2012/07/10
"街なかの雑草?"そんなの美観を損なうだけではないか、すぐに抜いてしまえ、と思われる方も多いかもしれません。でも、気に食わないやつはすべて追い出してしまえというのでは世の中窮屈です。雑草も街なかの自然の一員として生きています。
私は皇居のお堀ばたに沿って雑草を見てきました。もう30年以上になります。東京駅からまっすぐ皇居の方向へ向かい、坂下門前から曲がってお堀沿いに大手門、平川門、乾門と進み千鳥ヶ淵にいたるのが定番の半日コースです。皇居の外周を東側から北側へと半周することになります。
エンジュやシダレヤナギの街路樹が並びますが、その根元には1m四方ほどのわくに土が露出しています。これを"植えマス"と呼びますが、ここに雑草が出てきます。樹は植えたものですが、雑草は自然のしくみに組み込まれて生えます。また歩道の縁にはツツジなどの植え込みがありますが、そこの地面にも雑草が生えています。ときどき踏みつけられる植えマスよりも、植え込みの下の雑草の方がのびのびと育っています。
観察時期はおもに春ですが、長年見ているとここの植えマスに常連の草があります。セイヨウタンポポ、オランダミミナグサ、コハコベ、ノミノツヅリ、スズメノカタビラなどです。どこにでもあるオオバコが見当たりません。これはどうしてでしょう。
オオバコの種子は、濡れるとネバネバして足によくくっつきます。これで広まるのです。都心の植えマスでは、そのような種子の供給源がないのでしょう。でも、近くの日比谷公園の空き地では、オオバコが生えています。植えマスは草にとってきびしいところですね。
ここ10年ほどの間に目立ってきたものがあります。ウラジロチチコグサ、ミチタネツケバナ、イヌコハコベ、ナガミヒナゲシ、オッタチカタバミ、キキョウソウ、マメカミツレ、シロイヌナズナなど(普通の人にはなじみのない名ばかり)で、いずれも近年各地に増えている外来種です。ここまでは都心の性格を現しています。
乾門のあたりから様子が変わってきます。セイヨウタンポポばかりだったのが在来種のカントウタンポポが現れます。サクラの下にカントウタンポポが群生しているところもあります。植え込みの下にはミドリハコベ、カキドオシ、オヤブジラミなど古くからの雑草やオドリコソウ、セントウソウ、ムラサキケマン、ヒメウズなど野草の範囲に入るものが多く見られます。千鳥ヶ淵に面した斜面にオドリコソウの群生地があります。これは皇居内の植生が外に及んでいるすがたでしょう。
人が大きな土地攪乱をしなければ植物は保守的に生育を守っています。わずか1.5kmほど歩く中で、最も都市的な雑草たちから、江戸時代以来続いてきたであろう野草の世界まで、その変化を感じ取ることができます。
元・千葉県立千葉高校教諭、現NPO法人自然観察大学理事。
雑草を中心とした身近な植物の生活を通して自然を観察する方法を研究し、それを広めてきた。現在は、千葉県立中央博物館友の会やNPO法人自然観察大学などで、野外観察会や室内講習会などを行っている。
主な著書:「野外観察ハンドブック/校庭の雑草」「形とくらしの雑草図鑑」(全農教全国農村教育協会)「図説日本の植生」(講談社学術文庫)
自然観察大学HP