2013/07/23
私は樹木医という仕事をしています。
主に"都会の木"を相手に仕事をしているのですが、仕事相手は"木"ではなくて"人"だと感じています。
そもそも、我々は、木を生き物として学ぶ機会が、ほとんど無いに等しいので、木に対していろいろ誤解があるのではないかと思います。
例えば、ほとんどの人は、『木は根から栄養を吸うだけ』、『葉は栄養を吸い取るもの』と、思っていることでしょう。
確かに、木は根からミネラル等の無機養分を吸って、それが体(葉)の材料となります。
実はそれだけではありません。葉は"光合成"を行うことで、糖を作り、養分を幹や根へ送っているのです。つまり、木は自分の葉で栄養を作ります。木は葉がないことには、生活が立ち行かなくなるのです。それなのに、人間による、無残な剪定は後を絶ちません。一体どういう事かと、不思議でなりません。
もちろん"根"も大事です。
元気のない木は、たいてい土が原因であることがほとんどです。
根は呼吸をしているので、根元に土を盛っただけで、根が酸欠を起こし枯れる樹種もあります。
ずっと同じ水に根をつけていると、根が腐るでしょう?流れている水なら酸素が得られますが、動いてない水は酸欠になります。水たまりができる土は、水はけが悪い土で、水も酸素も届きにくい土なのです。
よくある失敗は、酸欠で根が弱っているのに、「元気がない」と水やりを頻繁に行うことです。さらに酸欠となり、根が腐って枯れてしまいます。これも「水さえやればいい」という誤解があると思います。鉢植えに水をやるときは表面が乾いたらたっぷりやって、空気の入れ替えを意識すると良いと思います。木は、根から吸い上げた水は葉から出し、葉で栄養を作り下へ送る、上下のバランスが大事な生き物だと思います。
このように、木のすごいところ、教えたいことは沢山あります。でも、どうしてもお勉強っぽくなり、子供は飽きちゃうし、大人も興味のある人以外には聞いてもらえません。
一般の人にとっては、"木"は地味ですし、「生き物」といってもピンとこない人がほとんどです。
なんとか子供たちだけでも、関心を持てるような講座ができないか?と、やりはじめたのが、「変な木探し」です。
樹木の観察というと、どうしても「まず樹種から」となりますが、これは木に関心がない人にはとてもハードルが高い講座だと思います。
そこで私は、樹種を知らなくても「変な形の木、不思議な形の木を探そう!」という思いを強く持ち、観察会を初めました。木の形はその木の生い立ちを物語っています。「なんでこんな形に?」という木には、きちんとした訳があるのです。
例えば枝は、光を最大限に受けようと、重ならないように枝を出します。木にとって無駄な枝などありません。人が思う以上に、木は賢い生き方をしています。どんな木を見つけても、そういう話に持っていこうと思っていました。
変な木探しを始めた当初は、「誰も何も見つけられないかもしれない。」と、不安でしたが、すぐにそんな不安は、吹っ飛びました。子供たちとお母さんたちはとても視点が柔軟で、皆をうならせるような名作の数々を見つけてくれたのです。そしてワークショップをやるうちに、「逆に私の方が木をよく見てなかったのでは!」と、気づかされたのでした。
私自身、樹種がわかったら、その木をわかった気になっていて、それ以上踏み込まなくなっていたのです。しかし子供たちは違います。「良く見て」と言うと素直に良く見てくれ、木の意外な一面を発見するのです。それだけではなく、発見した木には、発見者がそれぞれネーミングを付けるのですが、その表現が絶妙で、私が一番教えられ、感動していました。
みんなに愛される木といえば、花がきれいな木、大きな木などの名木が挙げられるでしょう。
一方、ほとんどは普通の人にとってはさほど立派でもなく、ぱっとしません。
そんな中で、「イナバウワーの木」と名まえが付くとどうでしょう。
もうそれ以外に見えないし、気になり始めます。
これは、さえない子(木)がいきなり注目される魔法の言葉です。
植物に詳しくない人のほうが面白い名前をつけるので「木は難しい」と臆することはありません。
誰でも魔法の言葉で木を注目させることができるのです。
みなさんから、どんどんそんな魔法の言葉が生まれるといいな、と期待しております。
そもそも樹木は、人の為(防火、防塵、防音、防風などなど)に植えられているのです。
1967年島根出身。東京学芸大学卒業後、森林インストラクター第1期の試験を受け、たまたま女性初の森林インストラクターとなる。味をしめて樹木医の試験も受け、1998年に樹木医になる。調子にのって2000年にNPO樹木生態研究会を設立し、樹木調査を行う。現在事務局長。
かろうじて結婚してもらい、一応2児の母。
著書に「図解樹木の診断と手当(2002年 農文協 発行)」、「街の木のキモチ(2011年 山と渓谷社 発行)」がある。
NPO樹木生態研究会
ブログ「街の木コレクション」
フェイスブック「街の木ウォッチンググループ」