(株)貞雄代表、無印良品「くらしの良品研究所」研究員。大学を卒業後にイタリアへ留学し、帰国してからゼネコンの現場で設計営業を学ぶ。2001年に独立し、コンサルタントとして住宅系の営業支援業務を行う。2004年に良品計画のグループ会社ムジネットに入社し、2007年、同社取締役に就任。現在は、主に住宅系の商品開発およびWEBコミュニケーションの企画立案を行っている。東京都出身。
http://tsuchiya-sadao.com/index.html
環境省 廃棄物・リサイクル対策部 産業廃棄物課審査専門官。1993年に環境庁(当時)に入庁。総務・会計的な業務から公害制度の企画立案まで、さまざまな業務を担当する。直近では、地球環境局において、クールビズを始めとした地球温暖化の国民運動を担当し現職に。産廃の適正処理に加えて、資源としての再利用やその過程の「見える化」を進めるための事業に取り組んでいる。東京都出身。
http://www.env.go.jp/recycle/
インダストリアルデザイナー。(株)オープンハウス代表取締役、LLPエコデザイン研究所代表、東京造形大学デザイン学科教授。東京造形大学卒業後、国土建設(株)などでの勤務を経て、1978年に独立。フリーランスのデザイナーとして、エコデザインやユニバーサルデザインをテーマとした研究、講演、執筆活動を行っているほか、デザインコンペティションなどの審査委員を務める。東京都出身。
http://openhouse.co.jp/
帝人ファイバー(株)グローバル経営戦略・企画管理、マーケティング企画チーム長。1983年に帝人に入社し、主に繊維事業の輸出営業などの業務に携わる。アメリカ駐在時に事業企画・マーケティングを担当し、北米でエコ素材のマーケティングを行った実績をもつ。(財)日本ファッション協会評議員。
http://www.teijinfiber.com/
都市を持続可能な姿に変えていくには、地球規模での資源循環という大きな課題を企業などの組織内にとどめることなく、社会全体の課題としてとらえる姿勢が必要だ。そのために、リデュース・リユース・リサイクルの「3R」を徹底して、都市の中で資源を循環させる「リサイクルループ」の構築が求められている。エコッツェリア協会が2011年9月にスタートした研究会「3*3ラボ(さんさんらぼ)」=「3R、3rdplace、Laboratory」は、「環境プロダクトの『ものづくり』から『ことづくり』へ」という視点をベースに、参加者が企業や個人の立場や枠を越えて交流して、リサイクルループを実現する新しい価値を生みだそうという試みだ。都市の3Rがめざすべき方向とは。そして、そのために企業や個人はどのような行動をとればよいのか。3*3ラボの中心メンバーである4人のアクターに、理念や活動内容を交えて語り合っていただいた。
大丸有でもリサイクル資源や再生可能エネルギーが生み出されているものの、十分に活用されているとは言えない。都市に眠るさまざまなストックを生かしていくためには、排出されるものを廃棄物ではなく資源として循環させるリサイクルループの構築が欠かせない。一方で、実現に向けたハードルは少なくない。
土谷: 3*3ラボは、環境プロダクトを社会に開いていくことを「ともに考え、やってみる」ための新しい場です。その根本には大きく二つの視点があります。一つは、大丸有エリア内での資源循環を図るリサイクルループを実現していくこと。二つ目は、そうした課題について考えることによって、既存の経済モデルや企業の考え方自体を変えていこうというもの。
企業はさまざまな「もの」を売って利益を上げるというのが、これまでの常識でした。しかし、ものをつくっても売れない時代に「ものを売る」ことが果たして正しいのだろうか? というシンプルな問いを起点として、「ものづくりからことづくり」にシフトしていこうというのが3*3ラボの基本理念です。もちろん、資源循環に伴うコストアップをいかに吸収するかなど、課題は少なくありません。それでも、環境問題を一企業だけでなく社会全体で考えていくことで、見える景色が変わります。
益田: 3Rに関しては、大丸有のようにエリアをある程度限定して取り組むのがよいと思います。その際に忘れてはならないのが、「クローズドループ」という概念です。ものづくりのあらゆる段階で、後世に悪影響を及ぼすものを排出しないゼロエミッションをめざす考え方です。自然界はすべてのものが分解されて元に戻るクローズドループなのですが、人間のつくり出すものだけが逸脱して処理されず、ストックされるようになってしまいました。
それを正常化して、人間社会にもクローズドループをつくっていく。この時に、時間軸をきちんと取り込むことが重要です。すると一気に戻すことはできないものが出てくるので、もう一度使いましょうと。その際にはまず、資源やエネルギーをできるだけ投入しないためにも、リユースを優先すべきです。建物でも家具でもメンテナンスやリペアなどを行って、長く使い続けていく価値観が若い世代に伝わり、文化になっていけば、世の中は変わると思います。
