シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

日本のカメの現状と未来

子どもから大人まで、カメはみんなに大人気の生きものです。また、都会の中のさえずり館から歩いて5分の皇居のお堀や日比谷公園の池でも観察(春~秋まで。冬は冬眠中。)できるように、人の生活範囲に近い場所でもくらしている、とっても身近な生きものでもあります。

そのようなカメは昔からペットとしてや儀式用として、元々くらしていた場所から持ち運ばれてしまうことがありました。その結果、在来のカメについても外来のカメについても、国内ではもともとどのように分布していたのか、学者による研究・生態調査・文献調査によっても正確には分かっていません。そんなカメですが、近年、新しくやってきた外来種、ミシシッピアカミミガメが各地で増えている一方、在来のカメが数を減らしている様子が報告されるようになってきました。

そこで自然しらべでは、 2013年度は「日本のカメさがし!」として2013年5月1日~10月31日までの期間に、小さなお子さんから専門家までが参加して、全国一斉にカメをしらべてみました。その結果、1万匹を超えるカメの情報が集まりました。今回はその成果を用いて、日本で主に見られる4種類のカメを紹介します。

ニホンイシガメ

ニホンイシガメは、知恵ぶくろうの「絶滅の危機にあるニホンイシガメは今」の片岡友美さんの記事にあるように、世界広しといえど日本にしかいない日本固有の生きものですが、近年数を減らしています。

このカメは、主に関東より西で多くみられるのですが、今回の自然しらべでは、東北地方の山形県鶴岡市の神社の池からの報告もありました。過去に山形県では、ニホンイシガメの死がいが遺跡発掘の際に見つかったこともありますので、その末裔が見つかったのかもしれません。

さて全国各地からカメの記録写真が送られてきましたが、ニホンイシガメの目撃事例586匹の情報の中でも多かったのが、たくさんのミシシッピアカミミガメやクサガメが写っている画像の中に、ポツンと1匹のニホンイシガメがいるという写真報告です。ニホンイシガメは行動様式などから、ミシシッピアカミミガメやクサガメより見つけづらいということもあると思いますが、外来のカメたちに押されている現状が垣間見れるようでした。

「数年前にはニホンイシガメが多数みられる場所であったのに、最近ではミシシッピアカミミガメばかりになってしまった」という感想も全国各地から届き、ニホンイシガメの厳しい生存競争の様子が少しずつ明らかになってきました。

次に、大変気がかりな情報ですが、今回の調査でもニホンイシガメと他のカメの交雑個体が見つかっています。

2014年2月13日にさえずり館のセミナーで行った「カメ博士になろう!自然しらべ2013の成果報告」で、矢部隆さん(愛知学泉大学教授、なごや生物多様性センターセンター長、日本カメ自然誌研究会代表)からのお話もありましたが、「普通は生物の種の間は生殖隔離されていて、種間で交配することはありません。ところがニホンイシガメを含むカメの一部は同じ科の中で別属別種のカメと交雑し、繁殖能力を持つ子孫を生み出してしまいます。」「カメは遅延受精の能力を持っており、交尾後メスのカメは体内に精子を貯蔵することができ、その後交尾をしなくてもその精子を使って数年間有精卵を生み続けることができます。したがって、異種間交雑が可能な種をごくわずかの数放したとしても、一度交尾をすれば数年間交雑個体が生産され続ける恐れがあるのです。」とのことでした。

ニホンイシガメは、今まさにクサガメなどの他のカメとの交雑をして、遺伝子汚染されてしまい、種の多様性がなくなる危機にすらあるのです。ニホンイシガメの今後が大変心配です。

クサガメ

クサガメは背中に3本の線を持ったカメで、関東から九州まで、主に平野部の川や池や沼、田んぼなどに広く分布しています。近年、研究者によるDNA調査や文献調査により、江戸時代に中国や韓国から輸入された外来のカメではないかとの研究もあります。

また愛知県などでは、過去にニホンイシガメしか目撃報告がない場所でも、次第にクサガメの分布が広がっているという研究もあります。実際には、近年になり突然、自らの力で分布を広げ出したのではなく、ペットとして飼われていたクサガメがニホンイシガメがたくさんいる場所に捨てられてしまったことが原因で、近年は分布域が広がっているようです。自然しらべでは、カメの総データの約2割、全国から1,313匹のクサガメのデータが寄せられました。

ニホンスッポン

野生のニホンスッポンは臆病なカメで、いつも水底の砂や泥に潜ってくらしています。
たまに公園や神社などで見かけるのは、人に慣れているものかもしれません。私も鎌倉市の鶴岡八幡宮の境内の池などで見かけたことがありますが、池の主のように堂々と大柄な体を日光浴させていました。

自然しらべでニホンスッポンが目撃された場所は、川や池といった水辺が9割以上でした。ニホンスッポンは、写真の手の部分を見ていただくとわかるのですが、他のカメと比べて、水かきが大きくなっており、甲羅もつやつやしていて泳ぎに適した体をしています。

自然しらべでは、見つかったニホンスッポンの総数は他のカメより少ない202匹ですが、川遊びや川の自然観察会、調査の際に、手のひらサイズの子ガメが報告されていました。

ミシシッピアカミミガメ

2014年現在、日本で一番たくさん見られるカメは、外来種のミシシッピアカミミガメです。

こんなに増えてしまった理由は、毎年約200,000匹ものミシシッピアカミミガメの子ガメが「ミドリガメ」としてペット用に海外から輸入されており(環境省の調べ)、その一部が大きくなって飼いきれなくなり、毎年たくさんの数が池や川などの水辺に放たれ続けてしまったことがその理由です。

また、捨てられたカメがさらにその場所で繁殖することで、写真のように爆発的に数を増やしている場所も多くあります。(写真:東京都江東区の神社の池)
さえずり館のカメボランティアの橋場 誠一さんもおっしゃっている通り、『生きものを飼い始めたら、最後まで責任をもって飼い続けて欲しい。』と思います。

最後に、日本自然保護協会では、自然しらべで得られた成果を活用して、提言「カメが生息する自然と生物多様性を守る」を発表して、環境省との意見交換や記者会見を行い、カメを通した、日本の生物多様性の保全に向けた提言を行いました。
詳しくは、カメの報告書をご覧ください。⇒ http://www.nacsj.or.jp/project/ss_top.html

萩原 正朗
萩原 正朗(はぎわら まさあき)

公益財団法人日本自然保護協会 教育普及部 自然しらべ担当
1973年生まれ。企業での勤務を経て、2004年から公益財団法人日本自然保護協会に勤務。2006年より参加型環境教育プログラム「自然しらべ」を担当。
全国各地の参加者の皆さんとともに「しらべた成果」が、自然を守る力になることを目指して、日々努力しています。
公益財団法人日本自然保護協会
環境教育プログラム「自然しらべ」

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