2012/10/09
銀河では日々星が産まれ、死んでいきます。そのバランスによって、銀河の高齢化や若齢化が進むことになります。そのバランスは、いったいなにで決まってくるのでしょうか。
最近、テレビや新聞では、少子化・高齢化に関するニュースをよく見かけます。みんなで知恵を出し合って、必要なところは改善し、プラスの側面はどんどん活用していけるようにしたいですね。この課題は、もはや日本だけの課題ではありません。世界中のさまざまな地域や国で、同様の課題に直面しつつあります。日本というローカルな課題だけでなく、グローバルな課題になりつつあると言えるでしょう。しかし、実はユニバーサルにも、少子化・高齢化は大事な課題になっているのです。
私たちが太陽のような恒星がおよそ1,000億個も集まった銀河系の中に住んでいる事は、ご存じの方も多いかと思います。この星々は、最初から宇宙にあったわけではなく、長い長い宇宙の歴史の中のどこかのタイミングで産まれてきたのです。産まれてきたからには、死ぬこともあります。私たちの人間の寿命と比べると天文学的に長い時間(例えば太陽はおよそ100億年の寿命)ではありますが、とにかく死ぬのです。
銀河のような星の大集団の中では、常に星の誕生と死が繰り返されているのです。
この星の誕生と死のバランスは、銀河によってさまざまです。星が続々と生まれている銀河では、高齢化ならぬ若齢化が進みます。逆に、新しい星の誕生が止まって少子化が進めば、銀河はただ高齢化していくばかりです。このバランスは、いったいなにによって決まってくるのでしょうか。特に、星の出生率は、なにが左右しているのでしょうか。
結論から言えば、詳細はまだよくわかっていません。なにせ宇宙の研究ですから、奥が深い。しかし、結論を導くための方法論は提案されています。そのうちのひとつが、さまざまな銀河におけるKennicutt-Schmidt Law(ケニカット-シュミット則)を調べるやり方です。1年間に単位面積あたりで星がどれほど誕生するのかという「星形成率」と、星の材料となるガスの単位面積あたりの「密度」の関係を、ケニカット-シュミット則と呼びます。この関係は、実は星がどういうメカニズムで誕生するのかという事と、密接に関係があることが理論的研究から予想されています。従って、銀河においてどのようなケニカット-シュミット則が成り立っているのを調べると、その銀河でどのようなメカニズムで星が誕生しているのか、推測することが出来るのです。
おお、便利!
ケニカット-シュミット則を調べるためには、なんらかの方法を使って星形成率とガスの密度を調べなくてはいけません。例えば、ガスの密度は、ガスが放つ電波の強さを調べることでわかります。ガスの中に含まれる一酸化炭素など、特徴的な電波を出す分子をターゲットとして観測することで、ガスの密度などの物理情報を知ることができるのです。ひとつひとつの銀河を細かく分解して、それぞれの領域の星形成率とガス密度を調べていく、そんな地道な研究の積み重ねが行われているのです。
星の誕生の秘密を読み解き、銀河の運命を知ること。もちろん簡単ではありませんが、着実に研究は進んでいます。私たちはどんな物語を知ることになるのか、今後の研究成果に期待しましょう。
※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」9月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。