球場の屋根などで用いられています

こうした当社の過去の経験とつちかった技術が、建設に活かされています。現場だけではなく会社全体の「オール大林」で頑張って取り組んでいることを、可能な限り社員の「生の声」で紹介しています

大林組 東京スカイツリー建設プロジェクト特設サイト
大林組 東京スカイツリー現場ブログ

―ツリーをめぐる広報活動では何を伝えようとしていますか。
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「時をつくる こころで創る」。広報部はこのコーポレートメッセージを、東京スカイツリーの情報と一緒に伝えたいと考えています。当社は今年1月に創業120年を迎えました。そして「大林組基本理念」を定め、社内公募によって「時をつくる こころで創る」と「地球に笑顔を」の2つのメッセージを決めました。

これらのメッセージは、建設業に携わってきたこれまでの私たちの会社の姿、そしてこれからもそうでありたいという願いが込められています。

「時をつくる こころで創る」
私たちが行なっているものづくりとは、単に三次元の空間に構造物を創るということではなく、手がけた構造物が、その後の社会の中、歴史の中で機能を発揮し、存在していく「時」をつくることなのです。私たちのつくった構造物が良質の「時」を紡いでいくために、私たちは誠実に丁寧に、そして情熱や思いやりを持って、ものづくりを行っていきたい、というものづくりの会社としての姿勢を表しています。

まさに、東京スカイツリーの建設には当社の姿勢が現れています。ですから「時をつくる こころで創る」というメッセージがぴったり当てはまると考えました。会社の作るポスター、カレンダー、書類用ファイルなどに、タワーの写真を載せた上で、このメッセージを織り込んでいます。この広報活動は社内外でとても評判がよいものになりました。

一連のコミュニケーション活動で、どのような影響がありましたか。

東京スカイツリー建設で、多くの方に大林組の技術、そして会社の姿に関心を持っていただけました。好感度や知名度は数字で表すことは難しいものの、着実に上がったと思います。この建設を知らせることで、ステークホルダーとの関係が深まりました。また就職希望の学生さんの知名度が向上し、さらにこれまで関係のなかった方々との新しい関係ができました

ゼネコン大手の場合には技術力も事業規模も拮抗していますから、「大林組だけ」関心を抱いていただけることは少ないのです。ですが、今回は東京スカイツリーの存在感の大きさのため、多くの方に当社への関心を持っていただけました。

東京スカイツリー建設の広報活動は社内にも行なっています。そして社外の皆さんとの交流の中で、「東京スカイツリーは大林組がつくっているんだってね」と言われることが多くなりました。そのために社内の士気も上がっています。

今後の課題、そして得られた「学び」はどのようなものですか。
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今では企業活動は利益追求だけではなく、社会との良好な関係を持ち、社会に貢献し、適切なコミュニケーションを行うことが求められています。そのために当社は09年12月にCSR室を作り、地球環境室と社外との窓口である広報室を一体にしました。こうして社会との関係を深めようとしたときに、東京スカイツリーの建設で大林組に関心を持っていただけました

今後の課題はこうした関係をより深め、長く続くものにすることです。そして、ここから社会との関係を学び、次のコミュニケーションの方法を考えることです。社会の人々に注目いただき、新しい関係を作り出せる次の大林組のプロジェクトは何か、私たちは考えている最中です

また学べたことは、これまでの蓄積と、私たちの日常の会社の姿が、そのまま社外に伝わるということでした。東京スカイツリーの建設は当社のこれまでの活動が現れたものでした。ここまで無事故で予定通りに工事は進んでいますが、世界でもっとも高いタワーを建てられるのは、技術力、誠実さ、信頼などの会社の蓄積があったためです。会社のありままの良いところや強みが、広報活動の基になります