(日本郵船、鹿島建設、大林組、清水建設、戸田建設、竹中工務店、大成建設、JR東日本、東京ガス、NTT、ニッポン放送、三菱電機、シャープ、日本政策投資銀行、農林中央金庫、プロミス、大和証券、パナソニック、イトーキ、東京交通会館、トーイズ、三菱地所、日本製紙、丸紅、日本郵政、JXホールディングス、全国農業協同組合連合会、資生堂)
2011年3月11日に発生した東日本大震災は、世界最大級のマグニュード9.0という激甚な地震に加えて、その引き起こした大津波による人的・物的被害は未曾有のものとなり、日本の社会と経済に大きな打撃を与えた。しかし、この試練に対して官民さまざまな主体による支援の輪が広がっており、復興を進めていく上で大きな役割を果たしている。大丸有に立地する企業やエコッツェリア協会の会員企業等による本業を生かした支援の取り組みをレポートする。
2011年3月27日、青森県の八戸港に一隻の大型貨物船が到着した。船の名は「YAMATAI」。プラント設備などの重量貨物を輸送するために建造された「モジュール船」と呼ばれる船で、日本郵船の100%子会社である日之出郵船が所有している。今回「YAMATAI」が積んできたのは、東日本大震災(以下「震災」)による被災地向けの食料品や乳児用品、衛生用品など約146t分の救援物資だ。震災発生を受けて日本郵船は「YAMATAI」の被災地支援活動への投入を決定し、すぐに韓国から日本に呼び寄せた。
同社は(社)日本経済団体連合会(経団連)を通じて被災地自治体と救援物資の受け入れなどについて協議し、経団連とともに「救援物資ホットライン便」を立ち上げた。経団連が1%(ワンパーセント)クラブとも連携して会員企業やウェブサイトにより救援物資の提供を呼びかけるとともに、日本郵船グループ各社にも物資の提供・手配を依頼して救援物資の受付を開始したところ、たちどころに多くの物資が集まった。
こうして多くの企業や団体から提供された救援物資は20フィートコンテナにして約24本分にもなり、「YAMATAI」に積み込まれて神戸港を出港。八戸港到着後、船上でコンテナからトラックに積み替えられて陸揚げされ、翌28日中に青森、岩手、宮城各県の被災地へと届けられた。27日の入港セレモニーには、青森県の三村申吾知事や県関係者、船長以下乗組員らが出席。同県の担当者は、「食料品や日用品などの供給が滞るなかとてもありがたく、勇気づけられました」と振り返る。
一方、同社の社員からも「私たちはメーカーと違って自社の製品を提供することはできませんが、『モノを運ぶ』という本業によって被災地のお役に立つことができて大変にうれしく思っています」という声が上がっている。同社では今後も、海外からの被災地向け支援物資の輸送協力や、日本郵船氷川丸でのチャリティー蚤の市(6月4日)開催などの活動を行う。
今、このような本業を生かした被災地支援に多くの企業が取り組んでいる。まず急がれたのが被災地でのインフラ復旧。ゼネコン各社は震災発生すぐに対策本部を立ち上げるなどして、現地取引先からの支援要請に応えることはもちろん、被災地でのプレハブ建設や救援物資の輸送など建設土木分野ならではの支援を行っている。
鹿島建設は、インフラなどの構造物や取引先の建物の被災度調査と応急対策、そして復旧復興支援などを行っている。震災翌日に支援物資を積載したトラック4台を被災地へ送り出したのを皮切りに、震災発生後2週間で約200台のトラックなどで飲料水、食料、日用品、燃料、資機材などの支援物資を届けた。また、国や自治体と災害協定を結んでいる業界団体を通じて、テントやブルーシート、仮設トイレの資機材や食料品などを、被災者や自治体などへ提供した。現地へ派遣した社員の数は延べ3,700名を超え、同社東北支店の社員とともに復旧復興対応に従事。同社が請け負った新幹線や高速道路などの復旧作業は終わったものの、生産工場などでは生産再開に向けた作業を続けている。
大林組は、テレビ会議システムによる各店との通信を開始。建物診断状況の確認や資機材の配送計画、現地の必要物資の確認などを進め、宮城県南三陸町での仮設トイレの設置をはじめとするその後の支援につながる体制づくりを早くから行った。清水建設は、「震災対策要綱」に基づき支援物資や資機材の輸送、被災建造物の診断調査、応急復旧・復旧対策工事などの活動を実施し、4月1日に「東日本大震災復旧対策室」を設置して全国的な支援体制を整えた。また、被災建造物の診断調査について3月31日までに、同社の施工建造物を中心に約5400件の初動調査を実施した。
