東日本大震災とその後の原発事故の影響で、大丸有でも節電のためさまざまなところで電気が消えています。これから夏を迎えて、電力需要が増大することが予想されるので、節電はしなければならないのですが、場所によっては「暗すぎて危ない」と感じたり、逆に「ここはもっと消してもいいんじゃない?」と感じたりすることはありませんか?
それは、私たちがこの節電を機に「灯り」について考え始めたということかもしれません。そして、そんな「灯り」について本質的なことを考えようというプロジェクトが現在丸の内などで行われています。それは「エッセンシャル・ライト・ジャパン・プロジェクト」というもの。
今回、そのプロジェクトの発起人であり、日本を代表する照明デザイナーである岡安泉さん(以下、岡安)と、共同で発起人をされている林崎暢亮さん(以下、林崎)、中畑隆拓さんにお話を聞いてきました。話題は、まちの灯りについてから被災地の復興までこれからの日本とまちについてたくさん考えさせられる内容です。
現在、エッセンシャル・ライト・ジャパン・プロジェクトでは、丸の内、渋谷、浅草という三ヶ所で「東京☆光散歩プロジェクト」が行われています。これは、チェックシートを手に決められたルートを歩いてもらい、リサーチポイントの明るさや印象を答えてもらうというアンケート、このアンケートにはどのような狙いがあるのかをまずうかがいました。
林崎:渋谷、浅草、丸の内の3ヶ所で実施、ウェブからシートをダウンロードしてもらって、夜間マップに沿って歩いてリサーチしてもらうという計画ですが、もう少しずつ照明が戻ってきているので、なるべく早く沢山のデータを集めたいと思っています。集めたデータは最終的にオープンソースの形でウェブサイトで公開する予定です。
岡安:この3ヶ所を選んだのは、繁華街、オフィス街、観光地、という3種類の場所について調査したかったからです。いろいろな条件の中で明かりについて考え直すことが今必要。今後、これを基軸にして、被災地の復興などでも、省電力の光環境のまちづくりの指針になればと考えています。
アンケートを作るに当たっては、快適か不快か、明るく感じるか暗く感じるかという2つのパラメータと年齢性別などの基本情報に単純化しています。でも実は年齢というのはすごく重要で、一説によると20歳と60歳では感じる明るさが3倍くらい違うんだとか。だから本当にいろいろな人に協力してもらいたい。そのためにパラメータを減らしてできるだけ単純にすることを考えました。
岡安:地震のあと、まず一方的に節電という名のもとに照明が消されてしまった。それを不安に感じる人、むしろ歓迎だと考える人といろいろいましたが、そこにはルールが何も存在していない状態だったわけです。そのなかで、原発の是非論も、まず適正な電力量を表現してからでないと全て空論になってしまうと考えたわけです。
そこで、まずは東京というまちの「東京らしさ」を保ち、ある美しさを担保しながら、みんなが豊かに暮らせる絞りこまれた一番適正な電力量というのを照明に関してはちゃんと探ろうと、専門家として考えました。その上で、安全でかつ過剰でない適切な電力量の東京というまちをちゃんとつくり直せば、節電の話もうまく出来るのではないかと思ったわけです。
そもそも、なぜ今の東京の照明環境がこうなっているかを遡って考えてみると、終戦を迎えて新しいまちを作ろうとなったときに、ちょうど蛍光灯が量販されるタイミングとあっていたんです。それで、消費電力も少なくて明るい蛍光灯が爆発的に普及したと考えています。それが今では東京らしさにもなっているので、ここをベースにこれからを考えましょうという発想です。
さらに、ここ10年は省エネってことがずっと言われていて、明るさを保ってエネルギーを削減するという意味ではギリギリまで削ってしまっていた。そこで今回の震災があって、もっと節電ということになったら、もう消すしかない。そうなったときに、色々と新しい問題や課題が見えてきたわけです。
岡安:ただ、適正な電力量と言ってもそのまちの性質によって異なるわけで、そのために3ヶ所の調査対象を設けたわけです。
震災直後の浅草では雷門が消えて、浅草寺も消えてしまった。でも、仲見世の看板は全部点いていたんです。それだったら、看板の電気を雷門や浅草寺に回したほうが観光客は来るはずです。でもそれができない。
それと比べて丸の内は明るさに関してはノイズが少ないまちです。街灯は街灯の役割、公園は公園の役割、ビルはビルの役割を果たしている。そういう意味ではあかりについての計画も非常に立てやすいです。
東京の観光地らしさ、繁華街らしさ、オフィス街らしさ、みたいなものをうまくピックアップして、減らすべきところを減らして街それぞれに全体として節電するという発想が必要なわけですが、丸の内では比較的簡単にできるのではないかと思います。
林崎:横のつながりが重要ということです。それぞれが個々でやっていては全体的な節電や明るさの調整するというのは難しくなってしまいますから。
岡安:まず、被災地ではもとに戻すことを望んでいるところはかなり少なくて、新しい魅力的なまちにしたいという意見が相当強く働いているということがあります。石巻は津波の前から財政は破綻していて、それなのに行政はもとに戻そうとしている。そこで新しいまちを作りたいという有志が動き始めているんです。
そんな中で、今このくらい東京をどう感じるかを記録しておくと、その新しいまちを興すときに適切な光環境を提示できるのではないかと思うのです。
まちづくりや都市計画というのは実はこの国では極めて弱い分野で、行政にも専門家があまり多くいません。だから、石巻で本気でまちづくりをしようとしたら専門家ではない行政がだしてくる案の対案を出す必要があって、そのためにシンポジウムなどをやって行く計画を立てています。
「東京☆光散歩プロジェクト」丸の内でのアンケート調査は現在も参加者を募集中です。なるべく多くの人、それも年齢性別のバリエーションが豊富なデータを求めているということなので、会社帰りにちょっと散歩がてら「まちの灯り」に目を向けてみませんか?
アンケート調査シートはこちらからダウンロードできます。