2012/12/04
植物を見ていると、不思議なことがたくさん起こります。それは、植物が動かないと思っている私たちの固定観念によるところも大きく、動き出す植物を目の当たりにすると大きな驚きが生まれることもしばしば。
ある日、公園で花の写真を撮っていた時のことです。突然、パチン!パチン!と指を鳴らすような、小さな音が聞こえてきました。「なんだ?」と思い、ふり返ると、しーんと静まる青い草原。バッタの仲間がいるなら動いた時に草が揺れるはずですが、いっこうに揺れません。夏がはじまったばかりの暑い日のことでした。
ふんわり風が吹いたその時です。パチン!一発の音が鳴ったと思うと、パチン!パッパチン!パチン、パチン!と続けざまに音が鳴り出しました。
「どこにいるんだ?」と、揺れている草をかき分けて、覗き込もうとすると、パチン!また、音が鳴り、同時に草をかき分けたTシャツから伸ばした腕に、わずかな刺激を感じました。
草原の中で、真っ黒な姿で実るカラスノエンドウがまたパチン!と弾け、正体がわかりました。カラスノエンドウの黒い果実が弾け、縦にねじれたサヤから小さな種子が飛び出たのです。音はそのサヤが割れる音でした。日当たりの良い草原で、静かにタネを弾き飛ばす音が、またパチン!と鳴りました。
カラスノエンドウは、街中の公園でも見られるつる性の植物ですが、こんな音を出しながらタネを飛ばすことは図鑑には書いてありません。
マメ科の植物では、夏前に青紫色の花を咲かせるフジも、カラスノエンドウと同じように、乾燥した莢(さや)がパチンと音を出して弾けます。その際に出てくるのが、1円玉ほどの平たい種子ですが、種子を出した後のフジの莢もねじれて地面に落ちることになります。ビロードの毛に覆われた莢は、まるで宝箱のようです。
身近な植物では、カタバミの果実もペットボトルのような姿からタネを飛ばす、隠れた戦略家です。タネが飛んだあとの果実は、ちょうど縦に割れたペットボトルのようになり、中身のタネが勢いよく飛び出します。果実は、触れた動物に付着したり、さびしく地面に落ちていたりしますが、それだけではありません。地面に落ちたタネも、上手に近くを歩くアリの行列に運ばれていきます。アリが運ぶそのねらいは、エライオソームと呼ばれる栄養価の高い物質で、運搬屋のアリにカタバミがご褒美として用意した特別な物質です。
「動けない部分は上手にアウトソーシング。」これが、植物の種子散布の大きな戦略と言えるでしょう。くっつく植物として有名な、オナモミやセンダングサの仲間も、動物たちをうまく利用しています。
他にも、Impatiensという学名をもつホウセンカやツリフネソウの仲間も、僅かな刺激で熟した果実が突然弾けて、私たちを驚かせます。この仲間はその生態が昔から知られていて、学名のImpatiensもラテン語で「私に触るな!」という意味です。
植物の生態的な戦略は数々ありますが、都心の公園にも動いている植物が見られます。シロツメクサは夜になると葉を閉じ、ゲンノショウコは種子が熟すとクルンっと果柄を丸めて先端の種子を弾きます。また、よく見るタンポポも、長い花柄を揺らして綿毛をふり飛ばしています。風の強い日は樹木を見上げてみましょう。枝葉に風を受けてダイナミックに揺れる木々が、太い枝を数メートルも揺らし、弱った枝葉をふるい落としたり、花粉や種子を飛ばしている姿は、意思をもっているようにも見えます。
目の前にあっても、さわらなければ動かないもの、匂いや蜜で動物をおびき寄せるもの、それに、身近なつる植物にも多様な「動く植物」があります。けれど、それに気が付けないのは、私たち自身が動物として動いている証拠かもしれません。
足を休めて、『植物の時間』に焦点を合わせることで、まだ見たことがない植物の動きに気が付けるかもしれませんね。
1979年東京都中野区生まれ。グリーンセイバー・マスター。財団法人自然環境研究センター、株式会社自然教育研究センターを経て、現在、NPOや企業のCSR活動の企画・イベント実施、環境アセスメント等の調査等を請け負っている。
「自然あそびと園をつなぐ研究会」の講師、「田んぼのいきものおもしろ図鑑(農文協)」分執筆植物担当。「ぼくらの里山・いきものゲーム(樹木・環境ネットワーク協会)」、「100冊の絵本に出会う自然体験展」の企画など、自然と子どもに関わる分野で活動中。