2012/11/20
2011年3月「丸の内」という名がついた純米酒が誕生し、東京丸の内で発売されたのをご存知でしょうか。
この純米酒「丸の内」の誕生のきっかけは、山梨県北杜市増富の耕作放棄となってしまった棚田の開墾から始まります。20年以上も放棄された棚田は、かつては、田ごとに月が映ると、とても美しかったそうですが、現在は、地域が限界集落になり、荒れ果ててしまいました。
この開墾は、三菱地所グループのCSR活動の一環である都市と農村をつなぐ「空と土プロジェクト」として進められました。徐々に復活した棚田では、酒米を栽培し、収穫するまでの期間において、丸の内で働く方々に参加いただき、田植えや稲刈り体験のツアーが行われてきました。そして、その酒米を原料に山梨県の酒蔵萬屋醸造店にて醸造を行い、純米酒「丸の内」が誕生しました。こうした都市と農村の連携の中で誕生した純米酒「丸の内」は、その後、東京丸の内の飲食店などで販売したところ発売後、約1か月間で、在庫がなくなるほどの人気となりました。
現在もこのプロジェクトは、私が代表を務める「NPO法人えがおつなげて(2001年、都市と農村の交流を通して、都市と農村の共生社会を目指して設立されたNPO法人)」と、三菱地所グループが連携して進められています。
私は、日本の田舎の資源は宝だと思っています。世界の先進国の中で、第2位の森林率を誇る日本。しかし残念ながら、日本の森林の資源は有効に活用されていません。
農地資源も同様です。今や、東京都2個分の面積とほぼ同じ約40万ヘクタールにもなってしまった日本の耕作放棄地。さらに、地球10周分もある農業用水路。昔から日本では、水田に引くための農業用水路を作ってきました。その全延長距離は、なんと地球10周分もあるのです。昨年の原発事故以来、急激に注目されるようになった太陽光発電、風力発電、小水力発電などの自然エネルギー。小水力発電を行うには、この農業用水路は、とても重要な資源となることでしょう。その他、過疎化などの影響で、誰も住まなくなってしまった地方の空き家が、数100万戸あります。今、都会では田舎暮らしが注目されています。この農家の空き家などを自分たちで改修して、暮らすことに人気が集まっているのです。
これら日本にある膨大な眠れる農村資源を有効活用すれば、都市も農村も心豊かに暮らせるようになると思っています。また、これらの農村資源を活用すれば、私は合計10兆円の産業と100万人の雇用創出が可能だと考えています。この10兆円構想を産業領域別にみると、以下のようになります。
●「6次産業化」による農業(3兆円)
●農村での観光交流(2兆円)
●森林資源の林業、建築、不動産等への活用。(2兆円)
●農村にある自然エネルギー(2兆円)
●ソフト産業:情報、教育、IT、メディア、健康、福祉等の連携(1兆円)
にわかには信じられないかもしれません。
しかし、先にご紹介しました日本の眠れる農村資源のものすごさに気づかれたら、きっと頷かれることでしょう。さらに、その可能性に心を揺さぶられることと思います。先にご紹介しました人気の純米酒「丸の内」も、耕作放棄地だった農地に酒米を栽培したことが始まりで、開発されたものです。未活用だった資源に付加価値を付けることで、新たな道が開かれたのです。私は、こんな小さな道の積み重ねから、新しい大きな道が切り開かれてくると思っています。ぜひ、みなさんも、日本の田舎の宝の資源にご注目いただければ、とても嬉しいです。
長野県出身。明治大学政治経済学部卒業後、金融機関等企業経営の経営コンサルタントを経て、現職。銀行などの経営指導を通して日本の未来に危機を感じ、その救済モデルを創造すべく、東京から山梨の農山村地域へ移住。都市と農村の共生社会の実現を目指すNPO法人えがおつなげてを設立。
NPO法人えがおつなげて 代表理事 / 山梨県立農業大学校講師 / 内閣府地域活性化伝道師
〈著作〉「日本の田舎は宝の山」「農村起業家になる」(日本経済新聞出版社) / 「田舎の宝を掘り起こせ」(学芸出版社)
NPO法人えがおつなげて
「日本の田舎は宝の山」「農村起業家になる」(日本経済新聞出版社)
「田舎の宝を掘り起こせ」(学芸出版社)