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【地球大学アドバンス速報】第47回「地球大学アドバンス〔コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ 第7回〕東北の食と農―21世紀型の生命地域産業の創生にむけて」(藤田和芳氏ほか

2011年度の地球大学アドバンスのテーマは「コミュニティ・セキュリティの再構築シリーズ」。その第7回は、「東北の食と農―21世紀型の生命地域産業の創生にむけて」と題し、「大地を守る会」会長の藤田和芳氏、カフェ・カンパニー代表の楠本修二郎氏、六本木農園代表の古田秘馬氏をお迎えして12月19日に開催しました。

今回はまず藤田氏による基調講演のあと、楠本氏、古田氏も交えてのパネルディスカッションを行うという形式で行い、会の終了後には東北の食材とお酒を囲んでの懇親会も行われました。

■ 東北の危機が日本の脆弱性を明らかにした~竹村氏

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東京は自給率が低く、東北に食糧を依存しています。これは日本と地球の関係にも繋がることで、東北と東京の関係は日本の食の脆弱性の縮図なのです。つまり、震災で明らかになった東北に頼る東京の脆弱性はそのまま遠い水、遠い食糧、遠いエネルギーに依存する日本の脆弱性でもあるのです。

地産地消ということは震災前からいろいろな人が言っていたけれど、その重要性がいきなり明確になったのです。自分だけに完結するんじゃなくて、緩やかなつながりの中で地産地消というものをどう実現していくか、食糧や農産物の背後には人や地域資源があり、その全てが日本の豊かさであり、今後グローバルにもブランドになりうる価値を持っています。その総合的なソーシャル・キャピタルをどのように守り育てていくのか、それがコミュニティセクリティをいかに築いていけるかにもつながっていくのです。

農業を守るためにTPPに反対というのも視野の狭い話で、もっといろいろな可能性について考える材料が今日の話からたくさん出てくるのではないかと思います。

■ 欧米人も驚く日本人の国民性が残る東北の農村~藤田氏

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わたしは岩手県の奥州市出身で子供の頃は醤油も味噌も納豆も家で作っていました。子どもの頃は文化とか近代というものに憧れているところがあって、買った醤油や味噌を食べたいと思っていた。でも、いまは味噌や醤油を自分の家で作るというのは格好いいことのように言われていて、大地を守る会でも毎年販売する味噌作りキットも7千人とか8千人という人が購入します。わたしが時代遅れだと思っていたものが、実は一周遅れのトップランナーだったわけで、時代というは面白いように変化している実感したわけです。
大地を守る会

東日本大震災は本当に大変な災害だったと思いますが、政府のやっている復旧、復興が地域で被災した人たちの本当の復興になっているのかというと必ずしもそうではないと思います。新しい地域、新しい東北、新しい日本を作るという気持ちで復興に望まないといけないと多くの人が言っているし、わたしもそう思います。

でも、そんな政府に対して怒ろうとは思いません。ヒステリックに騒いだりせず、生き残った人たちが支えあい、助けあいながら生きようとしていた映像に世界が感心しました。渡辺京二さんの『逝きし世の面影』という本があります。これは明治初期にやってきた欧米人たち。その人たちが日本の印象について語ったもので、「みんな貧しく、着ているものも質素で子どもたちは裸同然だけど争いごとがない」という印象が語られています。これは明治初期の日本には今とは違う文明の形、欧米人が驚く世界に誇るべき文明の形があったのではないかということです。そして、被災した東北の農村にはそういう文明の形が残っていたのです。

■ 東北の再生には産業の繋がりによる地域の自立が必要~藤田氏

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日本の農業は農業基本法によって、競争力のない作物は捨て、米を中心に施設園芸と近代畜産という形に入りました。軟弱野菜を中心とする農業で施設園芸には農薬と化学肥料がすごい勢いで入り、単作化が推奨されて大規模化が図られます。これによって次男や三男という人たちが必要なくなり、600万人を越える若者が安い労働力として農村から都心に移動し、日本の高度経済成長を支えましたが、これが今の農村の崩壊に繋がっているのです。

東北の再生には地域の自給とか自立ということが非常に大事です。大地を守る会をはじめた時、生産、流通、消費の3つが変わる必要があると感じました。曲がったキュウリや虫の食ったキャベツを流通させるためには新しい流通を作る必要があり、そして最後に消費者の食べ物に対する価値観が変わる必要があります。同じ事をやっていたのがイタリアのスローフードの人たちで、農業が地域の加工業者とつながり、伝統的な食文化と繋がらないとマクドナルドなどのグローバル企業には対抗できないのです。

