シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

近くて遠い星

私たちの誰もが知っている太陽。あまりに身近にあるがゆえに、その真の姿は意外と知られていません。最新の観測によって、どのような太陽の姿が見えてきているのでしょうか。

近くて遠い星、太陽

少しずつ、丸の内でも春らしさを感じる日が増えてきました。三寒四温の言葉の通り、寒さと暖かさが交互にやってくるのも、春への兆し。3月には春分も迎え、長かった冬にもお別れです。
今年の冬はいろいろありました。全国的には記録的な寒波が来襲し、都心でも大雪に見舞われた事もありました。記憶に残る、印象深い冬になったかと思います。
こういう事が起こると「地球では異常気象が起きているの?」と気になる方も少なくないと思いますが、気象学者によれば、特別な事が起きているわけではないようです。ご安心を。ただ、気候システムは複雑系。モデルもまだまだ不十分ですし、モデルを裏付けるデータ収集のための観測網も十分ではありません。

そして、なによりわかっていないのが太陽との関係です。太陽活動が地球システムに大きな影響を与えているのは当然としても、具体的にどういったメカニズムが存在するのか。大雑把なところはわかっても、細かいところについての研究はこれからです。
でも、そんな難しいことじゃなくとも、太陽の事は意外と知られていません。ちょっとイメージしてみて下さい。太陽の色は何色でしたっけ?赤?黄色?オレンジ?大きさは?重さは?太陽の温度って?そもそもなんで光っているんでしたっけ?

私たちの住む太陽系の主である太陽ですが、意外と知らないものです。まあ、地球だってわかんないことだらけですし、自分自身の事だってきちんと説明できないくらいですから、別に良いと言えば良いんですけどね。でも、いつの日か、我々の子孫が銀河系に旅立って宇宙人に出会った時に困るはずです。「で、君たちのところの太陽って、どんな星なん?」おお、備えねば!

明らかになる太陽の姿

太陽は、私たちにとってもっとも身近にある恒星です。ずっと昔から太陽についての研究は進められ、私たちは太陽から多くの事を教えてもらってきました。しかし、まだまだ理解が進んでいない謎も数多く残されています。例えばコロナ加熱問題。太陽表面の上空にあるガス、「コロナ」は温度がおよそ数百万度。しかし、太陽の表面の温度は6,000度。どうやってコロナは暖められているのか。うーん、謎です。

謎を解く鍵のひとつは、高エネルギーの電磁波での観測です。例えばエックス線など、地球大気によって地表には到達しない種類の電磁波は、宇宙空間に出て観測する必要があります。日本の誇る太陽観測衛星「ひので」には、エックス線を観測するための専用の装置が積まれており、詳細なデータを得る事に成功しています。

ひのでの活躍によって、多くの事が新しく分かってきましたが、ゴールはまだまだ先にあります。いま、次世代の太陽観測衛星の開発に向けて、新しい観測装置の開発が進められています。これまでにまだ観測を行った事がない電磁波で太陽を見たらどうなるのか?もっと細かい部分まで太陽を見たら、なにが見えてくるのか?太陽から教えてもらう事はまだまだたくさん残されています。今後の太陽研究に期待しましょう。

※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」2月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

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