2013/04/02
超新星は星が爆発した現象だと信じられています。しかし、肝心の爆発前の天体を見つけるのが難しく、天文学者はみんな、出来る事なら目の前で爆発して欲しいと切に願っています。そんなお話です。
4月は入学の季節。日々の通勤の途中でも、あちこちで初々しい学生さんを見かけます。皆さんの周りでも、新人さんが新たに仲間に加わっていたりすることでしょう。春はそういった、出会いの季節でもあります。
昨今はゆとり教育の弊害も叫ばれてもいますが、実に優秀な新人さんも少なくありません。英語どころか中国語もぺらぺらだったり、自分でがんがんプロジェクトを進めたり、実に堂々とした立ち振る舞いであったり。いや、どういう育ち方をしたらそうなれるのか。じっと手を見てしまいます。
どんな人が、どんな環境で育つと、そういうスーパーな新人さんになるのか。早期教育だ、家庭での教育だ、優秀な友人だ、といろいろな事が言われていますが、なにが正解なのかを知るには、実際にその人がどのような育ち方をしたのか、遡って知る事ができれば良いはずです。
天文学の世界でも、これと全く同じ構図なのが超新星。
ある日、夜空に突然現れる星を昔から「新星(nova)」と呼んでいましたが、その中でも際だって明るいものが超新星です。昔から記録が残されており、有名なところでは、藤原定家の日記(「名月記」)に平安人が目撃した超新星の様子が描かれています。
その正体は長らくわかっていませんでした。これが、星の最期の大爆発である事を言い当てたのは、スイス人の天文学者ツビッキー(Zwicky)です。1934年に、同僚の天文学者バーデ(Baade)と共に発表した論文で提案したのが初めてです。超新星の正体が星の死だと言われ始めてから、まだ100年も経っていないのです。
その後、ツビッキーらの努力もあり、いまでは6,000個を超える超新星が見つかっていますが、まだまだわからないことだらけ。その事をちょっとご紹介しましょう。
たくさんの超新星が見つかってきて分かった事は、超新星からの光(スペクトル)を分析すると、その特徴から何種類かに分ける事ができるということです。図1は、超新星の分類を示したものですが、水素を含まずケイ素を含んだものがIa型、水素もケイ素も含まないものがIb/c型、水素を含むものがII型と呼ばれています。また、II型は光度曲線(爆発後の明るさの変化)の特徴によって、IIL型とIIP型に分ける事ができます。
このように分類できるのは、爆発している天体の種類に対応していると考えられています。太陽程度の重さのなれの果てである白色矮星が特殊な条件下で爆発する炭素核爆発型超新星がIa型、太陽よりもずっと重い星が一生の最期に爆発する重力崩壊型超新星が、Ib/c型やII型に相当していると考えられています。理論に従えば、これで多くの観測的事実を説明できるので、広く受け入れられている基本的な考え方となっています。
しかし、この考え方を決定づける大事なピースが見つかっていないのです。そう、爆発前の天体です。重い星が爆発して超新星になるというのであれば、それは具体的にどんな星であるのか。超新星はたくさん見つかっているのですが、爆発前の天体も合わせてわかっている例は両手で数えるほどに過ぎません。本当に天文学者たちが考えているようなモデルで超新星は説明が出来るのか、まだ検証は十分ではないのです。
なかなか発見できない理由は、超新星に比べるとその爆発前の天体が相対的に暗い事が挙げられます。重力崩壊型の超新星の場合には、爆発前の天体は重い星だと考えられているので、太陽などに比べればずっと明るいのですが、超新星に比べれば圧倒的に暗いのです(典型的な超新星の明るさは太陽の数十億倍~数百億倍程度)。超新星が発見できても爆発前の天体が見つからないのは、そういった観測上の制約も関係しています。
私たちの住む銀河系の中にも、この星はきっとそのうち超新星爆発を起こすのでは?と考えられている天体がいくつもあります。こういった天体が爆発してくれれば、超新星の理論を裏付ける決定的な証拠のひとつとなることでしょう。時間を遡って調べる事が難しければ、育っていく過程をじっくり見たい。私たちがいつの日か、劇的な超新星爆発の瞬間を目撃する日を楽しみにしたいと思います。
※本コラムは、「まるのうち宇宙塾」3月の講演を参考に執筆しました。
1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。