日本では、農家は農協を通じて大都市に売り、地域の加工業者も目は東京や大阪に向いていて、地域の消費者もコンビニやスーパーに行って買物をする。農業の生産の現場と伝統的な商店とか工場とかそれがぜんぜん繋がっていないんです。それが日本の農村を加速度的に崩壊に導いている。東北を再生させるためには、農業と商業と工業を地域で連携させ、地域が自給・自立できる社会を目指す必要があるのだと思います。

■ 地域の自立と東京との関係~竹村氏

安い石油に基づいたグローバリズムを前提とした社会がもう成り立たなくなっている中で、藤田さんが40年やってきたことというのが改めて価値を持ってきたということだと思います。自家製の醤油や味噌も人間と動植物と微生物が共生系をなしているからこそ出来るもので、それが実は地域のソーシャル・キャピタルになるのです。イタリアのスローフード運動を参考に、そのソーシャル・キャピタルから地方産業を構築していかなければならない、そしてそれを東京という大消費地がどう支えていくかが課題としてあげられたのだと思います。

■ 東北をブランディングして海外へ~滝田氏

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カフェ・カンパニーは来年で70店舗くらいになるりますが、多店舗展開を目指しているわけではなく、地域には地域のよさがあると考えてやっています。最終的なコミュニティの目標設定は縦割り社会の効率化、縦割り社会が生産者と消費者のつながりの障壁になり、コミュニティを作る障害になっているのだと思います。また、藤田さんがおっしゃるように中間が多すぎるというのもあります。生産者から消費者までをひとつのチームにする「7人8脚作戦」というのもやっていきたいと思っています。
カフェ・カンパニー

震災の時、最初は何をしていいのかわからなかったですが、東北のらしさというのを発信していくきっかけにするべきだと思って、仮設住宅ができる前に、世界中のクリエイターを集めてクリエイティブハウスを作るべきだという提言をしましたが、規制があってだめで、この期に及んで、瞬間的な判断ができないリーダーシップのなさが頭にきました。それで、地域のために身を粉にして働いている農家のヒーローたちの物語をつむいでブランディングにつなげ、具体的な経済効果を起こして生くために「東の食の会」というのを仲間と作りました。
東の食の会

11月に仙台で食の産業サミットというのをやり、いろいろな課題が明らかになりました。それは、インフラでは水産加工業の復興、安心安全では基準値の問題、生産加工ではブランディング、販売ではマッチングというもの。そして、それを解決するためには、外国にどう売っていくかということを考えていく。そのためのブランディングがしっかり出来ればそれが東京や関西にも響くはずで、そのために一緒に汗を書いて頑張っていきたいと思っています。

■ 東北をブランディングして海外へ~古田氏

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もともとは消費者のところで外食産業ではなくて農業としてとらえるにはどうすればいいかと考えて、農業のライブハウスを作ろうということで六本木農園を始めました。基本的に地域活性という視点で、実際に会いに行くトラベルレストランなどもやっています。
六本木農園

震災直後は、いろんな方から「安全な野菜が欲しいから農家さんを紹介して欲しい」という連絡がありました。そういうことを知っている人がほんとうに少ないわけです。情報化社会といいながら、大事な情報が伝わっていない、情報がカテゴリーごとに分かれているので、伝わって行かないんです。今回の逆境から立ち直るためには農家のメンバーだけでつるむんではなくて、別の業界とつながっていく必要がって情報を流通させていく必要があります。

来年以降仕掛けたいと思っているのは中規模流通。たとえば、ツシマヤマネコを守るために作っているツシマヤマネコ米というのがあって、これを動物園で売ったら全部売れたように、生産者と消費者というだけじゃない、もうひとつ関係値を作ることが流通につながるんじゃないかと思うんです。311で安心安全が多くの人にとって自分事になった今こそ、切り替えるチャンスじゃないかと思います。

このあとは、4氏が質問に答えながら、CSVや世界的な食糧不足という話題に。どの話題でも消費者=生活者である私達の意識が重要だという事を考えさせられました。古田氏の言うように農業を「自分事」と考えること、それこそが食におけるコミュニティセキュリティ構築の第一歩なのだと思いました。

ディスカッションのあとは、丸の内ハウスによる東北の食材を使った料理と東北のお酒を楽しみながらの懇親会。竹村氏からは「丸の内は未来に向けたイーティングデザインミュージアムに進化すべきで、物語も含めた食べ方のデザインをしていくべきだ」との提言があり、それぞれの料理に込められた物語を読み解きながら味わう会となりました。

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次回
第48回地球大学アドバンス[コミュニティ・セキュリティの再構築]
シリーズ8 感染症と文明―共生への道

日時:2012年1月23日(月) 18:30~20:30
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