シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

なぜ小鳥はさえずるのでしょう

春は小鳥のさえずりの季節。私たちが聞いて美しいと感じるさえずりを、小鳥たちはどう聞いているのでしょう。

知っていますか?"さえずり"の定義

シジュウカラ(左写真)の澄んだ「ツーピー、ツーピー」という声が聞こえる頃となりました。緑の多い公園や郊外に行けば、ウグイスのお馴染みのさえずりも聞かれることと思います。
ちょうど今頃、小鳥たちのさえずりがさかんになる季節です。

"さえずり"というと、小鳥の鳴き声の意味と思われている方がいるかもしれません。しかし、実は、"さえずり"は「繁殖に関わる鳴き声」と定義されています。

これに対し、仲間同士の合図の声、たとえば「ここにいるよ」という存在を知らせる声や危険を知らせる声のことを"地鳴き"と呼んでいます。
たとえば、ウグイスの「ホーホケキョ」はさえずりで、「チャ、チャ」という、俗に"笹鳴き"と呼ばれている鳴き方が"地鳴き"です。

すべては、強い遺伝子を残すための「命をかけた選択」

さえずるのは、主に雄の仕事です。
雄が、求愛のために雌を呼び、子育てのためのなわばりを確保するための行動なのです。

しかし、どうして小鳥のさえずりは、私たち人間が聞いてもきれいな声に聞こえるのでしょう?
これは長年、小鳥の雌が美しい声でさえずる雄を選らんで来た結果です。
雌はきれいな声で長くさえずる雄を魅力的に感じ、そうした雄を結婚相手にして来たのです。

たとえば、コマドリは、1日に何千回もさえずります。
考えてみますと、さえずってばかりいる雄は、食べ物を探す時間が少なくなります。それでも、食べ物を取るのに苦労をしないほど、良い条件のなわばりを確保している雄ということにならないでしょうか。
また、大きな声で長くさえずることができる雄は、体力がある証拠とならないでしょうか。

ヒバリのように飛びながらさえずる鳥であれば、さらに力のある雄ということになります。
シジュウカラは、木のてっぺんなどの目立つ所にとまってさえずります。
これは、ある意味とても危険な行為です。いつ天敵のタカに狙われるかわかりません。それでもなお命をかけてさえずっているのです。これは、天敵に襲われても逃げることができる、すばしっこい雄だということにならないでしょうか。

オオルリキビタキ(左写真)は、とても複雑な節回しでさえずります。
ときに、他の小鳥の声を取り入れてより複雑な節で鳴いています。このようなことができる雄は、複雑な節を覚え、他の鳥の声を記憶できる頭の良い雄ということにならないでしょうか。
いずれにしても、私たちが聞いて美しいと思う小鳥のさえずりですが、小鳥の雌が聞いたら、それ以上に、強い遺伝子を残すための命をかけた選択になることは間違いありません。
カラオケで歌う歌がない音痴の私としては、つくづく鳥に生まれないで良かったと思います。

松田 道生
松田 道生(まつだ みちお)

公益財団法人日本野鳥の会理事。野鳥の声に関しては『野鳥大鑑鳴き声420』(小学館・2001)の解説を担当。野鳥録音の入門書『野鳥を録る』(東洋館出版社・2004)を執筆。現在放送中の文化放送『朝の小鳥』の制作に関わっている。関連して下記のWebサイトを運営。
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