過去のレポートどうする大丸有?! 都市ECOみらい会議

これからの都市観光に求められるモノ、コト(野城智也氏、安島博幸氏)

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1. 「日本一」「世界一」が重要な理由

政府の新成長戦略において「観光」が重要なテーマに位置づけられているように、環境、健康と並んで、観光は未来の都市において欠かせない要件の一つである。大丸有地区では、これまでも[[東京駅復元]]や[[三菱一号館美術館]]に代表されるような歴史的建造物の保存・再生・活用や、東京国際フォーラムを舞台としたクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」、グラスファイバー製の牛にペイントを施したパブリックアート「カウパレード」(2003年、06年、08年に開催)、まちを華やかに彩るイルミネーション「東京ミレナリオ」(1999年〜2005年)など、観光客を呼び込むためのさまざまな仕掛けやイベントを展開してきた。 出光美術館や三菱一号館美術館など、アートの拠点も増えた。今後はさらに、来街者だけでなく、まちに住み・働くさまざまなステークホルダーが、継続的に観光を通してまちにコミットし、楽しみ、そして誇りをもてるまちづくりを目指すべきだろう。
これからの[[都市観光]]に求められるのは何か―新しい都市観光の可能性を、ハード、ソフトの両面から探る。

1. 「日本一」「世界一」が重要な理由
―他の地域にはない"特異点"こそ、まちの観光資源に

野城: まず、都市と観光のかかわりについて、総論的なお話をお聞かせください。
都市の観光資源としては、建築や街並み、街路、ランドスケープ、集客施設、交通などに加え、そのまちに積み重ねられてきた歴史、人を呼び込むためのコンセプト、イベント、ガイド機能など、ハード/ソフト両面において、さまざまなものがありますね。

安島: そうですね。その前提として、近年、観光の捉え方というのが、大きく変わりつつあることを認識する必要があります。最近よく、「観光まちづくり」という言葉が使われるようになってきましたが、いまや観光地づくりとまちづくりはイコールと言えます。しかも、たとえば東京駅がそうであるように、観光のためにつくられたものが観光資源になる、というわけではありません。大丸有の場合も、何が観光資源の核かと言えば、この地が世界有数のビジネス街であるということに尽きるでしょう。日本の玄関口であり、皇居があり、日本の本社機能が集積している、そういう大丸有特有のまちの成り立ちが人々を惹きつけているのです。それこそがまちの価値であり、観光資源になるということ。つまり、都市観光を考えるうえで大切なのは、どういう見方でその都市を捉えるのか、どういう意味をそのまちに与えるのか、ということではないでしょうか。

野城: 大丸有にはビジネス街としての歴史はありますが、丸ビルや新丸ビルが建て替えられる以前は、休日になると、まるでエアポケットのように静かで、都心とは思えないほど閑散としていました。しかしここ十数年のまちづくりで大きく変貌を遂げました。

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安島: レストランやショップなどの複合機能の充実により、働く人にとって魅力的なまちになりましたね。その変化が、働く人だけでなく、来街者にとっても魅力となっている。まさに観光まちづくりの成果だと思います。
ちなみに私は蔵造りの街並みで有名な川越市に長く住んでいるのですが、かつては、川越がこれほどの観光地になるとは夢にも思いませんでした。観光地となったきっかけは、1970年代に蔵造りの街並みの観光的価値が発見されたからです。現在では年間に何百万もの人が訪れるようになり、レストランやショップも増えました。それらが観光客を惹きつけるだけでなく、まちの住人の暮らしを豊かにしています。いまや川越は、埼玉県の住みたいまちランキングで1位を獲得するほどなんですよ。まさに観光まちづくりの成果と言えるでしょう。もっとも住民である私から言わせると、まだ道半ばではありますが。

野城: ただアメニティを高めればいい、というだけではなさそうですね。川越の蔵造りの街並みのように、そこにしかない個性があってこそ、ということでしょうか。

安島: そうです。観光というのは、そこにしかないものを、わざわざ時間とお金を使って見に行く、体験しに行くものなので、それだけの価値がなければ、人を惹きつけることはできません。わざわざ人が見にくる価値があるからこそ、住んでいる人の誇りや愛着を醸成することに繋がる。愛着があれば、住人がまちづくりに参加するようにもなる。よそからもってきた観光資源だけでは、瞬間的には耳目を集めても長続きはしません。長い時間をかけて積み上げてきたものを地域の人たちが磨いていくということが大切なんだと思います。