一方、リサイクルについては、一般的に素材はリサイクルを繰り返すほど価値が下がると言われています。いわゆる「カスケードリサイクル」ですが、私はクローズドループをめざしつつ、デザインの力でそこに新たな価値を加えることで、「アップグレードリサイクル」を実現することが可能であると考えています。
宮武: 私たちの会社では、ポリエステルを使った繊維を再生して、新しい石油を全く使わずに新しい布をつくりだす「エコサークル」という循環型リサイクルシステムを、1990年代に完成しました。ポリエステルは全世界で毎年4000万tが生産されていますが、使用後はほとんど廃棄されている現状があり、化学企業として自社の技術で社会に貢献したいと考えたのです。
リサイクルは、あくまでリユースできない場合にとる手段ですから、せめて環境への負荷が小さい方法で行おうと、ポリエステル製品を原料まで分解して高純度の原料に再生するケミカルリサイクルの技術を確立しました。最大の特長は、できあがった素材が通常のポリエステルの純度とほぼ変わらない高い質を保っている点です。これにより、リサイクルにつきものだった質の低下という先入観を払しょくすることができました。一企業の力には限界があるため、国内外のアパレルメーカーやスポーツメーカーなどに声をかけ、現在、賛同してくれた150社以上と共同で商品の開発・回収・リサイクルに取り組んでいます。
林: 昨年の夏から大手企業約50社を回ってみたところ、多くの企業が廃棄物を財としてとらえ、そこから創り出される再生素材を製品に活用する方向に動き出していると実感しました。ただ、課題は、いかに需要と供給のバランスをとるかということです。廃棄物から高い品質の再生素材を創り出す、こうしたリサイクル事業を軌道に乗せるには需要の掘り起こしが大事ですが、前提として十分な量の資源が供給されている必要があります。再生資源の供給量が確保されればリユース製品の需要も増えるという、いわばニワトリとタマゴのような関係にあるのです。 非常に難しい課題ですが、これには優良産廃処理業者の支援など政策的手法に加え、やはり国民、すなわち消費者や購買層の関心を高めることが不可欠であり、制度改正とともに普及啓発に取り組んでいます。
都市で3Rを現実に動かしていくには、企業における意識改革やビジネスモデルの構築など多くのハードルがある。それらの課題を解決するため、地域や企業でさまざまな取り組みが行われている。
土谷: 3Rを進めていく上で重要なのが、価値観や意識の変革を促していくことです。たとえば、建築の分野では新築だけでなく、建物を大幅に改修して新たな価値を付加するリノベーションが主流になりつつあります。単に新築と比べて安いからではなく、時代の痕跡を重ねて住まうことができる点が人気の理由です。既製の住宅やオフィスに満足することなく、自分の暮らしを自分で考えようという人が増えているのです。こうした動きに企業が注目してリユース市場に魅力を感じるようになれば、本来の業務に加えて3Rに取り組むようになるでしょう。
ものではなくサービスや仕組みを売ることで、廃棄物を出すことなく利益を上げるモデルもあります。オランダのある家具屋さんは、家具そのものではなく設計図にあたる型紙の販売を行っています。型紙を買った人は、今ある素材を使って新しい家具をつくることができるわけです。このように、まったく新しい発想に立ったビジネスモデルを生み出していくことが大事です。
益田: 岐阜県の美濃地方では、名産品である美濃焼をリサイクルする「グリーンライフ21・プロジェクト(GL21)」という取り組みが成果を上げています。陶磁器や焼き物づくりに欠かせない陶土が不足して輸入に頼っている現状を改善しようと、産地の有志企業が陶磁食器のリサイクルを始めたことがきっかけです。全国から集めた使用済みの食器を粉砕して粘土などに混ぜ込み、さらに細かくして陶磁器などの原料となる坏土(はいど)に再生し、リサイクル食器の「Re-食器」を生産しています。
当初は、リサイクル陶器が売れるのだろうか、嫌がる人がいるのではないかといった懸念もあったようです。しかし、調査したところ気にする人は少なく、むしろ再生原料が混ざることによる風合いが評価される傾向があるということがわかりました。このような日本文化がもつおおらかさは、新しい価値観を共有する可能性を感じさせてくれます。
林: こうした事例をお聞きすると、再生素材を使うことはもちろんですが、その哲学を持って新しいものをつくり出していくことも大事であると痛感します。たとえば建築の世界では、三菱一号館美術館のように基本設計は明治時代のものながら、最新の技術を駆使した建築物ができて話題を呼びました。このように古いものを尊重しながら新たな発想に基づいて技術を使ったり製品を生産したりすることで、経済が回り、未来につながっていくのだと思います。
