シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

私たちに眠る星の記憶

私たちの身の回りにある全ての元素は、星の中からやってきました。星の中ではいったいなにが起こっているのでしょうか。

われは星の子

寝苦しい夜が続く夏の夜。ぼーっと横になっていても、なかなか眠りに落ちない。そんなときには、ぜひ宇宙的な事を考えてみてはいかがでしょう。宇宙に果てはあるのか、宇宙の始まりとはどんなものか、宇宙が始まる前はいったいどうなっていたのか。ちょっと間違えると危ない世界に行ってしまいそうな魅力的なテーマが、宇宙には満載です。その中でもお勧めはこれ。私たちはいったいどこから来たのか。

単純に時間を遡ってみましょう。私たちはみな、母親から生まれてきました。母親も当然、祖母から生まれてきたはずです。そして、祖母は曾祖母から、曾祖母は高祖母から…と、どんどん遡っていけば、間をかなりすっ飛ばしますが、30億年以上前の地球のどこかで、最初に動き始めた生命へと必ずたどり着けるはずです。その最初の生命も、なにもないところから生まれたわけではありません。さまざまな元素からなる、複雑な分子がたくさん集まってできたのです。では、それらの元素はいったいどこからやってきたのでしょうか?

実は、宇宙が始まった時には、私たちの身の回りにあるようなさまざまな元素は存在していませんでした。あったのは、水素とヘリウム、そして僅かな量のリチウムやベリリウムだけ。鉄や金、銀などの身近な金属や、生き物を形作る基本元素の炭素や酸素などは、全く無かったのです。ナッシング。これらの元素は、どのようにして宇宙の中に登場してきたのでしょうか。

宇宙の錬金術

先に結論から言えば、これらの元素は全て星の中で作られてきたのです。初めから宇宙にあった水素やヘリウムを材料とし、星という巨大な核融合炉で合成されたのが、私たちの身の回りにある元素たちなのです。

星は、水素とヘリウムを主成分とするガスの雲から生まれます。高温高圧になった星の中心部では水素による核融合反応が始まり、膨大なエネルギーが産み出されます。これが星が輝くエネルギーの源です。この核融合反応によって、水素はヘリウムへと変化します。

星の中心部では、少しずつ少しずつ水素の量が減っていき、水素が化けたヘリウムが増えていきます。そして、中心部に水素がなくなると、今度はヘリウムの核融合反応が始まります。太陽よりもずっと重い星では、ヘリウムが尽きたら炭素が、炭素が尽きたらネオンが、ネオンが尽きたら酸素が…と次々と核融合反応が起こり、最終的には放射性のニッケル(崩壊して鉄に変化)を作って、星の中での核融合反応を停止します。この後、星は不安定な状態となり、超新星爆発を起こして吹き飛びます。

鉄よりも重い元素は、この超新星爆発の瞬間に一気に作られます。金、銀、銅などの身近な元素はもちろん、ずっと重い元素まで、元素周期表で鉄よりも先に存在する元素は超新星爆発の際に作られます。猛烈な勢いで宇宙空間に吹き飛んだ元素は、また次の星を作る材料となります。私たちの太陽系もまた、こうやって吹き飛んだ星から回収した元素を材料にできており、それが私たちの身近にあるさまざまな物質を形作っているのです。

私たちの身体に含まれる元素も、夜空に輝く星々の中にいた時があったのです。いま、この瞬間にも、宇宙のどこかでは星が弾け飛んで、宇宙にさまざまな元素を散らしているはずです。いつの日か、それらの元素が集まり、また新しい生命として誕生するかもしれない。そんな事に想いを馳せれば、きっと寝苦しい夜も少し変わるはず。ぜひお試しを。

※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」7月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
内藤 誠一郎(ないとう せいいちろう)

東京大学大学院にて電波天文学を学び、野辺山やチリの望遠鏡を用いて分子雲進化と星形成過程の研究を行う。
国立天文台では研究成果を利用する人材養成や地域科学コミュニケーションに携わり、2012年からは現職で広く学術領域と社会とのコミュニケーション促進に取り組む。修士(理学)。日本天文学会、天文教育普及研究会会員。東京都出身。
自然科学研究機構 国立天文台 広報普及員
(社)学術コミュニケーション支援機構 事務局長
天文学普及プロジェクト「天プラ」 プロジェクト・コーディネータ

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