シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

太陽系は"ふつう"?

あなたはふつうですか?それとも、めっちゃ変わった人ですか?たくさんのサンプルを集めてくると、それがわかるというお話しです。

ふつうを知るのはたいへんだ

皆さんは、自分は"ふつう"だと思いますか?それとも、周囲に比べてちょっと変わってますか?はたまた、金のエンゼル並にレアな人でしょうか?

全体の中での自分の立ち位置を知るのは、簡単ではありません。自分はふつうでありたい、あるいは特別でありたいといった類の思いこみは、簡単に私たちの認識を惑わせます。周りとの比較をしても、見ている範囲が狭ければあまり意味がありません。丸の内では"ふつう"に思えても、原宿に行けば浮いているかも知れません。東京で"ふつう"であっても、沖縄ではそうではないかもしれませんし、ましてや海外に行けばなおさらです。グローバル・スタンダード、もとい、ユニバーサル・スタンダードを知るためには、広く宇宙に目を向けなくてはいけないのです。

私たちの住む太陽系について、同じ事が言えます。太陽から順番に、水金地火木土天海と並ぶ太陽系の惑星たち。はたして、太陽系はユニバーサル・スタンダードな世界なのでしょうか。それとも、まったくもってユニークな存在なのでしょうか。その答えを知る手がかりとなる太陽系外惑星(太陽系以外の惑星)が、続々と発見されつつあります。

惑星形成論のルネッサンス

最初に太陽系外惑星が発見されたのは、1995年のこと。意外と最近の話です。ペガスス座にある51番星の周りを巡る、「ペガスス座51番星b」と命名されたこの惑星は、大きな驚きをもって迎え入れられました。木星ほどもある巨大な惑星が、わずか4.2日という公転周期で、主星の周りを巡っていたのです。主星からの距離はたったの800万キロメートル。太陽系に置き換えるなら、太陽のもっとも近くを巡る水星よりもずっと近い距離を、木星サイズの巨大な惑星が巡っている。そんな変な惑星だったのです。同じような惑星はその後も続々と見つかり、ホット・ジュピター(熱い木星)と呼ばれるようになりました。

その後、太陽系外惑星探しは急激に進みます。現在までに太陽系外惑星と確定したものでも700個弱、未確定のものまで含めると3000個もの候補天体が発見されているのです。たくさんの太陽系外惑星が発見されたことで、だんだんと惑星の世界の多様性が見えてきました。例をいくつかご紹介しましょう。

大きく歪んだ楕円軌道を持つ「エキセントリック・プラネット」、ふたつ以上からなる連星の周りを巡る惑星系や太陽系でいうところの冥王星よりも遙かに離れたところを巡る巨大な惑星。さらには、主星を持たず、ひとり銀河系の中を漂う浮遊惑星など、どれもがこれまでの太陽系の常識を越えたものばかりです。これらの発見は、太陽系を唯一の観測例として構築されてきた惑星形成論に大きな見直しを迫っています。なんせ、変なものが続々と発見されていて、そのどれもが旧来の惑星形成論では説明がつかないものばかりなのです。これは楽しい。

いま、太陽系外惑星の研究は、天文学の中でもっとも勢いがある分野のひとつです。天文学史上に残る、幸せな時代がスタートしていると言っても良いかも知れません。さまざまな太陽系外惑星の発見は、新たな惑星形成論の誕生を促します。私たちが惑星の誕生について深く理解した時に、太陽系が"ふつう"であったのか、特別であったのか、その答えがわかるでしょう。その日が待ち遠しいものです。

※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」11月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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