一方で、つくる側や供給する側の意識改革がやや遅れているように感じますね。家庭ごみの分別の徹底を呼びかけて20年程経ちますが、こうした施策の効果もあってか、若い方々を中心に、再生素材に対するネガティブなイメージはほとんどなくなってきていると思います。むしろ、つくり手の側に「再生製品はまだ売れない」という先入観が根強く残っているのではないでしょうか。
宮武: それは少なからずあると思います。また、企業の成長には新しい製品の提供が不可欠、という発想を前提にしている以上、3Rに力を入れましょうと声を大にしても、受け入れ側のマインドが整っていない場面も少なくありません。それでも、資源の制約が世界的に問題となっている現代、資源循環をはじめとする環境への取り組みの重要性について、きちんと話し合える企業文化を育てていくことが大切ですので、社の内外で発信するようにしています。
衣料品やオフィス機器などの分野では、サプライチェーンの全行程を通じて3Rが進みつつある。不動産業の取り組みはこれからだ。ここで欠かせない視点は、地域内に蓄積されたさまざまなストックの潜在的な価値を引き出し、リユースやリサイクルを促進するのが、3Rの取り組みや素材にまつわるストーリーの「見える化」だ。
土谷: 衣服の分野では、パタゴニアや無印良品のように、店頭はもちろんサプライチェーン全体で3Rに対する取り組みを行っている企業が増えています。一方、不動産業の取り組みはこれからです。現在、統一した価値観に基づいて都市を再生する「ブロックリノベーション」が各地で進められていますが、都市全体をつくり直してしまうのではなく、残すべきものとつくり直すものを選んで組み合わせることが必要だと思います。
益田: オフィス機器では、リコーなどはコピー機やプリンターに再生部品を多く使っています。また、リユースやリサイクルに伴う環境負荷も大幅に削減しているそうです、こうしたリサイクル対応設計もエコデザインの一環であり、知恵を絞れば限られた資源を循環させることができます。イマジネーションをはたらかせることで原料の調達コストが下がり、利益が上がるとわかれば、取り組む企業は増えるでしょう。
林: 環境に配慮した製品を積極的に購入促進する制度としてグリーン購入法がありますが、このグリーン購入法の対象にならない、言わば、まだ再生素材の活用が一般的に行われていない分野でも積極的に再生素材を製品に活用する動きが出てきています。その一つがパナソニックで、業界では初めてだと思いますが、再生プラスチックを家電の外装材として活用した製品の限定販売を開始します。
ただ、こうした取り組みを一事業者の取組に終わらせないことが重要です。その意味で、益田さんが先ほどおっしゃっていた、エリアを限定した資源循環には、かなりの可能性があると感じます。法律上クリアしなければならないことは多々ありますが、企業と自治体が連携して、地域で資源の回収拠点を設置し、資源循環させることは、取り組みの「見える化」に効果的だと思います。
宮武: 回収拠点が目につくところにあるのは大きいと思います。ニューヨークでは、救世軍が不要な衣服を引き取りきれいにして再販する活動を行っていますが、その受け皿として地下鉄の駅などに回収ボックスを設置したところ、地域全体の回収率が上がったそうです。このように、再生資源の入口をつくるとともに、どのような姿に生まれ変わり、使われるかという出口を見せることが大切です。
益田: リサイクル素材でつくられた製品でも、それにまつわるストーリーがあると消費者が興味をもち、使ってくれるようになります。インダストリアルデザインの分野では、多くのデザイナーが1980年代からリサイクルの重要性に気づき、リサイクル素材によりデザイン性の高い製品をつくってきました。1990年代になって、形だけでなく素材そのものに意味があるということが再認識されるようになりました。
しかし、今の日本では、製品の価値が素材そのものの価値から離れてしまっています。100年ほど前までは、使う人がこれは柘植(つげ)のくしだとか、檜の家具だというように、素材のことを理解していました。それがいつのまにか日用品の多くが樹脂や金属でつくられるようになり、消費者が素材に対して無頓着になってしまったのです。でも、銅製の食器には銅ならではの手ざわりがありますし、和紙の表面には原料であるこうぞやみつまたなど植物の繊維が息づいています。
宮武: ストーリー性は大事ですね。これは、イギリスの国営郵便会社であるロイヤル・メールで使われていた合羽の素材をリサイクルした原料でつくられたバッグです。「ポリエステルをリサイクルしてできたバッグ」と言うより、「激しい郵便業務に耐えてきた制服がバッグに生まれ変わった」というストーリーのあるほうが、消費者に訴えかける力が格段に強くなります。
とはいえ、自分たちだけでストーリーをもつリサイクル製品をつくることはできないので、3*3ラボのような場で皆さんのお知恵を拝借しながら、消費者の気持ちをくみ取っていければと思います。
