2012/12/18
2012年、東京駅の駅舎がリニューアルされ、駅周辺も超高層ビルが林立するようになり、東京の表玄関がすっかり様変わりした。ここ30年の間に都心の都市鳥の生態も随分と変化した。
1980年代、丸の内・大手町界隈は、ツバメやスズメ、カルガモなどの都市鳥観察のメッカであった。東京駅外壁のレンガのすき間ではムクドリが繁殖し、丸の内側の国鉄ビル(現・日生丸の内ビル)一階アーケードや東京中央郵便局の出入口で多数のツバメが繁殖していたなど隔世の感がある。
ツバメは敢えて人目に触れるビル街で営巣し、皇居のお濠や緑地などで餌をとっていた。人をガードマン代わりにして卵や雛を天敵から守る繁殖方法を「ツバメ型繁殖」と名づけてみた。すると、三井物産ビルの人工池で大勢の人に見守られながら繁殖するカルガモ、東京駅8番線ホームで繁殖したキジバト、港区のマンションのベランダで繁殖したヒヨドリなど、いずれも「ツバメ型繁殖」としてうまく説明することができた。
しかし、現在、丸の内・大手町界隈でツバメは1巣も繁殖していない。唯一2011年春まで繁殖していた読売新聞東京本社も、ビルの建替えにより消滅した。ツバメの消滅原因としては、急増したハシブトガラスによる雛や卵の捕食、営巣に適した建物の建替え、新築ビルの外壁に巣材の泥が付着しにくいこと、巣材の泥や餌となる飛翔昆虫の減少などが考えられる。さらに、「都会人の心の中に、ツバメを大切にする気持ちが希薄になってきたのではないか・・・」という懸念もつきまとう。
スズメも厳しい現実にさらされている。25~26年前、「丸ビル」ではスズメのねぐらが観察できた。ビル外壁の銀行の文字盤をスズメがねぐらとして利用していた。しかし、銀行界の吸収合併のたびに看板は取り替えられ、今では看板もねぐらも消滅した。ビルの構造も、街全体の景観にも、鳥たちと共存するだけのゆとりが感じられない。鳥たちに見放された都心はいかにも窮屈である。
では、スズメやツバメは、東京から消滅してしまったのだろうか・・・。実は、そうでもないところが面白い。ツバメは、丸の内とは皇居を挟んで反対側の番町・麴町地区や神田地区では健闘している。千代田区全体では、2004年の29巣に比べて2012年には35巣を維持している(「千代田の四季」28号2012)。スズメも、皇居前広場の楠木正成銅像で繁殖し、皇居前広場や日比谷公園では人の給餌に群がり、お濠のほとりでは雑草の種子をついばむ姿をよく見かける。
都心の環境は今後も変化していくであろうし、都市鳥たちが環境変化にどう適応していくのか興味はつきない。変化する都市と鳥たちの生態を長い目で見守っていきたい。
群馬県生まれ。都立高校の生物教師を経て、現在は都市鳥研究会顧問、NPO法人自然観察大学学長。モズの生態研究で日本鳥学会奨学賞、2003年に市川市民文化賞(スウェーデン賞)を受賞する。
著書に『カラスはどれほど賢いか』(中公新書)、『都会でできる自然観察』(明治書院)、『野鳥博士入門』(全国農村教育協会)など多数がある。
NPO法人自然観察大学
カラサワールド