2012/11/06
陸と海が接する海辺は、不思議な自然の営みに満ち溢れています。潮が引いた磯に出かけ、足元に目を向けてみましょう。そこは"生きもの"たちの進化を育んだフロンティアでもあるのです。
潮の干満により陸が現れたり、海水に満たされたりする潮間帯(海岸の高潮線と低潮線との間の帯状の部分)は、一日のうちに温度や湿度、塩分濃度や紫外線などの影響を受け、環境は大きく変化します。潮間帯は、そうした変化に耐えられる様々な生きものたちを育み、間近に観察できる貴重な場所(生態系)でもあります。
潮が引いた磯の表面は、カラフルな海藻類に覆われます。潮だまりにある海藻をどけてみると、"ムラサキウニ"や"ヤツデヒトデ"、そして"タコノマクラ"などの棘皮(きょくひ)動物を見つけられます。
また、石ころが重なっているような場所で、手頃な石を注意深く持ち上げてみると、そこには"バフンウニ"や"ムラサキクルマナマコ"などの転石下に棲む生きものたちが見られます。このように、満ち潮になるまでの間、乾燥に耐えている様子を観察することができるでしょう。
岩の窪みの奥を覗くと"イワガニ"や"オウギガニ"が動きを止めて、こちらの様子を窺っていたりします。うまくすると、岩棚の下側に集団で産卵する"イボニシ"が見つかるかも知れません。
陸に近い潮だまりには、いろいろな形の"カサガイ"の仲間や、ポリプを開いてエサを待つヨロイイソギンチャクを見ることができます。そして、岩の窪みや隙間に、八枚の殻板をもつユニークな形のヒザラガイを見つけることができるはずです。
火山のような形をしたクロフジツボは帯状に岩の壁を覆い、カメノテも申し合わせたように、岩の隙間に集まっているのが見つかるでしょう。
陸に近い乾燥した岩の窪みには、大豆ほどの可愛らしい巻貝、タマキビが見つかります。
潮間帯では、わずか数メートルという狭い範囲でも、たくさんの個性的な磯の住人たちを見つけることができ、水位と平行して帯状に棲み分けたり、地形の凹凸をうまく利用したりして適応していることが分かります。
一見すると、あまり活動的には見えない生きものたちですが、潮だまりに目を凝らすと、盛んにハサミを動かして獲物を食べるエビやカニの仲間、大きな目で水中と陸上の影に警戒しながらも活発に動き回るハゼや、ギンポの仲間などが観察できます。
潮が満ち始めた潮間帯は、次第に活気を帯び始め、まるで岩に同化したようにしっかり貼りついていたカサガイの仲間や、ヒザラガイも岩の表面を覆った海藻を食べるためにゆっくり動き始めます。
やがて乾燥していた岩に飛沫がかかり始めると、水中の有機物を求めてフジツボやカメノテなどの蔓脚(まんきゃく)類もリズミカルに触手を伸ばし始めます。すっかり潮が満ちた潮間帯には、大型の魚たちも岸近くまでエサを求めてやってきます。
多種多様な生きものたちの生態を目の前でじっくり観察できる潮間帯は自然と親しみ、さまざまな発見にみちびいてくれる、とっておきの場所なのです。身近な海辺に出かける機会があれば、是非、ゆっくり観察してみてください。
NPO法人 OWS代表理事。1950年和歌山県の海辺に生まれる。スクーバダイビングと海辺のエコツアー事業にかかわるかたわら海の環境NPO、OWSを設立。
ミッドウェー環礁自然保護区、パラオ・アンガウル州立自然公園プロジェクトなどで自然観察指導を行う。
多様性保全の普及啓発、環境学習プログラムの推進、市民環境調査の推進、NPO活動を担うネイチャーガイド養成などに取り組んでいる。
NPO法人 OWS