土谷: リユースの場合、製品にストーリーを与えるのに欠かせないのが手間をかけることです。かつてのように成長を前提としたものづくりやサービスの提供ができなくなり、資源も乏しくなっているいま、大量に供給されたものを大量に消費してきた社会のあり方を変える必要があります。生産できる量は少なくても、手間のかかった良質なリユース製品を生産することでストーリーが生まれ、新たな価値の創造につながります。ただ、リサイクルの場合は分子レベルに戻して原料にしてしまうこともあり、どんな使われ方をしてきたかというストーリーが見えにくく、そこをどう「見える化」するかがポイントです。
林: そういった意味では、再生素材を活用することによるCO2の削減効果をきちんと理解することも「素材を理解する」ことにつながると思います。PETボトルからPETボトルをつくるという動きが飲料メーカーの間で始まってきましたが、再生PET樹脂を100%使った商品は、資源を国内でほぼ無限に循環利用できることに加え、CO2排出量もバージンと比べて50%も削減できるという特徴があります。まさに、再生素材は地球に優しい素材なのです。
まだまだ量産ができず、なかにはややコストの高いものもありますが、そうした再生素材の持つ「すばらしさ」が浸透していけば、そうした問題もいずれ解決していくものと思っています。
益田: 3Rに関しては、誰に向けて、どのように発信していくかが重要だと思います。3*3ラボのメンバー一人ひとりがスポークスマンとなって、さまざまなメディアに働きかけていくのが効果的です。
大丸有エリアで3Rを実現するためにも、3*3ラボのような場により多くの人が立場を越えて集まってほしい。どんな人に参加してもらい、どのような役割を求めていけばよいのか。 また、より開かれた場に育てていくための方策とは。
土谷: 大丸有エリアで3Rを実現するためには、もっと多様な意見の人が集まることが必要です。3*3ラボのようなサードプレイスに産廃処理業者や解体業者にも加わってもらい、「分解者」としての意見を提供してほしいですね。かれらこそ3Rのスーパーエリートの一員なのですから。
益田: 住民は当事者ではあるけれども、直接の利害関係者ではない場合がほとんどです。一方、処理業者や回収業者などの静脈産業は、3R関連の事業で利益を得るわけです。むしろそうした人たちにスポットライトを当てて、いままで見えてこなかった部分を「見える化」すれば、静脈産業と動脈産業が肩を並べる時代が来ると思います。
宮武: アメリカでは、役所と環境関係のミーティングをする際に処理業者などが同席して、話し合いの内容が現実的かどうかについて意見を求められていました。日本でももっと表に出てきてほしいものです。
林: メーカーなど産廃の排出事業者と、処理業者のそれぞれが高い技術をもっていますが、お互いに知らないがゆえに活用されていない技術やノウハウはたくさんあります。地域の中で両者が意見交換する場ができれば、可能性の幅は広がるでしょう。環境省では2011年4月に、優良な産廃処理業者を都道府県や政令市が審査して認定する制度を始めました。今後は、そうした優良な産廃処理業者と排出事業者によるコンソーシアムの設置などを通じた支援も行っていく予定です。
土谷: 3*3ラボではこれまでにも公開セミナーなどを行っていますが、今日のお話を通じて、もっといろいろな人が気軽に参加できる場にしていくことが重要であると実感しました。大丸有には広場など多くのオープンスペースがあるので、「まち」に向かって開かれたスペースに育てていきたいと思います。
林: 3Rの推進には既存の枠にとらわれない新しい価値観が欠かせませんが、国が政策をつくり動かしていくには、それが本当に効果を上げられるのか実証する必要があります。このエリアに限定して資源循環に取り組むなど、地域だからこそできることがあると思いますので、ぜひ、環境省としても協力していきたいです。
宮武: 大丸有の中でポリエステルのケミカルリサイクルを進めるために、ペットボトルの回収ボックスを設置する企画を検討しています。まずは第一号を設置して結果を出して、それに続くアクションにつなげていきたいと考えています。
益田: 大丸有における資源循環の仕組みを考えるにあたって、ここを100年単位のスパンでどのような地域にしたいかという長期的なビジョンを立てて、3Rを前提とした都市づくりをしていくことが必要です。その中に製品のリユースや素材のリサイクルなどを組み込むことで、大丸有ならではの取り組みが可能になるのではないでしょうか。
大丸有という限定されたエリアにおける3Rの可能性を話し合ううちに、資源循環について都市が抱える課題が浮かび上がった。その解決にはより多くの関係者の知恵を結集して、アクションに結びつけていく必要があることもわかった。サードプレイスである3*3ラボにはその受け皿になるとともに、この地域における廃棄物処理の実態を調査するなど、シンクタンクとしての機能を果たすことが求められてくるだろう。