フランスを代表する静物・風俗画の巨匠、ジャン・シメオン・シャルダン(1699-1779)。欧米ではフェルメールをも凌ぐ人気を誇りますが、日本での知名度はいまひとつ。そんなシャルダンの日本初の個展が三菱一号館美術館で開催中です。シャルダン研究の第一人者である、ルーヴル美術館名誉館長ピエール・ローザンベール氏の監修により、個人蔵の非公開作品を含む貴重な38作品が一挙公開されています。
展覧会のオープンにあたり来日したローザンベール氏は、
「シャルダンが生きた18世紀は、絵画の世界において、フランスがイタリアを乗り越えた時代。文学も栄えた啓蒙の世紀であり、進歩が人類の幸せに貢献すると信じられていました。絵画の伝統的な教育では、宗教的、神話的なテーマ、見えないものを空想力をつかっていかに描くかが教えられていた当時、シャルダンは、自分の使命は目前にある、見えるものの本質を捉えて描くことと理解し、静物画、風俗画を描きました。日常のつつましいものを絵筆により崇高なもの、時間のない、無時間的なモニュメントへ、イコン(聖像)へと変えたと言ってもいいでしょう。ささやかなもののなかにも美を見出し、世界がいかに美しいかを証明する。これこそ絵画の神髄ではないでしょうか。暴力的なものにあふれた現代、私たちはシャルダンの絵を見ることで、日常のささいな懸念を忘れ、逃避することができます。静謐、平和なシャルダンの絵画を、私たちは今必要としているのです」
と本展の意義や楽しみ方を紹介してくれました。
会期は、2013年1月6日(日)まで。
三菱一号館美術館の静けさのなかにあってなお際立つシャルダンの絵画の持つ静けさは一見の価値ありです。足音さえ響きわたってしまいそうなので、女性の皆さんはぜひローヒールでお出かけを。