シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

マクロレンズ「的」な視点をもとう

どんなに文明が発達しようと決してなくならないのは、人が自然とふれあうことでいやされる気持ちではないでしょうか。むしろ、周りが人工的なもの、機械的な動きになればなるほど、自然の持っている不思議なパワーに心が和むものです。

マクロレンズの視点で自然をみてみよう

下の3枚の写真は、左から「人間の目線で普通に見た時」「ちょっと近づいて意識的に見た時」「マクロレンズで写した花」です。

いつもの目線の高さで、ただ何となく目に入った光景を見ているだけでは決して気づかない、自然そのものが持っている美しさ、楽しさ、おもしろさというものは、このマクロレンズのように「意識的」に自分から前向きにならないと見過ごしてしまうものです。

満開のサクラの木を見て「あぁ、きれいだなぁ」と思うのは当たり前。
でも、自然の魅力は、そういう誰もが感じる感動的な場面ではなくても、一年中毎日素材はあると言っても過言ではありません。

その一つの例としてマクロレンズを挙げました。3枚目の写真は思わず息を飲むという表現をしてもよいくらい幻想的で、すてきな世界を見せてくれています。マクロレンズという機材を通しているとはいえ、自然が作り上げた神秘的な世界を楽しむことができます。裸眼でも花に顔をぐっと近づけてみれば、これに似た姿を見ることもできます。

毎日がマクロレンズ

私がある小学校に「自然体験活動」のプログラム講師として出かけた時にこういう話がありました。そこの小学校は都会のど真ん中、大きなターミナル駅から歩いて5分というところにあり、校庭にはサクラとカエデの木しかないという環境でした。開口一番、校長先生は「うちの学校には自然がまったくないのですが、こんなところでも自然体験ができるのでしょうか」と話し出しました。

確かに「自然が豊か」とは決して言えたものではありませんが、「大丈夫です。自然があるかないかは、量ではなく人の感じ方なのですから」と私は答えました。

量だけで言えば、サクラが1本、そのとなりにカエデが一本。樹木と呼ばれるのはそれだけで、あとは壁伝いに小さな池やプランターが並んでいるだけ。「ある」か「ない」かと言われれば「ない」に等しい自然環境ですが、だから自然を楽しめないかというとそんなことはありません。

そこで登場するのが、私が勤めています団体のプログラムで「ネイチャーゲーム」という自然体験活動の手法です。

もともとアメリカで考案された「シェアリングネイチャー(自然をわかちあう)プログラム」を日本に持って来てそろそろ30年がたちますので、名前だけは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。

このネイチャーゲームは、自然の見方、接し方をゲームという方法で体験することで、今までとは違った感じ方を得られるという環境教育の手法です。
現在170ほどのメニューがあるのですが、その中から、自然が作り上げた形を探す〈フィールドパターン〉という活動をご紹介しましょう。

自然の形を楽しく探す

これは、カードに○や△などの形がプリントされていて、自然の中からこの形のものを探してみようというゲームです。
カードを渡された時は、簡単に見つかりそうだと思うものから、こんな形あるのかと思うものまでいろいろですが、数人のグループ単位で探し始めると、あっちこっちで見つかるものです。

「今までこの木をこんな形では見たことなどないのに、そう言われてみればこの形だよ」とか「ここがこんな形になっていたなんて、さんざん見ていたのに知らなかった」という驚きがゲーム中にいくつも感じられるものです。

先の事例で出しました小学校の校庭でやれば、1本のサクラの木のこの部分でW、顔を近づけてよく見ないと見えないような小さな部分がハートだったりと、実にたくさんの表情が見つかったものでした。

こうして1枚のカードをもとに15分の、いつも見慣れた自然物を改めてじっくりゆっくり見てみるだけで発見がたくさんあります。
この活動を終えた時には、今まで表面的にだけしか見えていなかった世界が一気に広がったのは言うまでもありません。

ネイチャーゲームで自然の見方感じ方接し方が変わりましたという感想は、やる度にいつもいただく参加者からの声ですが、それは今まで見たことのないような自然の魅力的な姿を感じること…すなわち「マクロレンズで自然を見るようなもの」だと私は思っています。

ふだんから自分の意識や目線をマクロレンズにしているだけで、いつもの通勤途中の風景が違って見えたり、季節をより感じることができたりということができるのではないでしょうか。

山口 哲也
山口 哲也(やまぐち てつや)

公益社団法人日本シェアリングネイチャー協会職員。
担当は、研修セミナーの企画・運営。幼稚園や小学校への児童向け出前ネイチャーゲーム体験会や教員研修・保護者向け講演など日本全国どこにでも出かけます。自然の物をすぐ拾ってコレクションするクセがあり、日本にある22種のドングリを集めて「日本どんぐり実物大図鑑」も作りました。
公益社団法人日本シェアリングネイチャー協会

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