2009年11月15日に大田区の城南島海浜公園で開催された「東京キャンプ」。[[丸の内朝大学]]から生まれたこのプロジェクトには、これまでの企業単位でのCSR活動を超えた地域に根ざしたCSR活動、さらには一人ひとり が都市で環境に配慮しながら生き生きと働く「グリーンワークスタイル」の可能性を広げるヒントがたくさん隠されている。
そこで、「東京キャンプ」の企画メンバーである岩崎雅美さん(株式会社クレアン)と金子友美さん(住友商事株式会社)、この企画に賛同して協力した坂本哲さん(株式会社日比谷アメニス)の3人にお集まりいただき、このプロジェクトの意義や実際に開催して感じたことなどをざっくばらんに語ってもらった。
<聞き手;木村麻紀(環境とCSRと「志」のビジネス情報誌「オルタナ」副編集長)>
木村: 「東京の都心でも自然を感じながらキャンプをしよう」という「東京キャンプ」ですが、どのようにして「[[丸の内朝大学]]」から生まれたのですか。
岩崎: 私たちは今年の7月〜9月の3カ月間、「朝大学」の2期生として毎週水曜日の「環境ソーシャルプロデューサークラス」を受講しました。そこで与えられたテーマが、「低炭素なアフター5を過ごすための実験プロジェクト」でした。政府や環境省は低炭素社会の実現を掲げていますが、その目標に向けて自分たちがどういうアクションができるかを考え、思いついたのが東京キャンプです。
木村: 低炭素からキャンプへ。面白い発想ですね。
岩崎: もともと私はアウトドアが好きで、山や海によくキャンプに行くんですが、自然があるところは遠いので、 時間も装備も必要ですよね。日頃から、日常生活を送る都市と自然がある場所とのかい離を感じていました。ですから、「低炭素社会の実現」「CO2の削減」と言っても、都市に生活している一般の人たちにとってはリアリティがないのではないかと思っていました。まず自然と触れ合う機会がなければ、自然の何が大事か感じ、考える機会もありません。
ですが、見渡せば都市の中にも公園など緑がありますよね。そこで、公園という場を活用して、自然と身近になれるキャンプができれば、人々が気軽に自然を感じることもできて面白いのではと思ったのです。
金子: 私も元々、外にある環境をシンプルに楽しみながら、風や太陽の光を感じて過ごす時間が好き。お店もオープンテラスでいいし、むしろビールを買って公園で飲みたい派なんです(笑)。当然、岩崎さんの企画も、素直にいいなと思いました。
岩崎: 「東京キャンプ」のコンセプトは3つあります。まず、アフター5にすることといえば、食事をするか習い事に行くか、家に帰るくらいですので、そこに「自然と過ごすライフスタイル」を提案したいということが1つ。次に、都市で働く人は日々仕事に追われ忙しいので、自然と触れ合うことでリフレッシュして、パワーを得られる空間にしたいということ。さらには、環境に優しい運営を目指すということでした。
* 写真2枚目:木村麻紀
* 写真3枚目:岩崎雅美さん(株式会社クレアン)
木村: プロジェクト決行まで、どのように動いたのですか。
岩崎: 朝大学の最後の授業で、企画を形にしようと「東京キャンプ」のプレイベントを実施することになりました。本来であれば大丸有(大手町・丸の内・有楽町)のエリア内でやりたかったのですが、千代田区内は色々な制約があるようで、今回は実現できませんでした。
金子: このプレイベントは最終的に、お台場の潮風公園で10月3日に開催できました。そこでは、キャンプのスペースを作って、飲み物やお菓子を持ち込んでゲームをしたり、みんなでお話したり。
岩崎: 「芝生の上で大の字に寝っ転がろう」というシンプルなアイデアをイベントのキラーコンテンツにしました。都会で寝転がることなんて滅多にないですし、大の字で寝転がるという健康法もあるようです。実際にやってみると、当日は中秋の名月で、満月を眺めることもでき、とても気持ちが良かったです。
金子: 暗闇の中、相手の目を見ずに月を眺めながら話すのですが、横の人が知り合いじゃなくても妙な親近感、一体感が生まれるんですよ。心を開放してくれたような気がしますね。それに、都会からでも意外に月はキレイに見えるんだなって感心しました。
岩崎: そのプレイベントが終わってから、朝大学の講師であるgreenz.jpの編集長・鈴木菜央さんが「これは面白いんじゃないか」ということで日比谷アメニスの坂本さんを紹介して下さり、11月15日の本番を一緒にいっしょにやらせていただくことになりました。
木村: 坂本さんは彼女たちの企画を聞いて、どんな感想というか、意義を感じましたか。