野城: 普段の日常では体験できないことができる、というのが観光の魅力の一つなんですね。
安島:そうです。普段とは違う体験をすると、旅の自慢話や土産話がしたくなる。土産話ができるかどうかというのは、そのまちの観光的な価値を決定づける重要なポイントと言えます。だからこそ、観光資源は「一番」でなくてはならない。世界一の高さを誇るスカイツリーとか、日本の玄関口といった具合に、何らかの側面で一番優れていなければ土産話にはならないからです。長い時間をかけてまちの価値を磨き上げるだけでなく、わざわざ時間をかけて人々が遠方から訪れるだけの価値のある優れたものを提示できるかどうか――。そこがブレてしまうと、観光まちづくりはうまくいかないと思います。

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2. 歴史的要素に加え、未来の都市の姿を提示

2. 歴史的要素に加え、未来の都市の姿を提示
―三菱一号館、大手町の森、大丸湯!?...etc.

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野城: 観光資源というのは、当然、建物や施設といったフィジカルなものだけでなく、イベントなど「コト」でもいいのでしょうか。打ち水イベントとかオープンスペースでのコンサートとか。

安島: はい。ただ、それらの観光資源が、そのまちのコンテクストの中に組み込まれていなければならないと思います。大丸有であれば、復元された明治安田生命ビルや三菱一号館などは、この地から日本のビジネス街が始まったことの証しです。それを実際に見て、体験できることに意味がある。まちというのは変わっていくものではありますが、歴史の痕跡が身近に感じられるというのはとても大切なことなのです。

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もちろんディズニーランドのように何もないところに新しい施設をつくって、大勢の観光客を集めるというのは、それはそれですごいことだと思います。ただ、よそから魅力ある何かをもってきたとしても、一般的に言えばなかなかうまくはいきません。まちのコンテクストの中で、そのまちにあるものをどう見せるか、というのが観光まちづくりの重要なポイントではないでしょうか。
一方、歴史に加えて、新しさ、進取性も必要です。歴史的な街並みに今の若い人たちの文化や感覚を取り入れたり、未来の憧れのまちを先取りして提示したり――。たとえば、未来の環境共生まちづくりを見せるというのも、現代社会のコンテクストに沿った観光まちづくりになり得るということです。

野城: 都市型エコツーリズムも可能ですね。

安島: 実験的な試みとして、世界有数のビジネス街におけるエコツーリズムというのは、とても興味深いと思います。最近では田舎に、都会にあるようなおしゃれな有機野菜のレストランやカフェができたりしていますが、その逆で、都会に自然や農地といった田舎的な要素をもってきて、人々がくつろげるような場を提供するのも面白いのではないでしょうか。

kanko_04.jpg「大手町の森」イメージ

野城: そういう意味では、現在、大手町1丁目で整備が進んでいる約3600平方メートルの「大手町の森」には大いに期待しています。これは従来の都市緑地とは違って、人工地盤の上に起伏をもたせたランドスケープを整備し、さまざまな地被類や低木を植栽するというもの。皇居や日比谷公園などの生物多様性にも貢献することを期待したいところです。

安島: それは楽しみですね。都市の中にどう緑を持ち込むかというのは、未来のオフィス街にとって重要なテーマの一つであり、挑戦です。

野城: そのほかに大丸有に求められる要素として、どんなものが考えられますか?

安島: 日本の玄関口としてのフォーマルな空間です。たとえば、東京駅から皇居に伸びる「行幸通り」が竣工しましたが、この通りは、パリでいえばシャンゼリゼ通りのような役割を担うものであり、国賓を出迎えたり、要人がパレードをしたりするのにふさわしい場所。日本の代表的なフォーマルな空間として、意味づけていくことが重要でしょう。

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もう一つは、先ほどの大手町の森に通じるのですが、いかにして、未来の豊かなビジネスライフを提示できるか、ということ。たとえば、仕事の合間にジョギングをしたり、自転車通勤をしたりする人が活用できるような施設も必要でしょう。先日、ある人に「大丸有をご存じですか?」と訊ねたら、「聞いたことはありませんが、それは温泉か何かですか?」と言われたのです(笑)。そこで閃いたのですが、中部国際空港「セントレア」に銭湯があるように、大丸有にも「大丸湯」という温泉をつくったらどうかと。森林浴ができる[[屋上緑化]]の中に露天風呂があったら、きっと人気になりますよ(笑)。

