シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

東京にもある野鳥の楽園とそのヒミツ

東京都の東端にある都立葛西臨海公園。水族園で泳ぐマグロが有名ですが、その隣に「鳥類園」という施設があるのをご存知ですか?面積約27ha、公園の1/3を占める野鳥の保護・観察施設が造られています。また、その沖には、人の立ち入りができない「東なぎさ」と呼ばれる保護区(葛西海浜公園と呼ばれる公園の一部)も設置されています。約9年間、「鳥類園」の週末スタッフとして見てきた「楽園」の魅力とヒミツをお伝えします。

葛西の公園の成り立ち

葛西臨海公園とその沖に広がる葛西海浜公園は、埋め立てによって造られた公園です。私たち人間には使いやすい場所ですが、もとの干潟などに暮らしていた鳥たちからすれば、「すみか」を奪われたことになります。そこで建設当時に、公園の一部に「鳥類園」をつくり、沖にも野鳥等の保護区として「東なぎさ」という人工のなぎさを作り、生きものたちとの共存を図ろうとしたのです。

「鳥類園」の鳥たち

鳥類園には、淡水池「上の池」と汽水池「下の池」があり、それぞれ見られる鳥が異なります。「上の池」では、毎年10種以上2,000羽前後のカモたちが冬を越すために北国から渡ってきます。また、それらの水鳥を狙って、オオタカやチュウヒといった猛禽類までやってきます。時には、目の前で狩りの様子を観察できることもあります。

一方、汽水池には、春と秋に、シギやチドリの仲間が渡り途中の休息にやってきます。東京湾の奥に位置する干潟は、人工的に造られたものであっても、彼らにとって貴重な栄養補給の場所になっているのでしょう。

保護区「東なぎさ」の鳥たち

鳥類園の南、「東なぎさ」と呼ばれる保護区には、毎年クロツラヘラサギと呼ばれる世界的な希少種が訪れます。渡りのルートからは少し外れているのですが、安全で餌も採りやすく、居心地がよいのかもしれません。

この「東なぎさ」には、多くのカモも訪れます。ほとんどがスズガモという海好きなカモですが、その数はなんと2~3万羽。彼らがひと冬に食べる貝の量を考えると、葛西の海の豊かさが想像できると思います。

さらに2011~2012年には、隣接して作られた「西なぎさ」と呼ばれる砂浜でコアジサシという水鳥が22年ぶりに繁殖に成功しました。この鳥は環境省が定めた希少種のため、公園の一部を保護区として立ち入り禁止にしましたが、利用者の方にも見守られながら、保護活動ができました。

古くて新しい人と生きものの共存の形

これまでご紹介したのは、葛西で観察できる鳥のほんの一部です。開園後の20数年の間に公園で確認された種は、200種を軽く超えています。この数は、都内では間違いなくトップクラスでしょう。このこと自体も私が知って欲しいことですが、実はもうひとつ、知って欲しいことがあります。それは、この人工的な環境が、たまたま出来たものではなく、当時の建設計画に携わった方々が、多くの時間や知恵・労力などを出し合って造ったことです。その内容については、参考の本(※1)を読んでいただきたいのですが、「自然再生」などの言葉がなかった時代に、このような自然環境を造り出し、現在では野鳥の楽園となっているこの事業を、もっと多くの方々に知って頂きたいと思っています。

(※1)「東京の港と海の公園」(改訂版) 樋渡 達也 著 /発行:(財)東京都公園協会 1994年

中村 忠昌
中村 忠昌(なかむら ただまさ)

1972年生まれ。NPO法人生態教育センター・主任指導員。千葉大学園芸学部非常勤講師。2004年から、葛西臨海公園鳥類園の休日スタッフを続けている。夢は葛西の公園をラムサール条約の登録湿地にすること。
NPO法人生態教育センター
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