2013/01/08
宇宙誕生からの数億年間は、私たち人類がまだ見た事がない時代。最初の星や銀河がどのように誕生してきたのか、研究が進められています。
皆様、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いします。
お正月は、私にとっては自分が大人になったことを否応なく意識する機会のひとつ。親族の子どもと会ったりすると、大人っぽい態度で、大人っぽい事を言ったりして、なんだか変な気分です。偉そうな事を言ってみても、自分の成長過程はよく知っていますから、なんだか恥ずかしい感じです。そう、人には必ず、他の人からは見えにくい、暗黒の歴史があるのです。…みなさんにもありますよね?
それは宇宙の歴史も一緒。たくさんの銀河が散らばり、星々が光輝く現在の立派な宇宙になるまでに、いろいろな出来事があったのです。幸いな事に、宇宙についてはみんなで寄ってたかって歴史を暴こうとしているので、たくさんの事がわかってきてはいますが、いまだにほとんどわかっていない時代があるのです。そう、宇宙の暗黒時代と呼ばれる、誕生直後の黎明期についてです。
宇宙の現在の年齢は137億歳ですが、今から132億年前、つまり宇宙誕生後から5億年後には既に銀河が誕生していることがわかっています。しかし、その前がわからない。いろいろわからないことだらけなのですが、そもそも最初の星がいつ生まれたのかがわからない。宇宙誕生時に星がなかった事は確実なので、最初の5億年のうちのどこかのタイミングで、宇宙で最初の星、ファーストスターが誕生したのは確かなのです。ぜひそれを知りたい!この宇宙の一番星については、理論的研究から、太陽の40倍程度の重さをもった巨大な星であったことが予想されています。重い重いこの星は、紫外線を中心に強烈に輝く明るい星であったと考えられています。しかし、残念ながら私たち人類はその姿を捉える事には未だに成功していません。世界最高性能の望遠鏡をもってしても、一番星の姿を捉えるには力不足なのです。
しかし、天文学者もさるもの。ひとつの星が放つ光は捕らえられなくとも、星の集団が放つ光ならば捉えられるはず。遠くの森の木の一本一本を見分ける事はできませんが、全体として見れば、森が緑色に見えるのと同じ理屈です。第一世代星が放つ紫外線は、宇宙膨張の効果によって、地球に届く頃にはちょうど赤外線の波長域まで引き延ばされています。赤外線で観測すれば、ひとつひとつの星は見えずとも、全体として宇宙全体がぼうっと光っている様子を見ることができるはずです。
このように初期宇宙に起源を求められる赤外線を、宇宙赤外線背景放射と呼びます。この強さを正確に測ることは、ファーストスターの研究にとって欠かせません。しかし、その測定が難しい。地球大気は赤外線大気の大敵ですし、太陽系内には赤外線を出す塵がわんさかいます。これらの困難にひとつひとつ対応しながら、観測を進めなくてはなりません。日本の研究グループでは、赤外線観測衛星「あかり」や、専用の観測装置を搭載した小型ロケット等を活用しながら、世界をリードする成果を挙げつつあります。遠くない未来に、ファーストスターに関する理解が進み、暗黒時代に光が差す日が来ることを期待しましょう。
※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」12月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。