野城: それはいいアイディアですね! 確かに最近は、皇居の周りにおびただしい数の人がジョギングをしていますが、ジョガーたちが、コソコソとロッカールームで汗を拭いて仕事に戻るよりも、大丸湯のような施設でさっと汗を流して颯爽とスーツに着替えて仕事に戻っていけたらいいと思います。

安島: 本当に、いつの間にかジョギングをする人が増えましたね。都市計画に携わる人よりも、世の中の動きのほうが進んでいるのです。そういう新しいニーズに素早く応え、「大丸有で働いてみたいな」と思うような憧れをかたちにしていくことが求められているのだと思います。

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3. まちの格をあげるデザイン、まちを性格づける空間

3. まちの格をあげるデザイン、まちを性格づける空間
―通りを歩く歩行者目線で都市を考える

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kanko_07.jpg上)東京駅(改修前)、下)行幸通り

野城: 大丸有は、東京駅というセントラルステーションを擁していながら、オフィスや商業施設だけでなく、美術館や公園、皇居など、多様な機能をもっているわけですが、それらを観光資源としてより磨いていくには、どのような工夫をしていけばいいとお考えですか?

安島: 現在、[[東京駅復元]]工事が行われていますが、駅前広場、行幸通りを含めて、日本の玄関口としての「格」を上げるデザインを追求していく必要があると思います。 ちなみに、レストランガイドで有名なミシュランでは、観光資源の評価も行っているのですが、その中で東京都庁舎に三つ星の評価を与えているのです(そのほか、明治神宮、高尾山)。もちろん都庁も観光資源としてつくられたものではありませんが、まちのランドマークになるような大建造物というのは、観光資源になり得るということを念頭に置いて格のあるデザインを採用しなければならないんですね。[[都市観光]]というのは、すなわち文化観光ですから。

野城: なるほど、品格、ディグニティーといったものを大切にするということですね。
行幸通りは幅員が74mもありますが、現状はクルマが通るスペースが広いように思います。ポルトガル・リスボンのリベルダーデ大通りのように、歩行者がメインで歩けるような通りになるといいかと。行幸通りの先にある二重橋(そして桜田門)は、日本人にとって特別な意味をもつ場所。行幸通りで大丸有とつながることによって、東京駅から皇居まで、日本の歴史を感じながらそぞろ歩きができるようになるでしょう。

安島: 行幸通りが日本の玄関口であり、メインの通りだという共通認識が生まれることで、変わってくるはずです。ただ、ここはあくまでも日本の玄関口なので、安易にオープンカフェなどやらないほうがいい。それは仲通りで展開すればいいのです。
ちなみに、パリのシャンゼリゼ通りは、今から150年も前に、セーヌ県知事だったジョルジュ・オスマンが取り組んだフランス最大の都市改造で計画されたもので、パリの顔、都市軸として位置づけられ、整備されてきたものです。そういう意味では時間がかかるのは当然かもしれません。

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野城: 大丸有ではそれぞれの地区で雰囲気が違うのも、特徴の一つです。大手町は大手企業の本社が多くツンと澄ましたイメージですし、丸の内から有楽町に行くにつれ、カオス的な魅力が増して、移ろっていくという。

安島: まち歩きをして、時間の経過とともにまちの性格が変わっていくというのは、観光の醍醐味でもありますね。そのためには、まちの雰囲気、基調に合せたビルの足元のデザイン、低層階のデザインが重要になってくるのではないでしょうか。
ただし、まちの性格を決定づけるのも、まちづくりをするのも、そこに働いている人であり、住んでいる人なんですね。近年、アーティストをまちに誘致することで創造性に溢れた都市をつくるという「創造都市」がまちづくりの一つの潮流となっていますが、アートの力というのは非常に大きい。リチャード・フロリダ氏が『クリエイティブ・クラスの世紀』で提唱しているように、アーティストやデザイナーといった多様なクリエイターが集う仕掛けが、今後はますます重要になってくると思います。

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4. まちを変えていく「コトづくり」を起こせ

4. まちを変えていく「コトづくり」を起こせ
―コトを見せる仕掛けで、まちを楽しく

野城: たとえば神田や秋葉原あたりの周辺地域にアーティストたちのSOHOをつくり、その人たちのプレゼンテーションの場、「ハレ」の場として大丸有を位置づけるというのはどうでしょう?

