ではつぎに、総合特区制度について、具体的に説明したいと思います。
総合特区制度の狙いは、「必然性」と「本気度」があり、実現可能性の高い地域に、国と地域の政策資源を集中させるというものです。裏を返せば、過去のさまざまな地域活性化政策が予算のばらまきになってしまっていたという反省を踏まえ、選択と集中によって、地域の包括的・戦略的なチャレンジを総合的に支援する試みです。これは、たんに補助金をつけるという話ではなく、規制・制度の特例、税制・財政・金融措置まで含めて、フルパッケージで、しかもオーダーメードで支援することを意味しています。さらに、一度指定したら終わりではなくて、総合特区ごとに設置される「国と地方の協議会」において、国と地域の協働プロジェクトとして推進する制度をつくっていきます。
そうしたなかで現在、二つの特区のパターンが検討されています。一つ目は、「国際戦略総合特区」。これは、我が国の経済成長のエンジンとなるような産業や施策の集積拠点です。二つ目は、「地域活性化総合特区」。地域資源を最大限活用した地域活性化の持続的なモデルとして位置づけています。
ちなみに、従来の構造改革特区と総合特区とどう違うのか、という疑問があろうかと思います。たとえば、どぶろく特区に代表されるように、構造改革特区は、「主として個別の規制の特別措置を対象。税制・財政・金融措置は対象としない」というもので、一度認められると、全国に展開することができました。一方、総合特区では、「地域の責任ある戦略を前提として、複数の規制の特別措置に加え、税制・財政・金融上の支援措置等を総合的に実施」するものであり、これが認められるのは、厳しい要件を満たす地域に限定されます。また、前者では、提案者から提出された規制改革について、関係各省が上から目線で個別に回答していましたが、後者では、「国と地方の協議会」において、国と地域が一体となって推進方策を議論します。したがって、提案された規制改革が難しい場合は、その代替案をともにつくるという方向で進めていきます。かなりユニークな規制改革が設けられることになるでしょう。
じつは、この総合特区制度の制度設計に先立ち、地域のニーズを踏まえた制度とするため、昨年7月から9月にかけて、アイディア募集を実施しました。その結果、のべ278団体計450件のご提案をいただきました。このうち、優先的に検討すべき規制・制度改革を抽出し、各省と調整し、そのうちの10項目が、法律で直接規定されている項目の規制緩和措置として織り込まれています。ちなみに、寄せられた提案のテーマの多くは、新成長戦略の重要な柱である「グリーン・イノベーション」「ライフ・イノベーション」に加え、「アジア経済戦略」「観光立国・地域活性化戦略」などとなっています。
事業のイメージ例として、国際戦略総合特区では、たとえば医療関連産業の国際競争拠点の形成を掲げています。これは最先端の医療技術、研究開発能力、医療関係人材の質の高さなど、我が国の強みをフルに活かし、革新的な医薬品・医療機器・先端医療を創出するための拠点を整備し、世界に負けないような拠点づくりを目指すというものです。具体的には、新薬や医療機器承認の遅延の抜本的な解消や、革新的な医薬品、医療機器、先端医療を創出するために、工業地域等における治験専用病院の立地規制緩和、臨床研究を迅速に実施するための特例措置(手続きの簡素化)、治験にかかわる病床規制特例などを検討しています。
一方で、地域活性化総合特区のイメージ例としては、森林・林業の再生や地域エネルギーの活用による中山間地域の再生を掲げています。これは、森林・林業の再生を図るとともに、木質バイオマスの利用促進や木造建築の推進などにより、持続可能な地域づくりを目指すというもの。なかでも、大震災や原発事故を受けて、今後ますます自然エネルギーの活用が求められることから、地域にあるエネルギー・資源を徹底的に活用しようということで、小水力発電の設置にともなう水利権許可手続きの簡素化・迅速化、ダム水路主任技術者選定の緩和、太陽光発電設置等にかかわる建築基準確認申請の不要化など、さまざまな手続きの簡素化を検討しています。
なお、これらの総合特区に指定されるための要件としては、(1)包括的・戦略的な政策課題の設定と解決策の提示があること、(2)成長分野の活性化や地域の活性化といった目的に対し、有効で、我が国の成長に資する新しい分野を切り拓くなど先駆的な取り組みであり、一定の熟度を有すること、(3)地域資源等を活用した取り組みの「必然性」があること、(4)今後の地域活性化を進める上で有効な国の規制・制度緩和の提案があること、(5)地域の「本気度」を示す責任ある関与があること、(6)運営母体が明確であること、という6項目を挙げています。すなわち、地域自ら規制緩和の提案を行うなど、自助努力や主体性、責任の明確化などが求められるわけです。
それから、さきほど少し触れましたが、従来通り、法律で直接規制されてきた項目については、総合特区法によって措置します。たとえば、通訳案内士以外の者による有償ガイドの特例や工場立地にかかわる緑地規制の特例、小水力発電の許可手続きの簡略化など、総合特区法案に10項目の法律改正を盛り込んでいます。また、政省令で規定している規制については、より柔軟に対応すべく、すべて総合特区法施行令・施行規則で改変していくことができるようにしているほか、地方公共団体事務に関して政省令で規定する事項について、総合特区法施行令または施行規制で定めるものについては、特別措置を条例で定めることができるという、かなり大胆な内容も盛り込んでいます。
さらに税制についても、特別な措置を講じています。国際戦略総合特区では、たとえば、総合特区内で当該特区の戦略に合致する事業の用に供する機械、建物等を取得して、その事業の用に供した場合は、特別償却の場合は取得価格の50%を、税制控除の場合は取得価格の15%を通常の償却の上に加えることができます。また、所得控除であれば、20%を課税所得から控除できます。
一方、地域活性化総合特区では、社会的課題解決に資する事業(ソーシャルビジネス等)を行う中小企業に個人が出資した場合、個人の投資した年分の総所得金額から一定額を控除できる制度を創設。これはエンジェル税制(ベンチャー企業投資促進税制)を大幅に拡充したもので、総合特区の指定3年以内の企業を対象に、その企業がたとえ黒字であっても、それに対して行った(個人の出資金?2000円)分の金額について所得控除が認められるというものです。もちろん細かい条件はついていますが、他の制度には見られない大胆な税制改革といえるでしょう。
さらに、これらの措置でカバーできないものについては、総合特区推進調整費として151億円が、総合特区支援利子補給金として1.5億円の予算がついています。支援額の上限は、国際戦略総合特区は20億円、地域活性化総合特区は5億円ですが、ハード、ソフト両面において柔軟に対応できる仕組みになってします。 この総合特区については、現在、衆議院の審議を経て参議院の審議に入るところで、通常国会中の法案成立を目指しています。スムーズにいけば、今秋には、総合特区の指定が始まることになるでしょう。