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日米友好の印? ワシントンD.C.の桜は今年で100年目!

明治45年、日本からワシントンD.C.に贈られた桜は、ソメイヨシノ1800本、カンザン350本など。今も美しく咲くワシントンD.C.の桜。その美しさの裏側に隠された"真実"とは。

ワシントンD.C.の桜は焼却処分!?

明治43年8月、アメリカから日本へ桜の苗木贈呈の要請があった。
すぐに桜の苗木が集められ、船でアメリカに送る。しかし、苗木は病虫害がひどく、焼却処分。
準備を整えて、明治45年春に、桜の苗木を送り直す。その数、ワシントンD.C.に3000本、ニューヨーク市に3000本。この裏で尽力したのは、科学者であり実業家でもある"高峰譲吉"。
その後、ニューヨーク市では寒さのために桜が定着することはなく、一方でワシントンD.C.では、ホワイトハウス周辺が桜の名所になった。

明治の気骨を表す友好のシンボル

ワシントンD.C.では、ポトマック川から水を引いた沼の周囲に1800本のソメイヨシノは植えられ、大正から昭和の初期まで美しく咲き誇った。当時の写真では、日本の桜並木と同様、白く均一に咲き揃っている。日米友好の印が咲く中で、桜祭りが毎年盛大に繰り広げられた。

世界大戦で樹木に八つ当たり

沼のまわりは水位が高く、ソメイヨシノは痛みが激しくなり補植が必要になったが接ぎ木の技が不十分で、よい苗木が得られない。おまけに日米の関係が悪化。昭和16年には太平洋戦争が始まる。日本に返礼で送られたハナミズキは、敵国の花木として、当時ほとんど切り倒された。もしかしたら、ソメイヨシノも似たような境遇にあったのではないだろうか。

名所の桜は別の品種群になった

ソメイヨシノが植えられた場所は、当時と変わらず桜の名所。毎年美しく咲き誇る桜を見に、世界中から人が集まる。日本でも毎年、今年もワシントンD.C.の桜が咲いたと報道している。
アナウンサーは、「ソメイヨシノが咲きました。」と話すが、実は、敵国のシンボル"ソメイヨシノ"はそこには無く、別の品種が植栽されている。その名も"アメリカ"という品種だ。日本に里帰りしているので、注意して見てみよう。
現在、ワシントンD.C.で愛されている日本の桜は、実は八重咲きの"カンザン"である。

石井 誠治
石井 誠治(いしい せいじ)

樹木医・森林インストラクター。著書に「都会の木の図鑑」(八坂書房)、岩波ジュニア新書「樹木ハカセになろう」(岩波書店)などがあり、身近な自然を理解してもらうための自然解説が好評。
また、NHK文化センター、よみうり日本テレビ文化センター、朝日カルチャー、クラブツーリズム、高島屋友の会、川崎市民アカデミー等で野外指導講師を務めるほか、樹木診断調査、園芸相談、環境教育活動などで活躍する。

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