安島: 面白いですね。しかも、周辺地域との連携は必須です。このエリアだけで日本一、世界一を目指すのは難しいですから。たとえば、銀座にはミシュランガイドで三つ星を獲得するようなレストランが点在しています。それに大丸有が対抗するだけでなく、足りないものは周辺地域とうまく連携すればいいのです。

野城: 周辺地域と連携しながら、何が起こるかわからないけれど、まちを楽しくするような仕掛け、まさに「コトづくり」を仕掛けていくということですね。たとえば、神田エリアで、廃校となった中学校が、「3331アーツ千代田」に生まれ変わり、アートやデザイン、ベンチャーの拠点として地域に根ざし始めたり、古くて比較的小さめのビルが住宅にコンバージョンされ、これまでと違ったカテゴリーの人たちが住むようになり、新しい地域イベントが生まれていっています。

安島: そういった意味では、自然発生的に文化が醸成されていくような、フォーマルな組織を越えたヨコの連携を生み出す仕組みが必要です。現在、観光まちづくりでは、[[DMP(ディスティネーション・マネージメント・プラットフォーム)]]の重要性が言われています。観光まちづくりを推進する中核的な人材を集める仕組みなど、プラットフォームが必要だということ。エコッツェリアで開催されている「朝大学」などは、まさに意識の高い人たちを結び付ける一つの仕掛けであり、プラットフォームと言えるでしょう。

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野城: フィジカルなまちの中に、「コト」の場を埋め込むための仕掛けが必要だということですね。インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のリアル版ともいうべきイメージでしょうか。 ちなみに、「コト」は、万人受けするものよりも、むしろニッチなテーマの方がいいのではないかと思うのですが。

安島: 同感です。ニッチなテーマについて深く掘り下げるような「コト」が複数あるといい。その人たちが、さらにヨコに連携して、新たなコトを生み出していく原動力になっていくはずです。

野城: なかには会員制や紹介制など、排他的な集まりがあってもいいかもしれませんね。日本中、あるいは世界中の地域のまちづくりプロデューサーたちが集まり、メタ知識を共有できるような場であれば、むしろメンバーズオンリーでかまわない。いわゆるサロンです。

安島: サロンの場として、音楽も有効です。アートや食と同様に、都市にはもっと音楽が必要でしょう。ライブレストラン「COTTON CLUB」なんて、理想的です。 さらにコトづくりで重要なのが、学びの場。大丸有は日本一頭脳密度が高い場所であり、さまざまな仕掛けが可能です。企業のトップから話しを聞ける場でもいいし、日本の玄関口の特色を生かした学びの場でもいい。たとえば、旅行代理店のHISが外国人向けに行っている日本文化を学ぶツアーの中には、鮨の握り方や出汁のとり方を習うものがあるそうです。外国客船のシェフが日本に寄港した際に学びに来るとか。大丸有にも、そうしたニッチな観光資源の芽がたくさんあるのではないでしょうか。 その際にぜひやっていただきたいのが、学びの場を外から見えるようにしてほしい。ABCクッキングスタジオみたいに、楽しそうに料理をしている場が見える、というのがまちを活気づけるのです。

野城: スタジオをつくって、そこで大丸有に本社を構える企業のトップに話しをしてもらい、その様子が外から見えれば、道行くサラリーマンも足を止めるでしょうね。企業のトップが社会に対するメッセージを発する場として、重要な役割を担うことができるかもしれません。 ハードをつくろうと思うと、どうしてもそれなりの予算がかかってしまいますが、コトづくりであれば、比較的低予算でできるという良さもある。そうした小さなコトづくりの成功体験を積み重ねていって、まちを変えていくことができたらいいですね。

安島: 重要なのは、そのコトづくりの最初の芽の部分を、誰かが発見していかなければならないということでしょう。

野城: まさに、「時代を見る目利きが育てる場」づくりが必要ですね。

本日はお忙しいところ、ありがとうございました。

■ 編集部から
このインタビューは、東日本大震災の前に行われたものです。3.11以前と以後で一変してしまった世界を思うたび、美しいまちの景観がどれほど人の心を豊かにするものなのか、コトづくり起こす人々のヨコのつながりがいかに大切なことなのか、実感しています。

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