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食事の場だけではもったいない!社食で健康とコミュニケーション向上を(エックス都市研究所、リクルート、パソナグループ、丸の内ハウス)

※本レポートは、2011年3月に取材を行い、2011年4月25日に公開した記事の再掲載です。
食事は健康を支えるだけでなく、仲間とともにすることで関係を深める大切な時間。しかし、私たちは忙しさの中で食事を軽んじがちだ。大手町・丸の内・有楽町地区では、社員食堂(社食)を通じた食をめぐる新しい動きがある。働く人の健康の増進、コミュニケーションの活性化、農家の応援などを目指すものだ。ユニークな活動をするリクルート、パソナグループなどの社食の姿を紹介しながら、社食の未来像を考えてみたい。

1. 東京の真ん中のランチ事情

■「社食があったら」―意外と少ない大丸有の社食

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ランチタイムどきの大丸有の一画。ホットデリの屋台を利用する人も多い。

「今日のランチはどうしようか」。程度の差こそあれ、会社員の誰もが毎日考える問題だ。最近では、メディアで社員食堂がとり上げられることも増えてきている。『体脂肪計タニタの社員食堂‐500kcalのまんぷく定食』(大和書房)が大ベストセラーに、NHKのバラエティ番組『サラリーマンNEO』では「世界の社食から」というコーナーが人気になっている。

大丸有ワーカーのランチ事情は、どうなっているのだろうか? 大丸有の環境共生型まちづくりに貢献する事業を推進・支援しているエコッツェリア協会でコンシェルジュを務める伊藤早奈美さんと三井祐実さんの二人は「昼食は買うことが多い」。1割が外食、2割が手づくりのお弁当、7割ぐらいが購入したランチをオフィスで食べるという。お昼の休憩時間中にも見学者が訪れることもあるため、移動にも時間がかかる外食はしにくい。そんなこともあり、近くでお弁当を買い、オフィスで簡単にすませてしまうことが多いという。「買ってきたランチは、栄養バランスに気をつけてはいても、偏ってしまいがちです。健康に留意したメニューで、同僚との会話を楽しみながら食事ができる社食があれば、ぜひ利用したいです」。

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エコッツエェリア協会でコンシェルジュを務める伊藤早奈美さん(左)と三井祐実さん

『持続可能なまちづくり』への課題について食の分野から読み解く調査研究を手がけた、エックス都市研究所(東京・豊島区)は、大丸有エリア内企業の社員食堂に関する調査を2009年から実施していた。この調査によれば、23万人が働く大丸有には、確認できただけで30社ほどの企業は社食を運営していたが、事業者数が約4,000という大丸有地区の大半の企業には社食がないというのが実情だ。

また、社食を運営している企業の多くは、低価格で大量に食事を提供することを目的にしており、社員の健康増進などの新しい役割を持たせようという発想を持つところは少ないようだ。エックス都市研究所で調査を担当した山田芳幸さんは「社食には工夫の余地があるし、これから新しい動きが起こってくるのではないでしょうか」と、その可能性に期待を寄せている。

■7,000人のコミュニケーションの場に ― リクルート

楽天やグーグルなどが無料でバラエティに富んだメニューの社食で注目を集めているが、大丸有にも社食を「ただ単に食事をとるだけの場」から変えていこうとする試みがある。
リクルートは2008年1月、東京駅に隣接する「グラントウキョウサウスタワー」の23階から41階に移転した。現在はグループ含め約7,000人が働いている。

「昼時のエレベーターでの混雑を避けることと、社員コミュニケーションの場を設けることが社内ダイニングの設置理由です」。リクルート総務部の山上菜緒さんは話す。「リクルートには『タテ・ヨコ・ナナメのコミュニケーション』というキャッチフレーズがあります。タテは先輩後輩や上司部下、ヨコは部門間や同世代を指します。そして、ナナメは組織横断での意思疎通を密接にして、社内全体を活性化していこうという発想です」。

社内ダイニングは4つある。一番大きいのはダイニングの「空箱」(そらばこ・199席)で最上階の41階にある。このほか、そば・うどんの「侍」(さむらい・30席、立食台6台)、カフェ形式の「harema」(ハレマ・38席)、和食の「ほこらん」(51席)があり、1日に約1,300食が提供されている。運営は総務部が社員の意見を集めながら行っている。

それぞれの店名は社内公募によるもので、それによって社員の参加意識を高めた。たとえば「空箱」は何もない空間から自分たちで何かをつくり出す、また空に近い場所からイメージした。「侍」は和食であることと、そばを腹にかきこんで、ビジネスという戦に飛び込んでいくイメージから名づけられた。

shashoku_03.jpgリクルートの社内ダイニング)左から「空箱」「harema」「侍」
右)社食の混雑状況を映すモニターが各フロアに設置されている

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2. 社員が集い、楽しむ場をつくる

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