2012年度、5年目を迎えた地球大学アドバンス、今年度は「食」の問題に焦点を当て、丸の内「食の大学」として展開しています。第2回となる今回は「東北の食の未来」と題し、東北の食や産業構造に精通し、復興構想会議の専門員でも藻谷浩介氏をお招きして7月2日に開催しました。
今年度はこれまでのレクチャー形式に加えて、ワールドカフェの協力の下、参加者がワークショップを行う参加型の地球大学です。今回も「東北の食」をテーマに参加者も議論を交わしました。
震災直後にまわった東北の海の青さが忘れられません。東北は世界一豊かなオホーツク・ベーリング海の恵みと東北のブナ林から流れ出る陸からの恵みにあふれた海があり、縄文時代から連なる植生があり、弥生から入ってきた稲作の模範的な穀倉地帯である陸があり、色々な生態系の恵みが交差する場所。そこが被害を受けたことで、私たちはナチュラル・ソーシャル・キャピタルの重要性というのを再認識したのではないでしょうか。そして、それは新しい生態経済をどう産み、育てていくか、その実験場になるのではないでしょうか。
そして、震災がなかったとしても、高齢化や首都圏との関係という構造的な問題がいずれは行き詰るのが見えていた中で、この震災はその解決を加速させるステップボードになったのではないかとも思います。その中で丸の内が食のハブとして東北の復興の触媒として何ができるかそれを今日は考えていきたいと思っています。
今日は藻谷さんのお話に入る前に、実際に今東北で動いているプロジェクトを2つ紹介して頂きます。
1つ目の報告は「丸の内シェフズクラブ」と、東北エリアのシェフたちが連携し、東北エリアの食材や伝統野菜等を使った新商品やメニューを開発し、商品化することで復興を支援する「Rebierth東北フードプロジェクト」、その企画/運営を行う三菱地所の水田さんからです。
Rebierth東北フードプロジェクト
丸の内シェフズクラブからの「東北を食を通じて応援したい」という想いを受けてスタートしたプロジェクトで、目的は東北エリアのシェフと丸の内エリアのシェフが手を組んで、東北の食材を使った新しいメニューを開発、商品化して復興支援することです。イベントはこれまで3回行なっていて、第1回は仙台のホテルでビュッフェを提供したり、泉パークタウンで料理教室をしたりしました。第2回は丸の内で「はらくっつい 宮城食堂」というイベントを行い、東北の食材を使ったランチメニューを提案しました。第3弾は仙台でシェフズクラブのシェフと東北のシェフとで宮城県の食材を生かしたメニュー開発を行い、生産者とシェフと飲食店関係者との交流をはかりました。
参加者からは「農業者の励みにもなった」「風評被害がやまない中、イベントを通じて美味しいといってもらうことで勇気をもらった」という感想も頂いて、今後は丸の内で来街者と生産者を直接つなぐマルシェの実施などを構想しています。
続いて、様々な企業が共同して東日本の生産者のマーケティングやマッチングを行い、食の安心と安全、そして世界への発信を行う「東の食の会」から、代表理事の楠本さんと、理事の立花さんからの報告です。
東の食の会
震災前から食を横断的に考えたいと思っていて、震災を受けて、東北を中心とした食のプラットフォームを立ち上げようとスタートしました。日本のクリエイティブの源泉は里山の森羅万象を感じる感性と考えていて、その意味でも東北には深い食文化がある。それを経済の面から支援して行こうとこの会を立ち上げました。具体的には東北と現地で目線をあわせて東北のあり方を考えながら生産者が自立できるビジネスプラットフォームを作っていく事、そのためにはマーケティングやブランディングが必要ですが、農家としてやってきた方には難しいと思うので、企業とのマッチングを行い、これまでにナチュラルローソンと木村ミルクプラントなどのマッチングが成立しています。今後、さらに色々なクリエイティビティを持つ人が食を通してつながるネットワークをどんどん広げていきたいと考えています。(楠本さん)
震源に近く、6000人いた人口が一時100人以下になってしまった雄勝で、漁業から復興に取り組む「OHガッツ」で活動を行なっています。漁業を再開するだけでは人は戻ってこないので、できるだけ多くの人に漁業に触れていただくため、買ってくれる方に「育ての住人」となってもらい、産品をどのように使って行きたいかなど生産者と消費者が寄り添いながら一緒に漁業を育てていくというコンセプトです。漁業も農業も地方行政も、もとからある問題にどう取り組んでいくかということが今問われていると思います。今やらなければ50年後60年後の日本というのは未来に向かって何を残せるのか、そう考えて復興と言うよりは日本の新しい漁業や社会に取り組んでむという想いでやっています(立花さん)
今日は皆さんに3つのことを提示します。食は産業として全然だめだということが第一、2番めはこのだめな食産業をどうしたらいいかということ、そして3番目は東北はその中でも劣等生で、やらないのにも理由があるということ。
