シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

「見つける、見分ける、見守る」ことができる図鑑作りを目指して

野鳥観察の必需品、野鳥図鑑。その特性を知る。

野鳥図鑑は 写真を使った図鑑、イラストを使った図鑑、写真とイラストが併載されている図鑑とさまざまなものがあります。
皆さんのお好み図鑑、すでにお使いの図鑑は、どのタイプでしょうか。

写真図鑑は、鳥の生息環境も一緒に写るため、その写真と似た自然環境を探し出すことで、目的の鳥を見つけやすくなります。また、野生の鳥を撮影しているので、写真そのものに臨場感があります。ただ、野外での撮影は、撮影する鳥の向き、陽射しの条件などが1枚1枚異なるので、すべての鳥を同じ条件では写すことができません。

そのため図鑑に掲載される写真に統一感を出せず、また、識別ポイントの部分が不鮮明に写っていた場合は、解説文から識別ポイントを読み込む必要がでてきます。

では、イラストの図鑑はどうでしょう。

同じグループの鳥は同じページに同縮尺でまとめ、向きも揃えて描くので、それぞれの鳥の違いを比較しやすいのが大きな特徴です。何人かの画家が分担している図鑑でも、同じページに掲載される鳥は一人の画家が担当することが多いため、絵のタッチや、色のトーンが統一されていて見やすいという一面もあります。

また、識別ポイントとなる顕著な特徴も描きこめるため、イラストを見るだけで素早く識別ができることもフィールドでは役に立つところでしょう。図鑑によっては観察ポイントをわかりやすく「→」等で強調しているものもあり、似たような鳥同士のわずかな違いを目で知り、覚えることで識別眼が鍛えられることもあります。

これらの図鑑には、それぞれに特徴があるので、良し悪しを決める必要はありません。できれば、お気に入りの図鑑を時間をかけて揃え、フィールドではこの図鑑、家ではこの図鑑というように、臨機応変に使い分けて、より楽しくバードウォッチングを楽しんで頂きたいと思います。

よい図鑑との出会いが、鳥との関係を豊かにしてくれる

私が鳥を観はじめた当時、日本ではフィールドで使えるような図鑑がなく、本をめくるたびに混乱したものでした。海外の優れた図鑑を見るたびに、日本にも早く、識別に迷わない図鑑ができないものかと待ち望んでいました。ですから、昭和40年、日本鳥類保護連盟から高野伸二さんが著した「野外鳥類図鑑」が出版され、一目見た時の驚きと感動は今でも鮮明に覚えています。

高野さんは画家ではありませんが、優れた観察者でした。鳥の形態、生態について詳細に調べ、自分の目で感じ取ったとおりに描かれており、とてもわかりやすく、読み進むうちに今までの謎が解けていくことで本が輝いてみえました。発行部数の少ない図鑑ではありましたが、私の鳥の師匠でもある佐渡のトキの保護に邁進された近辻宏帰さんが、手に入れてきてくれました。もし、この本に出会えていなければ、私の野鳥観察人生はなかったと言っても、過言ではありません。

使いやすい図鑑とは、初心者から有識者までの幅広い層が、迷うことなく鳥を識別できる図鑑だと思っています。多くの方に親しまれ、使われていけば、記載事項にも追記する部分がおのずと出てきます。そこを取りこんで改訂していける図鑑こそが、良い図鑑、長く使われる図鑑で、これからも多くこのような図鑑が世の中に出版されることを願ってやみません。

手描きにこだわる理由

野鳥図鑑画家として、日本だけでなく、台湾、韓国、モンゴル、アジア全域の水鳥と様々な国の鳥を描いてきました。コンピューターグラフィックスの全盛期、私は筆と絵の具を使って紙に鳥を描き続けています。これは、敬愛する藪内正幸さんが高野伸二さんにレクチャーし、高野さんから私に教えていただいた手法だから、その技を引き継ぎたい思いと、私自身の鳥に対する想いが、筆の先に伝わると考えているからです。

単に、パソコンが苦手な、アナログ人間ということもありますが…。
私の場合、一冊まるごと描かせていただくことがほとんどなので、プレッシャーもありますが、できあがった時の喜びの大きさがあるので、全てをプラスに考えて制作に臨むことができます。

国内のフィールドやイベント会場で、みなさまに「使っていますよ!」とお声をいただくと、とても心が弾みます。また、台湾野鳥図鑑が出版されたことにより、バードウオッチング人口が15年で15倍にも増え保護活動につながっているとか、内戦の続くカンボジアでアジア水鳥図鑑をもった研究者が保護に邁進しているといった話しを聞くと、自分の描いた野鳥たちがお役にたっていることに少し誇らしい気持ちになり、いま抱えている図鑑の仕事もがんばろうと思えるのです。

野鳥図鑑のイラストを描き始め、40年の歳月が経ちました。若い時分、「この本は私が描いたのです」と話しをすると、「え?お若い方だったのですね!」と驚かれ、悦に入っていました。還暦もとうに過ぎた今日、懐かしい思い出の一コマにしかありません。

これまでの経験を活かし、年齢を感じさせることのないようにと自戒し、「見つける、見分ける、見守る」ことのできる図鑑作りを目指し、これからも筆を握っていきます。

書店で図鑑をみかけた時に、作り手の思いを感じていただければ幸いです。

谷口 高司
谷口 高司(たにぐち たかし)

1947年東京都杉並区生まれ 早大卒
元日本野鳥の会評議員
日本野鳥の会発足の地、善福寺池で幼少より過ごす。野鳥図鑑を一冊まるごと描くイラストレーターとして国内外で活躍。米国スミソニアン自然史博物館より日本人初の指名発注を受ける。日本野鳥の会編「新 山野の鳥」「新 水辺の鳥」はロングセラー図鑑として知られる。「台湾野鳥図鑑」「アジア水鳥図鑑」「原色野外図鑑韓国の鳥類」「新"タマゴ式"鳥絵塾」など著書は30余冊。
銀座・芦屋・吉祥寺など各地で個展を開催する傍ら、ジャパンバードフェスティバル・かんさい自然フェスタ等で「"タマゴ式"鳥絵塾」を開催、野鳥イラストを通し広く環境保護を訴えている。

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