戸田建設も本社に災害対策統括本部を立ち上げ、取引先を中心とする被災状況の調査や、ダンボールシェルターの輸送などを行った。竹中工務店は名古屋と大阪から東北支店災害対策本部に支援要員を派遣していたが、4月1日以降は東北支店を増強して災害対策体制から復旧対応体制へのシフトを図っている。大成建設など他のゼネコンも同様に復旧支援へと軸足を移しつつある。
ゼネコン以外では、JR東日本が震災で破壊された駅舎やホーム、電柱・送電線などの修復に全力をあげ、ゴールデンウイーク初日の4月29日に東北新幹線の全面復旧にこぎつけた。また、東京ガスは管内の一部地域でガスの供給を停止していたが、倒壊した家屋などを除くほとんどすべての顧客への供給を、震災発生後約1週間で可能にした。
震災により破壊、分断されたインフラは道路や鉄道だけではない。電話やインターネットなどの通信システムも使えなくなった。NTTグループでは、NTT東日本が避難所へのインターネット回線無償提供や仮設住宅への電話無償設置などに力を入れ、5月6日までに一部エリアを除き加入電話、ISDN、フレッツ光に関するすべての通信ビルの機能を回復した。また、NTTコミュニケーションズが公衆無線LANサービスやクラウド型ホスティングなどの無償提供を、NTTデータが被災地域の学校と家庭を結ぶITシステムの提供を行っている。通信系企業によるこうした対応を受けて、総務省による「全国避難者情報システム」も始まった。
また、ニッポン放送は文化放送とともに、「被災地へラジオを送ろうキャンペーン」を実施。震災以来、国内で極端な品薄状態になっている携帯ラジオを1,000台、三井物産などの協力を得て台湾から緊急輸入し、NGO/NPOの力を借りて被災地へ届ける。官邸からの情報がラジオ番組「震災情報ー官邸発」で毎日放送されていることからもわかるように、被災者にとってラジオは重要な情報源であり、効果的な支援といえる。関連する情報は、ニッポン放送 東日本大震災 災害関連情報のページで見ることができる。
一方、震災による被災地では病院や診療所、薬局などの医療機関も大きな被害を受けた。三菱電機は被災した薬局の調剤業務復興を支援するために、保険薬局向けソフトウエア「調剤Melphin(メルフィン)」をはじめとする保険薬局システムの無償提供を行っている。「調剤Melphin」は、処方せんの入力や領収書発行などの薬局業務を支援するソフトで、薬の相互作用チェックなども行うことができる。今年9月30日まで申し込みを受け付け、提供期間は来年3月31日まで。事業が軌道に乗ってからも返却は不要だ。これはまさに被災地のニーズに合った支援で、同社へ感謝状を贈呈した薬局もあるという。
さて、被災地で滞っているのが電力供給。電気製品やインターネットの使用はおろか、携帯電話の充電もままならない。このニーズに応えるため、電機大手のシャープは電気機器の製造・販売を手がける新神戸電機と共同で、被災地向けの独立型ソーラー発電システムを開発した。電源確保に困っている緊急避難場所などで活用してもらおうと、250セットを被災地へ寄贈した。
今回の震災では、多くの人が家や財産などを失った。こうしたなか、いち早く対応したのが金融・保険業界だ。日本政策投資銀行(DBJ)は、震災発生直後に本店・支店計17カ所の緊急相談窓口を開設するとともに、危機対応融資を開始した。また、4月21日に東北支店と関連する本店部署から成る「東北復興支援室」を設置。震災復旧・復興に関する情報提供や、関係する国の機関・自治体・経済団体・地域金融機関などとの連携に関する業務を行っている。
日本政策投資銀行(DBJ)
また、農林中央金庫は農林水産業の復興を支援するための「復興支援プログラム」を創設した。商工組合中央金庫も、特別窓口の開設や中小企業向け支援策の拡充などを実施している。このほかにも、三井住友銀行、三菱東京UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行、住友信託銀行などの各行が、災害復旧支援資金を取り扱うなどして被災した個人や法人への支援に力を入れており、住友信託は義援金受付口座を開設した。
