シリーズ知恵ブクロウ&生きものハンドブック

宇宙の見えないものを見る

宇宙にある物質のほとんどは、自ら光を放たず、目立たぬものです。そのような天体を観測する時に活躍するのが、電波望遠鏡です。

アイドルは星なり

世の中、アイドルばやりです。私が高校生の頃にも、アイドル大好きな友人は、聞いたこともないアイドルに熱を上げて、今日は神保町だ、明日は秋葉原だとグッズあさりの旅に出ていたことを思い出します。当時はネットも十分に普及しておらず、そういったマイナーなアイドルを追っかけるのはたいへんだったみたいですが、そこが逆にディープな愛を感じるポイントだったんでしょうね。でも、等身大パネルをそんなに収集してどうするの!

さて、最近はやりのアイドルグループを眺めていると、彼女/彼らはまさに星のごとし。よーく注意して探さないと気づかないようなマイナーなところからはじまって、やがてだんだんとグループとして名前が売れ初め、そしてあるとき燦然と輝き出す。しばらくすると、グループを離れて独り立ちするものも現れ、その後は華々しく引退したり、あるいは息の長いアイドルとなって社会に溶け込むあたりが、そっくりだと言えなくもありません。

有名になってからは、特に意識せずともさまざまなメディアを通じて露出するので勝手に目に入ってきますが、マイナーな時代から追いかけようと思ったら、冒頭の友人のごとくそれなりに気合いを入れないとその存在にすら気がつけないでしょう。

宇宙もまったく一緒です(ああ、怒られそう)。自分でがんがん光(可視光)を放つ天体を見つけるのは簡単ですが、ほとんどなにもエネルギーを放っていないような、可視光ではさっぱり見えない天体を探し出して、その詳細を調べ上げるにはそれなりの工夫と努力が必要なのです。

見えないものを見る

見えないものを見るための代表的な手段のひとつは、電波です。電波は、私たちが目にする可視光と同じ電磁波の仲間で、一般的に波長が0.1ミリメートルよりも長いものを指します。可視光が温度の高い天体から放たれているのに対して、電波は主に温度の低いガスや高速で動く電子などからやってきます。例えば星のゆりかごであるガスの雲などは、電波を使ってはじめて詳しく調べることができるのです。宇宙にあるさまざまな原子や分子は、それぞれに固有の電波を出しているため、ラジオでチューニングしてさまざまな放送局の番組を聞くように、いろいろな波長の電波を調べることで天体のさまざまな情報を得ることができます。

電波で天体を観測するときの難しさは、天体が放つ電波は非常に微弱な事です。皆さんがお使いの携帯電話を月に置いてきたとしたら、太陽に次いで夜空で2番目に強い電波源として観測できることでしょう。それくらい、天体が放つ電波はかすかなのです。この微弱な電波を捉え、詳しく研究するためには、先端技術の粋を集めた電波望遠鏡が欠かせません。

日本は、電波天文学で世界をリードする国のひとつです。野辺山の宇宙電波観測所をはじめ、連綿と続く電波天文学の伝統があります。その最先端にあるのが、アルマ望遠鏡です。日米欧等20カ国の国際協力によって、南米チリのアタカマ砂漠に完成したアルマ望遠鏡は、2013年より本格運用を開始。既に初期の観測成果が出始めていますが、これから続々と新しい宇宙の姿が明らかにされていくことでしょう。今後の活躍に、ぜひ期待しましょう。

※本コラムは、「本郷宇宙塾」6月の講演を参考に執筆しました。

高梨 直紘
高梨 直紘(たかなし なおひろ)

1979年広島県広島市生まれ。
東京大学理学部天文学科卒業、東京大学理学系研究科博士課程修了 (理学博士)、国立天文台広報普及員、ハワイ観測所研究員を経て現在に至る。
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラムを担当。専門分野はIa型超新星を用いた距離測定と天文学コミュニケーション論。

天文学普及プロジェクト「天プラ」代表
東京大学エグゼクティブ・マネジメント・プログラム

おすすめ情報