2014/03/18
タンチョウはツルの仲間です。
動物園で、タンチョウを見ている来園者の方々から「あっ!ツルだ!」という声が時折聞こえてきます。しかし、看板に「タンチョウ」と書いてあるのをご覧になると、「あぁ、タンチョウだよね。」と。そして次の瞬間「…ん?ツルってそもそも何のこと?」と、疑問の声が。
"タンチョウ=ツル"と思われることもありますが、"ツル=タンチョウ"ではありません。
ツルの仲間は全部で15種ですが、そのうちの1種がタンチョウなのです。
タンチョウは、「冬になると北海道に渡ってくる」というイメージが強いようですが、北海道にいるタンチョウは北の国から海を渡ってくるのではありません。北海道のタンチョウは、かつては関東地方まで南下していたものもいましたが、現在は北海道で一年中暮らしています。
では、冬に集まってくると思われているのはなぜでしょう?
実は、外国から渡来してくるのではなく、北海道に散らばって暮らしていたタンチョウたちが集まってきているのです。
本来であれば、タンチョウたちはそれぞれ冬も食べ物を手に入れることができる場所を見つけて、越冬します。しかし、雪に閉ざされた北海道では、食べ物を見つけられる場所があまり多く存在しないのです。
そのため、冬の間タンチョウたちが食べ物にありつけるように、人の手によって餌を撒いている場所があります。
そこに毎年冬になると何百羽ものタンチョウがやってくるので、タンチョウは冬に渡ってくると思われているようです。
しかし、実際に渡りをするタンチョウもいます。
北海道ではなく、ロシアや中国で繁殖をする大陸産のタンチョウたちは、中国の南の地域や朝鮮半島に渡り、越冬します。
つまり、タンチョウたちは、現在は北海道で繁殖するものと、大陸で繁殖するものと、大きく2組に分かれているのです。
かつて、タンチョウは絶滅したかもしれないと思われる程、生息数が減ったことがありました。冬に食べ物を見つけることができず、たくさんのタンチョウたちが餓死してしまったのです。
このままでは、日本のタンチョウが絶滅してしまうと、冬の間だけ餓死を防ぐために餌を撒き始めたのです。その甲斐あって、30羽余りと言われていたものが春の繁殖期を迎えられるタンチョウが増え、2013年には1600羽にまでなりました。
増えたタンチョウたちが一年中食べ物を見つけられればいいのですが、現状では、冬の間はまだ足りません。近年では、給餌されるものと同じトウモロコシがあると、畜産農家の牛小屋に入り、牛の餌を横取りしてしまうこともあるそうです。
現在、多くのタンチョウたちへの給餌に加え、様々な活動が行われています。彼らが自力で食べ物を見つけられるように、川岸の薮を切り開き、タンチョウたちが舞い降りる畑の脇から川辺に行くことができるようにしたり、食べ物となる水中の生き物を探しやすいように川辺を整えたりしています。
そのほかにも、食べ物を探せる場所の調査をしたり、生息数の変化を調べたり、事故の原因を調べて対策を施したり…タンチョウがこれからも生きていかれるように、たくさんの取り組みが行われています。
日本の象徴的な鳥としては有名でも、その背景はあまり知られていないタンチョウ。動物たちにはそれぞれの背景があり、それを知ることは興味深く、さらに、たくさんの方に伝わることは、その後の保護に繋がっていくということを知っていただけると嬉しいです。
公益財団法人横浜市緑の協会 横浜市立金沢動物園 飼育展示係 タンチョウ・オカピ担当。
大学で野生動物学を学ぶ。2009年より横浜市立野毛山動物園に勤務。2013年より金沢動物園にて現担当。
出会いが重なり、これまで担当したアムールトラ、ジャガー、ニホンアナグマ、タンチョウ等の生息地を訪ねる。
それらの経験をもとに、動物園の動物たちからは感じきれないその背景までお伝えしたいと考えている。
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