まず第1。食には文化、技術、産業の面があり、私が語っているのは産業面ですが、日本の食はそもそも産業として成り立っていません。日本の産業全体を見るときに、今回の震災の日本の貿易収支への影響ということが言われるけれど、ほとんど赤字にはなっていません。リーマン・ショックの時も輸出が半分に減ったけれど、それほど赤字にはならなかった。それは輸入もほぼ半分に減ったから。それでも食糧危機にはならなかった。それは食品の産業規模が小さいからで、輸入は年間5兆円くらい。これは全体の10%にも満たない数値で、国内の生産高も8兆円でGDPの2%程度。加工食品はというと24兆円くらいでまだ大きい。つまり、加工して売らないと儲からないということなんです。
今度は都道府県別で見てみると、食品工業出荷額に対する従業員一人あたりの売上を見てみると、東北は非常に低いんです。秋田県などは食料自給率は2位なのに、一人あたりの売上は46位。これに対して鹿児島や北海道は高いわけです。更に細かく市町村単位で見てみてみるともっとわかりやすくて、北海道が上位に出てくる。東北は出てきても内陸ばかりで三陸は全然出てこない。なぜかといえば生で出すか、加工するとしてもノーブランド品を作ってしまうから。かまぼこを作っても全部、「仙台の」笹かまぼことして売られてしまうわけです。
どうしてそうなのか、それは東北が北海道や鹿児島より「交通の便がいい」から。東北は夜出せば朝つくので、生のまま出したほうが楽。遠い土地は生で届けるのが難しいから加工して、輸送費もかかるからそれをカバーするために高く売るための努力をするわけです。お客さんに来てもらうということを考えても、東北は日帰りかせいぜい一泊で帰ってしまう。これをひっくり返すには若い人を現地の年寄りと組ませたりしなければだめじゃないかと思っています。
ここで竹村氏から「アジアに対してはどうか」ということと、「東北が加工をやらないのは価値観や美意識の問題ではないか」とう質問が。これに対してもたにしは「東北はアジアに対してはアワビやフカヒレ、なまこなどの輸出で日本の先進地機なんです。なぜならアジアは遠いからで、今後はこの高級市場だけを狙っていけばいいと思います。美意識という点では東京で売れたほうが価値が高いという意識はあると思います。東京には東北がルーツの人が多く、そのため東京で評価されたいということは考えがちですね」と答えました。
参加者からは「食べ物がどう流通しているかを見ると、加工業が発達したのは関東圏で、東北はそこに生の原料を出していた。交通網は発達しても農産物の供給構造というのは変わらないので、全国の方々が東北に注目している今、来てもらって地元で一番いい物を食べてもらうと、東北地方が変わっていくきっかけになるんじゃないかとお話を聞きながら思いました」との意見も出ました。
竹村氏は最後に「東京は食を東北にアウトソーシングし、東北は東京に市場をアウトソーシングし、それで付加価値を着け損なってきた。クリエイティブじゃないと生きていけないということが言われますが、食についても本当のクリエイティビティが特に東北に求められていることがわかりました。このことをこの次のワールドカフェで議論してもらえれば」と締めくくりました。
今年度はワールドカフェ形式にワークショップを行い、参加者の理解をより深める試みを行なっています。今回も参加者が5人くらいの組に分かれ、まず「東北の食の話を聞いて何を感じましたか」という話題で、次にグループのメンバーを変えて「あなたは東北の食の未来をどうデザインしますか」という話題で約20分ずつ話し合いを行い、最後に各グループがそれを短いキャッチフレーズにまとめて発表しました。
「ハイブリッドワークシステムを立ち上げる」「ブランド化を真面目にマネジメント」「食の未来の前にお互いを知ろう!」「スーパー産地直送」「新(Neo)・加工」「ほくほく東北」「来たれ!素材編集長」「未来は発信力」というものでした。「加工」や「来てもらうこと」が大事という出発点から、「やっぱり生で食べたい」という考えを加え、「素材を活かす新たな方法」へと考えを展開する方が多かったようです。
藻谷氏も発表について「加工食品加工食品言っていたけれど、素材のほうが美味しいという議論になるんじゃないかと期待していました。実際そのような議論になって、東京で化けた値段でどうして地元で出せないのかという話になればいいと思っていました。そのいい例が、丸の内国際ビルにある「とかちの...」という十勝の食材を食べさせるお店があって、それが広がって全国の食材を食べさせる「にっぽんの...」というお店も出来ました。ここは皆さんがイメージしている食材を高く売ることを実践している店で、重要なのは、量が少なくて安定供給できない極めて限定的であるということをいかに付加価値に変えるかということです。十勝のアスパラがいい例で一週間くらいしか食べられない。旬の感覚というのが素材を高く売るためには重要で、そのためにはプロデユーサーや編集者が必要になるわけですが、丸の内にはその編集能力があるいい例だと思います」と感想を述べました。
竹村氏はこれを受けて「丸の内は東北の付加価値を見せる窓として大きな役割を果たせるんじゃないでしょうか。東京が入口になって東北に人を導いていくということを考えると、イタリアのピエモンテやフランスのプロバンスが参考になります。そこには白トリュフやワインを求めて全世界から人が訪れます。東北がそういう場所、地球の中の東北になっていくためには何をしたらいいのか、何ができるのかということを皆さんと考えていきたいと思います」と締めくくりました。