坂本: 私たちの会社は、指定管理者制度によって公園などの公共施設の管理運営を行っています。ただし「管理」とは、利用者が怪我をしないようにと安全を念頭に置いた考え方です。公園の運営に関わる中で、「公園という場所を活かす」という発想が生まれてきました。そこで、緑を扱う私たちの森林についての知識と、環境問題やエコといったものをうまくつなげてソーシャルビジネスにならないかと、ここ1年半ほど動いていました。そこで私たちは、培ってきた緑についてのノウハウを活かして、公園・緑地という「場所」から地域・森林の環境配慮型・エコロジカルなプロダクツやサービスを提供・発信していくソーシャルビジネスをここ1年半の間進めてきました。
そんな時に「東京キャンプ」の企画と出会い、地域発でなく都心発の素材として、「都心の公園でキャンプ」というのは私たちとしては見落としていた発想で面白いなと思い、城南島公園を「場」として、共同でイベントを進めることになりました。
* 写真2枚目:金子友美さん(住友商事株式会社)
* 写真3枚目:坂本哲さん(株式会社日比谷アメニス)
木村: イベントでは「エコ・バーベキュー」なるものが行われたんですってね。
坂本: 私たちから提案させてもらいました。まず食材ですが、豚肉は朝大学農学部の講師で「農家のこせがれネットワーク」の宮治勇輔さんが育てた「みやじ豚」を使用。 兄弟の豚だけを通常の3分の1程度の頭数でストレスなく丁寧に育てたみやじ豚は、臭味がなく、肉厚なのに柔らかくてとってもジューシーです。野菜は弊社のソーシャルビジネス・プロジェクトでも扱っている「エコ野菜(もてぎ 美土里野菜)」を使いました。森林の間伐材や落ち葉を混入した有機堆肥で作られている有機野菜です。さらに、燃料は木材の端材などから作られる東京ペレットの木質ペレットを使いました。みなさん、興味津々でしたね。
岩崎: 当日は、20代から30代前半を中心に20人余が参加してくれました。男女比は半々でしょうか。食事などを楽しんだ後、グリーントークとでもいいますか、輪になって自己紹介しつつ、エコについて語り合うゆるやかな時間を過ごしました。
環境にやさしい運営、ということでマイコップ、マイ箸の持参を呼びかけたので、皆さん持ってきてくれました。
金子: 昼の12時スタートで、16時ごろには終わりましたが、コンテンツが盛りだくさんであっという間でした。
木村: 市民と企業、そして公園が手を組んだ新しいコラボレーションの形ですね。場所を変えれば、また違った形もありうるし、そうなればその場に関係する違う企業が入ってきて、また新しい形になりますよね。一口に「市民」と言っても、キャンプ参加者だけではなく、地元の人も参加できるようなイベントに発展させても面白いと思います。
岩崎: 名目は「東京キャンプ」ですが、場所は東京に限らなくても良いと思います。自然があれば、公園でも河原でもいいんです。何より、土の心地よさや緑の匂い、太陽のあたたかさなど、自然そのものを楽しんでもらいたいという思いが根本にあります。また、東京キャンプは、子どもやお年寄りなども集える場として、各地域のコミュニティーの活性化の場にもなれると思いますし、障がいのある方も一緒に楽しめるようなイベントも企画したい。あらゆるボーダーを越えて人がつながれる空間をつくりたいですね。
木村: あとはやはり、なんとか大丸有地域で「東京キャンプ」を実現させたいですよね。
岩崎: そうですね。一方で、都市部では管理、規制の関係でハードルが高いかもしれません。規制を守るという部分も必要ですが、活動の趣旨に柔軟に対応できる面もあればと感じています。また、この大丸有エリアというのは主に働くために人が集まる場所、いわゆるオフィス街ですよね。現状では、働いて帰るだけの場所として完結しているように感じますが、本当の意味での「街」になるには、一見目的のないように思える宙ぶらりんな空間も必要だと思います。そういったニュートラルな場にこそ、コミュニティーも生まれると思うのです。
木村: なるほど。例えば、[[屋上緑化]]されているビルでキャンプはできないのかしら。
岩崎: そうですね。プレイベントの際にも検討しました。実際、うまく活用できていないところも多いようです。もっと人が集まれるようにして、社員同士がコミュニケーションを取れたり、あえてそこで会議を開いたりすれば、環境も変わり新しいアイデアも生まれてくるかもしれません。
木村: まさに「グリーンワークスタイル」を見る思いがしますね。ところで、アフター5という話がありましたが、今は長時間労働も問題です。そこをクリアしないと、このような企画を盛り上げるのは難しい。例えば、毎週水曜日を「ノー残業デー」にして、「東京キャンプ」を呼びかけていくというのはどうですか。
