2014/060/03
今年も東京・銀座にツバメが帰って来た。
銀座のツバメはヒットソングに登場するほど有名だったが、今日でもツバメがやって来ることは、案外に知られていない。その数はいたって少ないが、毎年帰って来るのだ。職場が銀座にあったことから、私はこのツバメたちと長年付き合ってきた。都会でたくましく生きるツバメたちと、ツバメをあたたかく迎え入れている、銀座の人々を紹介する。
今年も銀座3丁目の松屋デパートにツバメが帰って来た。4月上旬のことで、ひさしで雄が声高らかに囀っている。雌を待っているのだ。ペアができると早速巣作りにとりかかる。巣材は湿った土と枯草で、全く新しい巣を作る場合は1週間ほどかかるが、古巣を修理する時は3~4日で終わる。銀座ではこの古巣の利用が多いが、巣材をどこから運んでくるかを調べたことがある。
ビルの建て替えで土が露出した工事現場や街路樹の根本、さらに松屋では隣のビルの屋上に残る吹き溜まりの土を運んでいた。道を歩いている私たちには気づかない"土のある空間"があるとは驚いた。
ツバメは2週間の抱卵でヒナがかえる。これから親ツバメは餌運びで忙しくなる。ツバメは飛ぶ虫しか餌にしない自然児だ。銀座には街路樹が多く、虫の供給源となる大緑地の皇居が近いので、銀座で子育てができるのであろう。ツバメは街路樹の表面をなめるように飛び、時には空高く、時には地面すれすれを飛び、巣から200~300mほどの範囲で虫を捕っている。当初、銀座のツバメは皇居まで(銀座から1km弱)餌を探しにいくのかと、想像していたが意外と近い所であった。
銀座での調査によると、親ツバメは1日に300回も餌を運んでいた。それでは餌は何か? 私の所属する都市鳥研究会(1982年設立)のメンバーが調べたところ、圧倒的に羽アリ類が多かった。クロヤマアリ、クロオオアリの大型羽アリの出現時期が、ツバメの子育てと一致しており、羽アリは極めて重要だということが分かった。
銀座では、蛍光灯の上に巣を作ることが多い。ただ、カバーの大きさや角度によって、ヒナが大きくなると、巣ごと落ちてしまうことが多々ある。松屋の東館(南側)では、カバーの巣が落ちたあと、カバーの一部(2か所)を切り水平になるように上に押し上げた。翌春飛来したツバメは、カバーの勾配が少なく、巣が落ちる危険がなくなったこの部分に巣を作り、ヒナが無事に巣立った。人の好意をツバメは理解したようだ。
銀座8丁目のムサシビルでは、昨年巣のあった駐車場の天井が張り替えられた。会社関係者が前年の古巣を捨てず、壁に新たに作った木の巣台の上に置いた。私はこの巣台を見たとき、果たしてツバメが利用するのか半信半疑だったが、今春、飛来したツバメはこの巣に手を加え、早速抱卵に入った。銀座で一番早い産卵だ。この駐車場では2004年から毎年営巣しており、これからも会社の"優しき心"でツバメは守られていくであろう。
調査を始めた1985年には銀座に9カ所あった営巣地が、今年(2014年)は3カ所なった。同じく1985年から行っている都市鳥研究会の東京駅周辺のツバメ調査でも、当初44カ所所あった巣が、2010年には14カ所と激減している。実は、東京だけでなく日本全国の都市は、ツバメにとって生き残れるか絶滅してしまうかの、厳しい環境になっているのだ。
都会のツバメをこれ以上減らさないためにも、多くの人にツバメに関心を持っていただきたく、銀座でのツバメ調査を『銀座のツバメ』(学芸みらい社刊)にまとめた。奇跡的に残った都会のツバメ30年の記録である。この本が都会に生きるツバメたちの将来を考えるきっかけになればと思う。
都市鳥研究会幹事、日本野鳥の会 元東京支部幹事。
銀座にあるの会社に2007年まで勤務する傍ら、職場周辺をフィールドに都会に生きる鳥たちを30年以上観察してきた。とくにツバメとカラスは都市鳥の中でも存在感のある鳥として注目している。
著書に『銀座のツバメ』(2013年7月学芸みらい社発行)
都市鳥研究会