一方、朝日生命、日本生命、三井生命、明治安田生命、第一生命、AIU保険、東京海上日動火災保険などの生損保各社が、被災者への特別取扱や相談受付などを行っている。さらに、消費者金融のプロミスが被災者への1年間無利子の「応援融資」枠を設定したり、大和証券などの証券各社が被災した顧客への便宜措置を講じたりするなど、きめ細やかな対応が行われている。
物資の面でもさまざまな支援が行われている。パナソニック電工を含めたパナソニックグループは、震災発生直後に義援金として3億円を贈るとともに、ラジオ1万台と懐中電灯1万個、乾電池50万個からなる支援物資を贈呈すると発表した。また、オフィス家具大手のイトーキも、義援金と家具・ランドセルなどの支援物資など合わせて2億円相当の支援を行うと発表した。
変わり種は、5月3日から9日まで行われた「おもちゃで元気を!」。東京交通会館と、北原照久氏が代表を務める(株)トーイズが主催し、東京都交通局と三菱地所の共催を得て行われたこの催しは、被災地の子どもたちを応援するチャリティイベントだ。三菱地所グループは復興支援活動プロジェクト「元気! FOR JAPAN」の一環として、同イベントをはじめとしたさまざまな取り組みを進めている。
このほかにも、日本製紙がティッシュペーパーやトイレットペーパー、マスク、子ども用紙おむつなどの生活必需品を、大手商社の丸紅が2L入りミネラルウォーター5,100本と無菌パックごはん1,000個などを、それぞれ現地へ届けた。またKDDI、東宝、サンケイビル、三越伊勢丹グループ、朝日新聞、読売新聞、ティップネスなど多くの企業が、店舗などで義援金を受け付けている。日本郵政グループは、社員有志による日本郵政募金会の活動である「黄色いポスト募金」を支援するため、全国の郵便局など約2万4,000の店舗に震災被災者支援の募金箱を設置し、4月末に第一次配分を行った。
今回の震災では地震や津波だけでなく、原子力発電所の損傷とそれに伴う風評被害など、これまでにない被害が生じている。JXホールディングスは東北・関東地方の農家を支援するために、原発事故に伴う風評被害を受けた地域産の野菜を使用したメニューをJXグループ本社ビルの社員食堂で提供している。また、全国農業協同組合連合会(全農)から農産物の提供を受けて同ビル内で社員向けに販売している。農産物は全品買取りで、購入代金の支払いや販売はすべて現金。社員が毎週交代で販売員を務める。「自ら農産物を販売することにより、他人事ではないということを実感し、会社での販売会以外でも被災地の農産物を積極的に購入するようになりました」(JXホールディングス総務部談)。
自社も仙台製油所をはじめとする石油製品供給インフラに打撃を受けた同社が被災地支援に力を入れるのは、JXグループ行動指針「EARTH〜5つの価値観」の一つである「社会との共生」に基づき、風評被害を受けている農家を支援しようと考えたからだという。同社では今後も中核3社と連携して、こうした取り組みを続けていく方針だ。
物やお金ではなく、メンタル面での支えも求められている。[[丸の内朝大学]]は5月3・4の両日、被災地のメンタルケアを目的とした特別出張講座「心と体を整えるヴォイストレーニング」を仙台市で開催した。また、化粧品大手の資生堂の販売会社である資生堂販売東北支社は、避難所の要望に応じてビューティーコンサルタントが無料で化粧サービスを実施する「ビューティーボランティア活動」を福島、仙台、盛岡で展開している。女性だけでなく男性や子どもにもハンドマッサージやドライシャンプーの実習を行うなど、化粧品会社ならではの支援だ。
企業などによる復興支援は次の段階へと着実に進みつつあるが、課題もある。被災地へ救援物資を届けたある企業の担当者は、刻々と変化するニーズを把握するために現地との情報共有が必要であると話す。被災地のニーズに合った支援をタイムリーに、本業を生かして行うことが企業に求められている。
また、1社では取り組めない活動も、連携して実施する等の選択肢もあり、企業連携を進める、[[丸の内地球環境倶楽部]]の活動にも、期待したい。
東日本大震災の被災地に向けたさまざまな支援を総覧してみて、多くの企業がSR(社会的責任)を果たそうと奮闘している現状が見えてきた。一方、被災地では災害廃棄物処理などの難題が山積みで、被災者の生活再建や災害に強いまちづくりを阻んでいる。電力不足も深刻な問題だ。企業の取り組みを後押しするためにも、復興支援の枠組みが早急に示される必要がある。