岩崎: それもいいですね。もともとはそういったニュートラルな場にみんなで集ってのんびりした時間を過ごしましょう、というのが出発点ですから。ビル単位で、働く人たちがそれぞれ「東京キャンプ」を開く、などもありそうです。
木村: 「東京キャンプ」は、同じ街で働く人同士による、ある意味、地域のCSRアクションの要素があると思いますが、最近の企業のCSR活動について皆さんどう思われますか。
岩崎: 企業がCSR活動をするとき、他の企業や地域と連携するのはなかなか難しいですが、よりフットワークを軽くすることができれば、新たなCSR活動の可能制が生まれると思っています。
金子: 会社の垣根を越えてCSR活動ができれば面白くなると思うんですよ。例えば、私が他の会社のCSR活動に参加できれば、他の会社の人とコミュニケーションをとる中でコミュニティーも広まるだろうし、仕事にも生かせると思うのです。企業はCSR活動をただレポートするだけじゃなく、「こういうことしますよ」と、他の会社の人でも参加できるような場の提供をすれば、企業のCSR活動も多様性が出てくると思います。
最近、大丸有で行われている[[空と土プロジェクト]]を知ったのですが、次回はぜひ参加してみたいですね。
木村: まさにCSRのアクション化ですね。
岩崎: アクションをとるきっかけの場を与えるのもCSRの使命ではないでしょうか。 CSRには社会的貢献という性格も部分があるんですけど、企業は本業を生かすCSRをしなければ意味がないと思います。日比谷アメニスさんのように、本業に近いソーシャルな事業を立ち上げて民間とつながっていくというのは本当に重要だと思います。
木村: とかく企業のCSR活動は、週末に自然体験するとか農業体験するといった、日常と切り離されたものになりがちです。でも「東京キャンプ」の目指すスタイルは、普段の仕事の延長で参加できて、エリアとして環境問題の啓発や人材の交流ができる、という点が素晴らしいです。
岩崎: 私はふだん、仕事でさまざまな企業のCSRレポートの企画や制作を行っていますが、社会的課題やソーシャルビジネスを知るうちに、自分には何ができるのだろうかという気持ちが芽生えてきて、朝大学に参加しました。今回、自分でプロジェクト立ち上げて、企画を進めている中で日比谷アメニスさんと出会えたのは、とても大きな出来事でした。企業がCSR活動のために社内を動かすことや、外部の声を聞くハードルの高さを日頃感じていたので、アクションを起こすスピードの早さに驚きました。
金子: 私はまだ社会人2年目で、このままだと自分の会社だけの常識で生きていきそうな気がしていました。 他の価値観・視点というものに触れたいと思い、朝大学に参加したのですが、岩崎さんほか色々な人が色々な考えを持ち、色々な常識で動いているのを見て、自分の世界が広がりました。交流を広げて視野を広くもつことは、仕事にも役立ちますし、生活の潤いにもなります。こういった場を提供するものCSR活動になりえるのではないかと思います。
木村: 「東京キャンプ」を「地域発CSR」という観点で考えたときに、「本業のCSR+地域発CSR」という融合を、今回は坂本さんが非常に実践的な形でコミットされました。
坂本: 公園というポテンシャルをもっと活かす必要がありますね。公園にかかわりがある同士を結びつけて、公園から何かを発信するスタイルを作り上げられたら面白そうですね。そのためにも「公園管理」という我々のビジネスをベースにCSRのエッセンスを入れていきたいと思います。
本業の観点から言うと、「緑化=CSR」「緑化さえしていれば社会的責任を果たしている」という発想が長く続いてきたので、それだけに留まらず「緑を使った価値を発信していく」と意識を変えていく必要があるのかなとは思っています。
木村: 緑を増やしてキレイにするだけでは、ゴールではない。意味がなくて、そこに人が集う、癒される、つながるということに発展させることが、緑の意味を活かすことでしょうね。ていきたいですね。「グリーンワークスタイル」といっても、単に緑がある場所で働くだけでなく、「場所」から「場」にするアクションをどう進めるか意識しながら活動を発展させていって欲しいと感じます。ですね。最後に岩崎さん、これからの活動の予定を聞かせて下さい。
岩崎: 真冬の極寒キャンプなども構想していますが(笑)、暖かくなる来春から定期的に開催していきたいと考えています。「東京キャンプ」は、都市と自然がつながって、自然と人がつながり、人と人が出会える場でありたいと思っています。
緑の上に寝っ転がるのもとても気持ちが良いですし、参加される方がワクワクして、何かのきっかけをたくさん生み出すような「場」をつくりたいと思っていますので、ぜひ一度、東京キャンプに遊びにきてください。